Centene Corporation サラ・ウェント氏(タレントアトラクション担当副社長)
トータルタレントソリューションで会社の成長を後押し
Centeneは、候補者に対するアプローチを「アクイジション(獲得)」から、動機づけに重点を置く「アトラクション(惹きつける)」に切り替えている。サラ・ウェント氏に、パンデミックが採用活動にもたらした影響、トータルタレントソリューション導入、リモート採用における工夫、社内人材の活用、採用の組織体制の変化などについて伺った。
インタビュアー=ジェリー・クリスピン TEXT=杉田真樹
【Centene Corporation】1984年設立、マネージドケア(管理医療)と専門サービスの2つの事業を行う医療保険会社。マネージドケアでは、メディケア(65歳以上の高齢者および障がい者向け公的医療保険)、メディケイド(低所得者向け公的医療保険)などの政府補助金プログラムを通じて、個人に医療保険サービスを行う。専門サービスでは、州政府のプログラム、医療機関、使用者団体などに医療サービスや製品を販売する。従業員数は6万8500人(2021年6月時点)。2020年の売上高は1111億ドル。フォーチュン500で24位。
――2020年の採用人数を教えてください。2019年と比べて変わりましたか。
2019年は大きな医療保険プランを複数立ち上げたため、人員を増やす必要がありました。2020年は前年よりもわずかに減少しましたが、2021年も複数の新規事業を開始する予定であり、現在増加傾向にあります。多少の増減はあるものの、採用予定数は高水準を維持しています。
――パンデミックが採用全体にどのような影響を与えたのか教えてください。
主要事業の1つであるマネージドケアのクライアントは政府機関ですが、各地域でさまざまな影響を受けています。また、傘下の事業ユニットやブランドの数は約50ありますが、パンデミックの影響は州や都市、地域によって異なります。その対応策として、市場の変化に打ち克つ人材戦略としてのタレントソリューションを実行しています。
今リクルーティング業界全体は、候補者を惹きつけるためのバリュープロポジションが変化していると感じています。企業のコロナ対策やEVP(Employee Value Proposition、会社が従業員に提供する独自の価値)に対する人々の関心が非常に高まっています。テレワークなど柔軟な働き方に対するニーズも拡大しており、HRは従業員の育児や介護、セルフケアをサポートする柔軟な社内制度について候補者に積極的に伝える必要があります。
トータルタレント戦略に切り替え
――パンデミック以降、採用戦略に変化はありましたか。
1つ目は、候補者に対するアプローチを「アクイジション(獲得)」から「アトラクション(惹きつける)」に切り替えました。アトラクションのほうが、企業研究や求人検索を行う求職者を磁石のように引き寄せ、動機づけを行うプロセスをより的確に表しています。
2つ目は、「トータルタレントソリューション」を取り入れ、正規社員だけでなく、ギグワーカーも含めた非正規社員、SOWコンサルタント(SOWはStatement of Workの略で、明確な契約に基づいて短期のプロジェクトベースで専門サービスを提供するコンサルタントのこと)を含めた包括的な人材の採用と管理を行っています。非正規社員は年に1万5000~2万5000人を採用しており、米国と欧州を合わせた全体の従業員数は7万人以上です。企業買収も行っており、従業員数は増え続けています。
中長期の人員計画として、採用する人材は正社員か、非正規社員か、それともアサインメントを通じた既存の人材の育成が必要なのかなど、各部署のリーダーとともに議論を重ねています。今後は、ギグワーカーの活用が進むと確信しています。各地域に拠点を分散する会社がどうすればギグワーカーを最大限に活用できるのか、さらなる知見を積極的に得る必要があると感じています。
――採用の量や質について変化は見られますか。
採用の量については、不確定要素が多くあります。とくに失業給付が職場復帰の妨げとなる傾向が見られました。労働者は仕事への復帰や今後の見通しについて不安を抱えていました。パンデミック下で家庭における負担が増している中、仕事上での責任を増やしたくないと復職を躊躇する人が多いことから、大量採用における目標値の達成が難しい時もありました。しかし全体的にみれば、満足のいく結果が得られました。
昨年から採用の質を向上させるため、いくつかの戦略を進めています。とくに、会社の今後の発展に不可欠な職種での採用に重点を置いています。そして必要な人材を発掘、確保するため、GTM(Go-to-market)戦略、選考プロセス、オンボーディングなど抜本的な見直しを行っていて、それらは非常にうまくいっています。また、人材を必要としている部署のリーダーの体験や満足度向上のため、アドバイザリーとして採用についての助言を行い、成果が見え始めています。人材紹介会社の費用削減でも成果が見られました。
約2万人の最終面接をオンラインで実施
――オンラインでの面接、選考、オンボーディングは行いましたか。
オンラインイベントプラットフォームのBrazenを利用していますが、従来の採用イベントの開催と、各部署のリーダーが求職者と直接交流し、会社の取り組みやストーリーを伝える機会を設けています。これは非常にうまくいっています。これまでの1年間は、面接はすべてオンライン化し、2万数千人の最終面接も行いました。職種によっては動画面接やZoomによる面接も行い、面接の質を維持するために面接ガイダンスも取り入れました。選考プロセスの大半を自動化し、自動的に候補者を次の段階に進めています。プレボーディングやオンボーディングも、完全なリモートで行いました。
――完全なリモートによる採用の課題を教えてください。
リモート採用の課題は、従業員同士が交流する様子や職場の雰囲気を実際に見せることができないことです。そのため、新規採用者に対して企業文化を伝える方法を工夫するなど、手厚いオンボーディングを重要視しています。社内のタレントマネジメントチームは、これまでオフィス出社することで得られていた体験、たとえばカフェテリアでの同僚との交流や情報交換を、オンラインで再現したコンテンツを多数盛り込み、素晴らしい成果を上げました。
