Thoughtworks マーカス・ソープ氏(人材獲得グローバル統括責任者)

キャリアチェンジャーの高い業績を受けて、スキルベース採用を拡大予定

2022年06月28日

IT企業Thoughtworksでは、デジタル職へキャリアチェンジする人材のスキルベース採用を意欲的に行っている。キャリアチェンジャーは顧客対応などのソフトスキルに優れており、入社後の業績が高いという。さらに、新卒入社者の在籍期間や昇進スピードに好影響を与えることも、データで確認できている。同社のスキルベース採用について、人材獲得グローバル統括責任者のマーカス・ソープ氏に取材した。

 

【Thoughtworks】1993年設立、本社所在地は米国シカゴ。ソフトウエア開発およびITコンサルティングを手掛ける。アジャイルソフトウエア開発の草分けで、テクノロジー主導の変革を支援するコンサルティングサービスやオープンソースソフトウエア製品などを提供する。世界17カ国に拠点を持ち、従業員数は約1万人。同社の採用ページでは、キャリアチェンジする人やブートキャンプの修了者に対しても応募を積極的に働きかけている。

――Thoughtworksでは、テクノロジー領域外からの転職者も、ソフトウエア開発職の採用対象にしています。その背景を教えてください。

当社が拠点を置く数カ国で、テクノロジー領域外からの転職者(以下、キャリアチェンジャー)を実験的に採用したところ、コンピューター関連分野を専攻した新卒入社者(以下、新卒入社者)と業績データに差がありませんでした。2つのグループが持つスキルの組み合わせは当然異なります。キャリアチェンジャーは、アルゴリズムやデータ構造など技術的なスキルが若干低かったものの、顧客対応などのソフトスキルに関しては、社会経験を積んでいる分、優れていました。そして、6週間の集中研修後、彼・彼女らの業績について、非常に良いフィードバックを受けました。今では、キャリアチェンジャーを採用する割合が高まっています。

基本的な技術スキルの評価にはアセスメントツールを利用

――どのように選考するのでしょうか。

学生やキャリアチェンジャーにはHackerRank(※1)のアセスメントを実施して、業務に必要なテクニカルスキルを持っているかどうかを確認します。合格ラインの範囲内にいる候補者は、ペアプログラミングの練習問題に進みます。その後、技術面接と当社との文化的適合性を確認する面接を経て、地域によっては、最後に上級職との面接もあります。バイアスを防ぐため、面接担当者には、それ以前の面接内容を共有しません。人事部の担当者がフィードバックを集約して、面接をした全員でその候補者を採用するかどうかを決定します。

一方で、デジタル領域でのキャリアがある中途採用においては、HackerRankを使用しません。ダイレクトリクルーティングをすることも多いため、当社からアプローチしておきながらアセスメントを受検してもらうのは、やや不誠実だと考えるからです。内定承諾率を高めるには、個人的な接触をできるだけ多く持っておくことが重要です。学生の場合は、応募数が多いためフィルタリングする方法が必要ですが、アセスメント結果は採用する決め手ではないので、必要なところでの利用にとどめています。

学習能力を重要視。6週間の集中研修で配属前にスキルを磨く

――キャリアチェンジャーの選考で、重視するスキルや能力はありますか。

学習意欲と学習能力です。当社のキャリアチェンジャーの多くは、Codecademy(※2)を受講した人です。別の分野の学位を取得した後で、自分のお金と時間を費やしてコーディングを学んだことからも、その人に学習意欲と能力があることは明らかです。
技術的な最低条件は、OOP言語(※3)を1つ以上使えることです。

――入社後は、6週間の集中研修があるとのことですが、どのような内容なのでしょうか。

テクノロジー業界での経験が12カ月未満の入社者を対象に、Thoughtworks University(以下TWU)というプログラムを実施しています。修了する頃には、顧客が当社に求める水準に能力が達するよう設計されていて、熟練した社員がトレーナーを務めます。世界中から入社者が集まり、人里離れた場所で生活しながら学びます。

TWUでは、テクニカルスキルとソフトスキルの両方を研修します。キャリアチェンジャーは、新卒入社者よりも高いソフトスキルを持っているので、コーディングなどのテクニカルスキルに力を入れます。業務では社内外の開発者とペアプログラミングをする機会が多いため、特にその訓練を重視します。ソフトスキルでは、配属後すぐに顧客にプレゼンができるように、コンサルティングのスキルを研修します。この入社後の集中研修の効果が高いゆえに、実務経験のないキャリアチェンジャーを採用することができます。

――TWUのほかに、オンボーディングとして行っていることはありますか。

私たちは入社1年目の経験を重要視していて、採用チームのなかにGEL(Graduate Experience Liaison)という、入社者をサポートする担当者を置いています。たとえば、メンターやバディを見つける手助けをしたり、当社で使っているツールやシステムの利用を支援したりします。そして、入社者の強みや興味があることを特定して、顧客のプロジェクトに配属します。

キャリアチェンジャーは同期入社の新卒者にも好影響

――スキルベース採用の効果は表れていますか。

前述のように、キャリアチェンジャーの業績についてポジティブなフィードバックを得たことに加えて、新卒入社者のキャリアにも好影響が見られました。入社時期でコホートを分類して分析すると、キャリアチェンジャーをTWUに加えたことで、新卒入社者がより長く在籍するようになり、昇進のサイクルも早くなり、また多様性も向上するといった効果があったのです。このような大きな成功を受けて、今後もキャリアチェンジャーの採用を拡大したいと考えています。

インタビュアー=ジェリー・クリスピン(CareerXroads) TEXT=石川ルチア

 

ポイント
  • 社会人経験があるキャリアチェンジャーは、顧客対応やコンサルティングなど高いソフトスキルを持っている。6週間の研修プログラム「Thoughtworks University」でテクニカルスキルを磨くことで、配属後に高い業績を上げている。
  • 同社は、入社1年目を重要視し、オンボーディングに力を入れている。採用チームのなかに連絡窓口を設けて、研修修了者がメンターやバディを見つけたり、会社のツールを覚えたりするサポートをしている。
  • キャリアチェンジャーと新卒入社者が共に研修を受けることで、新卒入社者の定着率や昇進スピードが高まり、会社全体の多様性も向上している。

(※1)HackerRankは、開発者のコーディングスキルを評価するためのテクニカルアセスメントプラットフォーム。オンライン面接のサービスもある。
(※2)Codecademyは、15種類のプログラミング言語を学べるオンラインプラットフォーム。基礎コースは無料。
(※3)OOP言語とは、オブジェクト指向プログラミング(object-oriented programming)言語のこと。JavaやC++、R、Pythonなどがある。

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