Trinity Health Michigan ジュリー・マクファーランド氏、レイチェル・クリーブランド=ホルトン氏

アセスメントによって職務との適性、行動面接によって行動修正する力を明らかにする

2022年09月30日

Trinity Health Michigan(旧Mercy Health)は、2010~11年にスキルベース採用のプロセスを開発し、導入した先駆けの団体であり、ホワイトハウスでプロセス開発の取り組みについて共有した実績を持つ。ジュリー・マクファーランド氏は2019年まで同団体の労働力開発エリアマネジャーを務めており、スキルベース採用導入の責任者であった。レイチェル・クリーブランド=ホルトン氏は、Trinity Health Michiganが利用する「JOFIアセスメント」を開発したMetrics Reportingで、コンサルティングサービス部門長を務めている。両氏に、Trinity Health Michiganでのスキルベース採用導入の経緯と、JOFIアセスメントによるデータに裏付けされたスキル評価について聞いた。
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【Trinity Health Michigan】1827年設立、本部所在地は米国ミシガン州。カトリック系医療機関Trinity Healthの一員で、2022年4月にMercy Healthから名称変更。親団体のTrinity Healthは88の病院や125の救急医療機関を運営し、PACEプログラム(高齢者向けのオールインクルーシブ・ケア)は米国で2番目の規模。グループ従業員数約11万5000名、医師および臨床医数2万6000名。

――Trinity Health Michiganでは、「エビデンスにもとづく医療」を人材獲得に応用してスキルベース採用を始めました。導入の経緯をお聞かせください。

マクファーランド氏:エビデンスにもとづく医療とは、治療などの医療行為を決定する際に、医療研究や臨床で実証された結果とデータを重視することです。これを採用手法に適用すると、アセスメントでスキル、性格、興味のある領域などを測定し、客観的なデータにもとづいて、職務適性のある人材を採用することになります。つまり、スキルベース採用の方法の1つです。2010年当時のCHRO(最高人事責任者)トム・カレル氏とMetrics Reportingのビル・ゲスト氏が、人材獲得でもこの手法を取り入れることを決め、Trinity Health Michiganでスキルベース採用を開始しました。

クリーブランド=ホルトン氏:米国には、労働省が運営する世界最大の職業情報データベースの「O*NET」があります。O*NETでは、職種を1100のジョブコードに分け、各々の業務内容、必要な行動特性や知識、職業上の能力などを詳細に記載しています。O*NETのデータベースは定期的な職務分析によって、常に最新の状態が保たれています。

たとえば、ソフトウエアの品質保証アナリストであれば、テクニカルスキルとしてAirtableなどの「データベースのUIおよびクエリソフトウエア」、Apache Antのような「開発環境ソフトウエア」などのスキルが記載してあります。ソフトスキルでは、問題解決に対する代替案を論理的に検討できる「批判的思考力」、基礎能力には、「演繹的推論」と「帰納的推論」、問題がある、あるいは起きそうなことを認識できる「課題発見力」などが職務上の能力として挙げられています。このように、企業はO*NETを使って、求人職種に最も近いジョブコードを探し、そこに記載されている能力をアセスメントと面接で確認できるようになっています。

O*NETと連動したアセスメントで候補者の行動特性を評価する

――どのようなアセスメントでジョブコードに記載されている能力を評価するのでしょうか。

マクファーランド氏:資格が必要な職種、たとえば看護師は最初にテクニカルスキルを確認しますが、ほかの職種に対しては、Trinity Health Michiganでは行動特性を先に測定します。産業組織心理学で「仕事でのパフォーマンスを予測するのはテクニカルスキルだけでなく、個人の行動特性」ということが明らかになっているためです。また、人材不足の状況では、人員確保のためにスキルや経験不足の人材を採用し、入社後に研修でテクニカルスキルの不足を補うことができるため、採用プロセスとして、候補者の資質や行動特性のアセスメントを優先する方が合理的だと考えています。Trinity Health Michiganでは、Metrics Reportingが開発した「JOFIアセスメント」を利用しています。

クリーブランド=ホルトン氏:JOFIアセスメントは、米軍が人材配置を行うために開発したアセスメントをもとにしており、時系列データによって予測妥当性の高さが検証されています。「思考能力アセスメント(※1)」、Big Five理論(※2)をもとにした「性格検査」と、RIASEC(※3)をもとにした「職業興味検査」の3つの構成になっています。O*NETで募集職務に必要とされている基礎的なコンピテンシーと、候補者のアセスメント結果を照合してマッチング度合いを表示します。

図1はJOFIアセスメントの結果の一部で、ソフトウエア開発職に必要な思考能力と性格(右側)と、候補者(左)が適合しているかを表示したものです。白い四角は職務で求められる基準、緑は候補者の結果が基準よりも高い、赤は候補者の結果が基準よりも低い、黄色は候補者が基準と同じ、を意味します。星印が付いている項目は、ソフトウエア開発職で特に重要とされる認知能力と性格です。たとえばこの候補者は、「思考能力 全体」が求められる4よりも9と高いので緑で表示され、「責任感」は基準の5よりも4と低いため赤で表示されています。