――リモートワークの課題や今後について教えてください。
リモート環境下で働く従業員同士のつながりを深める方法についての、検討が必要です。リアルなオフィスでは、会議の前後に同僚と会話をし、家族や趣味、今取り組んでいる仕事の内容など、お互いについて深く知る機会を得やすいのですが、リモートワークでは、オンライン会議の前後に雑談の時間を設けるなど、つながりを醸成するための工夫が必要だと思います。
私たちも集まることや対面での交流から生まれるイノベーションやコラボレーションの価値を重視しています。しかし、仕事を進める方法はそれだけではありません。1年前に、全従業員が48時間以内でオフィス出社から完全なリモートワークへと、切り替えることができました。これまでに多くを学び、成果を上げてきましたが、未来について考える余地はまだ沢山あると思います。今後の出社方針については、まだ検討している段階です。
――採用テクノロジーなどのツールについては、どのような変更がありましたか。
昨年は、Phenom PeopleのCRM(採用候補者管理システム)を導入しました。今年は、CRMの活用を通じてどのような人材プールを構築するのか、候補者に発信するコンテンツの管理は誰が行うのかを明確にし、システム運用の強化に取り組んでいます。市場には興味深い製品が多数登場しており、いろいろと検討しています。
AIで社内のポストと従業員をマッチング
――新卒採用に変化はありましたか。
新卒採用は、タレントアトラクションの担当外であり、タレントマネジメントチームが管理しています。採用人数は数百人規模です。
1つ目は、インターンシップのオンライン化により地理的な制限がなくなって、学生は住む場所にかかわらず、インターンシップに参加しやすくなりました。また、幅広い地域から人材を確保できるという利点もあります。2つ目は、インターンのデジタルスキルが高く、オンラインでの活用や業務にも難なく適応していました。オンラインインターンシップを成功させるためのアイディアも共有してくれました。
――社内人材の活用に変化はありましたか。
Centeneのバリュープロポジションは、10年間高成長を続けている企業として豊富な機会を提供できる点にあります。応募者がCenteneを就職先として選ぶ理由は、パーパス・ドリブンな業務に携わることと、自身のキャリア形成のためなので、人材育成や人事異動への注力を継続することが大切です。人材育成については、タレントマネジメント部門がさまざまなツールを活用して、人材開発プログラム「Centene University」を運営しています。
採用全体に占める社内調達の割合については、毎年非常に高い目標値を設定しています。 昨年、Phenom Peopleを活用し、社内向けキャリアサイトを開設しました。AIレコメンデーションやマッチング機能で、従業員がプロフィールに登録した興味関心をもとに、社内公募の情報を通知しています。また、従業員インクルージョングループ(Emloyee Inclusion Group)を通じて、従業員による社内人材のリファラルを促進しています。7万人超の従業員がお互いを推薦し、社内のキャリア形成の機会を広める取り組みは、大きな反響を得ています。今後大きな成果がでると確信しています。
採用部門全体のスキルを底上げ
――環境変化に対応して、採用の組織体制に変化はありましたか。
この1年半の間に、タレントアドバイザリー部門ではメンバー全員で、スキルアップ研修、バイアス対策研修、認定ダイバーシティリクルーターの資格取得に取り組みました。これによって、個々が保有している知識やスキルを業務に生かせる体制を整えることができました。たとえば、100人以上が参加するロールプレイ研修を隔週で行っています。毎回2人がロールプレイを行い、意見やアドバイスを積極的に受けています。チームメンバーは成長、進化し、互いから多くの刺激を受けています。今後もさまざまな学びを継続する必要があると思います。
――2022年にかけてどのような変化が起きると予測しますか。また、今後の計画を教えてください。
候補者の変化については、完全なリモートワークか、それともリモートワークとオフィス出社のハイブリッド型がよいのか、自身にとっての今後の最適な働き方を模索していると思います。企業は候補者のニーズに応えるため、どの程度の柔軟性を提供するか検討する必要があります。
また、パンデミック下で企業がどのように世の中の人々をサポートしているか、パンデミック収束に向けてどのような取り組みを行っているかという点についても高い関心を示しています。こうしたテーマに今後も取り組む必要があると思います。
人材の採用については、現在、自身の採用決定が会社にどの程度の影響を与えているのか、会社やチームに貢献できる人材を採用できているのかを部門のリーダーが把握するための指標作成に取り組んでいます。今後は、採用の成功を促進するためのツールやリソースをリーダーに提供する予定です。また、採用テクノロジーの選別や活用の強化にも継続的に取り組むつもりです。
- 候補者に対するアプローチを「アクイジション」から「アトラクション」に切り替えた。また、正社員や非正規社員などの就業形態に関わらず、HRが採用を一括管理するトータルタレントモデルにシフトした。今後はギグワーカーの活用が進むだろう
- イベントプラットフォームの活用、動画面接、選考の自動化、オンラインオンボーディングなど、母集団形成からオンボーディングまで、すべてリモートで行った。2万数千人の最終面接もオンラインで実施した
- AIによる社内ポストと従業員のマッチング機能を備えた、社内向けキャリアサイトを開設し、社内人材の活用を促進した
- バイアス対策研修、認定ダイバーシティリクルーターの資格取得、ロールプレイ研修など、タレントアドバイザリー部門全体のスキルの底上げに取り組んだ