Indeed スコット・ボノー氏(グローバル人材獲得&HRアナリティクス担当副社長)
入社後の3カ月間はIndeed Universityで製品開発に取り組む
Indeedでは、数年前から大半の職種で学位の条件を撤廃し、スキルと適性を重視した採用を進めている。若手の入社者にはインキュベーション型プログラム「Indeed University」を実施し、新しい製品を構築する体験を通して、成長しながら成果を出していく環境を整えている。エンジニアリング部門の責任者を歴任し、現職は人材獲得領域の副社長であるスコット・ボノー氏に、デジタル人材を採用する過程と採用後の育成について聞いた。
【Indeed】2004年設立、本社所在地は米国テキサス州オースティン。米国を中心に世界60カ国以上、28言語で求人サイトを展開する。求人の検索、履歴書の登録、企業研究の機能を無料で提供する。月間ユーザー数は2億5000万人超で、世界で最も多くの求職者に利用されている(※)。従業員数約1万2000名。
〈Indeedについて(外部リンク)https://jp.indeed.com/about 〉
――Indeedでは、どのような背景からスキルベース採用をしているのでしょうか。
2年前ほどから、学位が法的に必要とされている職種以外では、募集要件から外すことを意図的に進めてきました。最近は、ブートキャンプや職業訓練機関など、ソフトウエア開発職に就く経路が複数あります。経済的な事情から大学や工科大学へ進学できない人が多いため、学位を必須とすることは、不必要なバイアスをかけることになります。スキルベース採用は選考プロセスが極めて実践的なので、ソフトウエア開発や製品設計のような職種に非常に有益だと思います。
テクニカルスクリーニングでは、問題解決とコーディングのスキルで合否を判定
――候補者に実践的なスキルがあるかどうかを、選考プロセスでどのように評価するのでしょうか。
選考プロセスは、テクノロジー領域での経験の有無にかかわらず、テクニカルスクリーニングと、候補者が携わったプロジェクトについて説明してもらう面接で構成しています。ソフトウエア開発職に重要なのは、プログラミング言語の1つを極めていることです。インターネット業界で使用される言語は数年ごとに変わりますが、1つの言語でコーディングの問題を解くことができれば、ほかの言語の習得は速いはずです。さらに、問題の本質を理解する能力や、自分の伝えたいことをプログラミング言語で流暢に表現する能力も重視します。
通常は問題解決スキルを実証するテクニカルスクリーニングから選考を始めます。候補者は、出された問題を解決するためのプログラミングをオンラインエディターで行います。候補者の潜在能力やテストコードに対する考え方、コードの品質などを把握できる質問を設計しています。能力がある人材を可能な限り次の選考へ進めるために、過去のデータから合格した人数とオファーを出した人数の比率を検証し、適切な合格ラインを決めています。
面接では、プログラミングの演習問題と職務経歴を説明してもらいます。たとえば、プログラミング演習では得意な言語と使い慣れたツールを使って、短時間で小さな問題を解いてもらいます。また、職務経歴書を見ながら、候補者が手掛けたプロジェクトや構築した製品について掘り下げます。説明から、プロジェクトや製品に対する理解度や、全体における候補者の役割などを把握します。
――プログラミング言語で「流暢に表現する」とは、どういうことでしょうか。
話す、書く表現と同じように、ソフトウエア開発の世界でも、自分の伝えたいことがコードを通して、他者に正確に伝わることが重要です。エンジニアの仕事の大部分は、ほかのエンジニアが書いたコードに書き足す、変更を加えることで、ソフトウエアを改善する作業です。つまり、自分が書いたコードをほかのエンジニアが見たときに、どのような動作をさせるコードなのかを即座に理解できることが重要です。たとえば、5行のコードで簡潔に記述しても、ほかのエンジニアが理解できなければ意味がありません。また、わかりやすくても100行と長ければ、バグが発生する可能性が高まり、メンテナンスが大変です。効率的で、可読性や保守性に優れ、テスタビリティも兼ね備えた最適なコードは、美しくエレガントです。
入社後の3カ月間は、実務に近い環境で製品開発に携わる
――入社して戦力になるまでには、どれぐらいの期間をみていますか。
従業員が入社後すぐに成果を出せるかは、職務のレベルによって異なり、U字型のグラフになると考えています。キャリアの浅い人は、プロのソフトウエア開発者になるために時間が必要ですが、ミドルレベルの人は、3~6カ月と比較的早く戦力になります。上級職の人も、馴染むのには少し時間がかかります。数十億ドルの収益が見込まれる大規模なシステム設計や製品開発に携わるため、たとえば20年分の数百万行のコードがどのように動作するのかを把握する必要があるからです。
――人材を早期に戦力化するための導入研修やオンボーディングを実施していますか。
Indeedでは、新卒者やブートキャンプ修了者などデジタル領域での経験が浅い人材に対して、「Indeed University」というインキュベーション型のプログラムを実施しています。このプログラムは、若手人材が当社での働き方を体験し、修了までの3カ月間に製品を一から構築することを目的にしています。
最初に、当社のビジネスモデルや製品群などを紹介し、事業課題を解くときの主な測定基準を説明します。社内で活躍しているエンジニアや製品開発職の従業員が、インストラクターやメンターとして3カ月間職場を離れて指導します。
その後、新入社員はエンジニア、デザイナー、データサイエンティストなど異なる職種でチームを作り、取り組むビジネスチャンスや課題を決定して、構築したい製品の案を全体に向けて提案します。毎週、CEOに最新のデータと試作品を提示して論評してもらいながら、彼らにとって最初の大きな作品を作り上げます。実際に予算が下りて既存製品に追加された案件もあり、効果が高い研修プログラムとして10年以上続いています。
デジタル領域の潜在能力を秘める人材の発掘に期待
――スキルベース採用は、デジタル人材の獲得にどのようなメリットがあるのでしょうか。
これまでで最も有能だったエンジニアリーダーは、もともとは別の職種に就いていた女性です。インターネット業界では、高い成果を上げたエンジニアがリーダーになることが多いのですが、実務能力が高い人が必ずしも管理職に適しているとは限りません。しかし彼女は、有能なエンジニアを奮起させてサポートできるリーダーでした。テクノロジー分野の学位やキャリアがなくても、潜在能力が高く活躍が見込まれる人材はほかにも多くいるはずです。現在、テクノロジー業界がスキルと適性を重視して、多彩な人材を採用し始めていることに大きな期待を寄せています。
インタビュアー&TEXT=石川ルチア
- 選考プロセスでは、候補者にテクニカルスクリーニングと面接でコードを記述させることで、実践的なコーディングスキルや問題の解き方を評価する。また、候補者の職務経歴や過去のプロジェクトの経験から、募集職務との適性を確認する。
- 誰が見ても理解でき、簡潔でメンテナンスしやすいコードを書けるかどうかを判定する。
- 未経験の新入社員向けのインキュベーション型プログラム「Indeed University」では、3カ月間実際の業務と近い環境で、社内で活躍している従業員のサポートを受けながら、製品を一から構築する。
(※)comScore、総訪問数 2021年3月。