【図1】ソフトウエア開発職に応募した候補者のJOFIアセスメントの結果(一部)
ソフトウエア開発職に応募した候補者のアセスメント結果のサンプル

行動面接では、候補者が自分の特性を自覚して行動修正ができるかを確認

――アセスメント結果で、職務で必要な基礎能力と適合している人を面接に進めるのでしょうか。

マクファーランド氏:基本的にはそうですが、ここで強調したいのは、アセスメント結果だけで職務との適性を判断するのではなく、行動面接と合わせて判断することです。面接担当者は、職務に重要とされる認知能力や性格、職業興味(星印)で候補者の結果が基準より低いものについてのみ、確認する必要があります。行動面接では、候補者が過去に困難な状況をどう対処したかを掘り下げて聞き、自分の特性をうまくコントロールできるのか、つまり行動修正ができるかどうかを判断します。行動修正ができれば、思考能力や性格、職業興味が適合しなくても、業務で高い成果を上げられる可能性は大いにあります。

たとえば、私は「協調性 全体」のスコアが高くありません。協調性が重要な職務に応募した場合、アセスメント結果だけを見れば、私は採用されないでしょう。Trinity Health Michiganでスキルベース採用の導入を指示されたときも、私は「うまくいくはずがない」と非協力的な意見を持っていました。しかし、私は自分の特性を自覚しつつ、カレル氏やゲスト氏に対して「思いやり」「誠実性 全体」といったスコアが高い特性で協力することで、導入を成功させました。行動面接では、このような行動修正を行えるかどうかを明らかにします。JOFI アセスメントには面接ガイドがあり、それぞれの能力に対して質問文を用意しています。面接担当者はそのガイドを参照して、候補者の行動修正を正しく評価することが重要です。行動面接で候補者の職務との適性やソフトスキルを正確に把握しておくことで、現場のマネジャーは次の段階でテクニカルスキルの評価に集中できます。

アセスメントとの併用で、徐々にスキルベース採用に切り替える

――採用手法が大きく変わるスキルベース採用の導入には、チェンジマネジメントが不可欠です。導入を考えている企業にアドバイスはありますか。

クリーブランド=ホルトン氏:企業は、自社の採用手法にこだわりがあります。マネジャーにとって採用はセンシティブなものですから、これまで判断材料としていた学歴や職務経歴の条件を撤廃するのは、勇気がいることです。スキルベース採用の導入を検討している顧客企業には、当面は今の募集条件を維持しながら、JOFIアセスメントを試用することを勧めています。「これまでは批判的思考力の判断指標として高校卒業資格を条件としていたが、20分のアセスメントで測定できるなら、学歴の条件は撤廃してもよい」とスキルベース採用を導入するメリットを理解していただけるようになります。

マクファーランド氏:採用プロセスを変革することは、簡単ではありません。しかし、スキルベース採用を導入することで、企業はさまざまな効果を実感できると思います。Trinity Health Michiganでは離職率が下がり、採用にかかる期間が短縮しました。また、特段多様性を向上させる取り組みを行わなかったにもかかわらず、客観的なスキル評価を用いることで、ダイバーシティ採用の人数が増加しました。私たちは、スキルベース採用の導入によって、候補者を一人の人間として見ること、そして、行動分析学にもとづく面接やツールを使って候補者の適性を検証し、データに基づいた意思決定をすることを学びました。

インタビュアー=デビッド・クリールマン(Creelman Research) TEXT=石川ルチア

 

ポイント
  • 労働省の職業情報データベース、O*NETは、定期的に情報が更新されている。企業はO*NETで募集職務に必要な基礎能力と職業能力を特定し、JOFIアセスメントで候補者の思考能力や性格、職業興味が適合するかどうかを評価することができる。
  • JOFIアセスメントによる思考能力、性格、職業興味のアセスメントに加えて、行動面接で候補者がどのように行動修正をし、業務を遂行できるかどうかを見て、総合的に判断する。
  • スキルベース採用に関心がある企業は、現在の採用手法を継続しながらJOFIアセスメントを試行することで、学歴や職務経歴の条件は不要だと次第に理解するようになる。

(※1)批判的思考力と問題解決力を示す3つの能力を測定する――類義語と対義語の知識で測る「読解力」、フォームへのデータ入力やフォーム内容の読み取り試験で測る「情報リテラシー」、基礎的な計算問題で測る「基礎数学力」。
(※2)心理学者ゴールドバーグ氏が提唱した、個人の性格特性を5つの因子(開放性、誠実性、外向性、協調性と情緒安定性)の構成でとらえる理論。Big Five尺度は因子を数値化して測定するもので、日本企業の適性検査にも広く応用されている。
(※3)心理学者ホランド氏が提唱した職業選択理論では、個人は職業興味と一致する環境に身を置くことで仕事や勉強の成果が高くなるとし、職業興味を次の6つに分けている――現実的(Realistic)、研究的(Investigative)、芸術的(Artistic)、社会的(Social)、企業的(Enterprising)、慣習的(Conventional)。これらの頭文字をとってRIASECと呼ぶ。

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