Quadient シェリア・グレイ氏(グローバル人材獲得担当副社長)

全社でスキルベースの価値観を共有し、柔軟なキャリアパスを提供する

2022年07月05日

グローバルIT企業のQuadientは、学位を持たない人材や異職種からキャリアチェンジする人材を積極的に採用している。海外拠点や子会社を含む会社全体でスキルを重視する文化を共有しており、入社後の職種転換にも柔軟に対応している。グローバル人材獲得担当副社長のシェリア・グレイ氏に、同社におけるスキルベース採用の概要を伺った。

 

【Quadient】1924年設立、本社所在地はフランス・バニュー。郵便に関するITサービス・コンサルティングおよび、売掛・買掛金管理ソフトウエアを開発する。元は郵便料金のメーターなどのハードウエアを開発・販売していたが、会計ソフトウエアの開発・販売も始め、ソフトウエアエンジニアの採用を増やしている。世界の主要都市に約40の拠点を構え、90カ国で事業を展開している。技術拠点はチェコ共和国にあるが、デジタル職は各国に点在している。従業員数5800人超。

――Quadientでは学位がないデジタル人材を積極的に採用していますが、これは人材不足への対応策として行っているのでしょうか。

確かに、業界では人材不足が課題になっていて、解決には企業文化の変革が必要だと言われています。その1つがスキルベース採用で、一定のスキルと経験があれば、学位は「必須条件」ではなく、「あると良い条件」だと考える企業が増えてきました。

Quadientは以前からこの選考方法を取り入れています。候補者に対しては経験や訓練によって向上できることや、組織の価値観と一致していることが重要と考えます。当社の技術グループは独立運営しており、募集要件は部署のマネジャーの裁量で決めています。ただ、スキルベースの姿勢が会社全体に浸透していなければ、1つの部署で学位を持たない人材を採用しても、後に社内で異動させることが難しくなります。当社は拠点が多くあり、国によってガイドラインが違うため、会社の方針としてスキルベース採用を実施しているわけではありませんが、買収したスタートアップ企業3社も含めて「学位は必要ない」という価値観が主流です。よって、どの部署で採用しても、従業員が違う職務に異動したければ、組織内のキャリアパスを歩むことができます。

デジタル領域の学位や経歴がない人も職種転換が可能

――もとはデジタル職でない人でも、デジタル職のキャリアへ進むことができるのですか。

当社はデジタル職に関して柔軟性があるので、職種転換は可能です。あるいは、私の姉のように技術領域のなかでキャリアの焦点を変えることもできます。姉は電気技師からテストエンジニアに転身し、キャリアを重ねるうちにソフトウエア開発の道に進みました。

スキルをアップグレードする機会があれば、技術職でなくてもソフトウエアのキャリアへ移行することは十分可能です。以前は大変珍しいことでしたが、現在は、Girls Who Codeのように、異なる職種の人材にコーディングを教えて、ソフトウエア開発者としての転職を推進する団体が多数あります。当社では、ブートキャンプ(※1)を修了した人を多く採用しており、今後さらに増やす予定です。また、社内の技術者たちが営業部門のデジタル・イネーブルメント・プログラム(※2)を行っており、営業職の従業員にもデジタルスキルを身につけてもらっています。今後、若手の営業職でデジタル職への転身を希望する人がいれば、受け入れたいと考えています。

活躍が期待される人材は、行動特性で見極める

――ソフトウエア開発職に就くために、必要な条件は何でしょうか。

条件が最も低い職務では、ハードスキルは、OOP言語(※3)の知識と1年の実務経験、そして優れた分析能力が必要です。ソフトスキルは、当社の事業は製品開発であり、またリモート会議で常に5、6カ国語が飛び交うような多彩なメンバーと仕事を進めることから、起業家精神やテクノロジーに関する先見性、協調性などを求めています。当社は、100年近い歴史がありながらも、スタートアップのような企業文化なので、このユニークな職場環境に関心があることも重視しています。

――職務に必要なスキルや特性を持つ人を、どのように見極めているのでしょうか。

ハードスキルについては、コーディング試験やハッカソンを実施しています。ソフトスキルについては、私のチームではPlum(※4)という産業・組織心理学系のアセスメントツールを利用しています。候補者の行動特性を測り、職務で求められる行動特性と一致するかを確認することで、入社後の活躍を予測することができます。

Plumは企業に対して、選考プロセスの最初に同社のアセスメントを実施して、職務に適性がある人材に絞ってから次のプロセスへ進めることを推奨しています。しかし、それでは残る候補者が多すぎることや、アセスメントを受けたくない候補者もいることから、当社では先に書類選考と電話選考で候補者に意思確認を行います。その後Plumのアセスメントを実施して、ソフトウエア開発の責任者が技術面接を行います。技術面接はコーディングスキルに焦点を当てたもので、候補者がどのようなコードを書くのかを確認します。持ち帰る課題を出して、後から提出してもらう場合もあります。

入社後はメンターによる指導でキャリアアップを後押し

――入社後は、特別な研修を行うのでしょうか。

はじめに、ほかの領域の入社者と同じく、会社のオリエンテーションを行います。その後、上級のソフトウエア開発者が入社者とペアを組み、指導とメンタリングを行います。従業員からは、「自分が目指すキャリアの最終目的地へ到達するには、どうしたらいいのか」という質問を必ず受けるので、キャリアパスとスコアカードを作成している組織もあります。キャリアパスでは最終目標までのルートを示し、スコアカードで次の職務の業務内容と必要条件、従業員がどの程度その条件を満たしているかを可視化します。そして、次の職務で求められる新しいスキルを身につける手助けをし、従業員のキャリアをバックアップします。

インタビュアー=ジェリー・クリスピン(CareerXroads) TEXT=石川ルチア

 

ポイント
  • 学歴や職歴よりも、候補者のポテンシャルと会社の価値観との一致を重視する姿勢が全社に浸透している。
  • デジタルスキルを習得した営業職など異職種からの転換にも、柔軟に応じている。
  • 入社後は、上級のソフトウエア開発者がメンターに付き、キャリアアップをサポートしている。

(※1)ブートキャンプは、短期集中型の研修。
(※2)デジタル・イネーブルメントとは、デジタルトランスフォーメーションの前段階である、最新のデジタルツールを用いた業務効率改善や従業員体験の向上のこと。デジタル化やデジタイゼーションともいう。
(※3)OOP言語は、オブジェクト指向プログラミング(object-oriented programming)言語のこと。JavaやC++、R、Pythonなどがある。
(※4)Plumは産業・組織心理学の知見をもとに開発したアセスメントで、個人の性格と問題解決力、状況判断力および社会的知性を測定する。これらを総合する行動特性は、入社後の業績を予測する因子として教育や経験よりも4倍高いという研究結果があり、Plumは学位と実務経験によらない選考方法を推奨している。

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