Z世代は何が同じで何が違うのか──古屋星斗
「世代」というマジックワード
「世代」はいつの時代にも議論の的とされてきた。Z世代の前にはミレニアム世代があり、ゆとり世代、就職氷河期世代、新人類…等々と遡ることができる。また、Z世代の次の世代が、すでに米国ではアルファ世代と言われているそうだ。
さて、現在も世代論の特徴として、「Z世代は〇〇だ」「他の世代と異なりこういった特徴がある」という言説が盛んである。今回はこの言説の、特に仕事やキャリア選択に関わる価値観の部分について、リクルートワークス研究所が収集したデータを使って検証してみたい。
結論を先に申し上げれば、単純な「最近のZ世代は〇〇だ」といった十把一絡げの論が通用する範囲はそれほど大きくなさそうである。
他世代と違う部分・同じ部分
データは、リクルートワークス研究所が2022年に実施したインターネット調査(※1)である。サンプルサイズは2904。主対象として16~19歳を1615サンプル(※2)、比較のため30~39歳を616サンプル、40~49歳を606サンプル、回答を得た。それぞれの年代層について性別・居住地で割付を実施して集計した(※3)。
全対象に対して価値観に関する同一質問をたずねており、このために、世代間で現在(回答時点)の考え方・価値観について比較することが可能である。他方、過去の10代にこうした質問をした結果と比較するものではないため、あくまで「現在の考え方・価値観が世代間でどう違うのか」を見るための材料である。
順に見ていこう。
まず、まわりの人との関係性に関する価値観について図表1に整理した。「人から羨ましがられることは、自分にとって重要である」や「自分が行動するか否かを決める際、友人にどう思われるかが重要な判断材料になる」について、10代のあてはまる割合が他の世代と比較して極めて高い。SNSを使いこなすなかで、常に自他の状況が可視化されたことで起こった変化だろうか(※4) 。
ただ、まわりの人との関係性に関する価値観がすべて30代・40代と異なるわけではない。例えば、「自分ひとり、または誰かひとりが褒められるのは、好きではない」については10代(36.1%)と30代(32.8%)では差がない(有意差検定では5%水準で有意な差がない)し、「友人や知人に嫌なことをされたら、本人に直接言うより、付き合いを止めたり減らす方が良い」も全世代で差がなかった (※5)。これらは10代特有の傾向ではない。
概して、可視化された自分の情報のコントロールに関する部分は10代が高いが、他の部分には30代・40代とそれほど大きな差はない。他の部分の高低については世代というよりもっと別のファクターがあると考えるのが妥当であろう。
図表1:まわりの人との関係性に関する価値観(世代別)(%。あてはまる計 (※6))
会社・組織との関係に関する価値観についても30代・40代との違いが出ていた。何か違うと思ったら会社を辞める、ハラスメントや不正があれば相談する、ハラスメントや不正があれば会社を辞める、の3項目ともに「あてはまる」と回答した割合は10代が最も高かった。
米国では大量退職時代と言われ、9割を超える若手が現職の退職を考えているという調査もある (※7)。そのひとつの原因として、企業の利益追求に対する共感が低下していることが指摘されている。その対応として「パーパス経営」が叫ばれる昨今、社会性の高い企業活動が期待される中で、経営姿勢への違和感や不正・ハラスメントなどの職場倫理への疑問が、組織への信頼低下につながりやすいことが確認できた。
図表2:会社・組織との関係に関する価値観(世代別)(%。あてはまる計)
仕事に関する価値観については、意外かもしれないが10代において30代・40代よりもストイックな結果となっている。
「仕事には我慢が伴うものだ」は30代・40代と有意な差がない。
「少なくとも若いうちは、辛くても自分が成長できる環境に身を置きたい」「何かを買うために、お金を稼ぐことを頑張れる」については10代が比較すると高い結果となった。努力して頑張ろうという気持ちは、現在の30代・40代と比較して決して弱いわけではないのだ。投入した努力量と報酬の関係についてのシビアな見方は「コスパ」という若者言葉にも表れるように(※8) 現実主義的であるのかもしれない。この点は次の図表4でも触れる。
また、「・・・場面によって、どのような自分を見せるか使い分けたい」は若いほど高い。多元的自己論(※9)として研究されているが、様々な場で様々な自分のペルソナを使い分けて幸せに人生をおくっていきたい、という志向と考えられよう。
図表3:仕事に関する価値観(世代別)(%。あてはまる計)
また、努力が報われることへの価値観(努力応報観)についても回答を得ているが、30代・40代との比較において5%水準で有意な差は見られなかった。能力と報酬との関係についても同様である。この点について10代特有の価値観の傾向は観測できない。
図表4:努力・能力応報観(世代別)(%。あてはまる計)
また、もうひとつ、「今」に対する価値観を図表5に示した。こちらは「どうなるかわからない将来よりも、今を大切にするという考え方に賛同する」では10代が高いが、「今日という時間は二度とないから、今を大切にするという考え方に賛同する」では有意な差がない。YOLO(You only live once)が欧米のネットスラングとなって久しいが、こうした心理的状況自体は10代特有というよりは、社会変化による世代間の横断的なものと考えられるかもしれない。そのなかで、特に10代は「将来よりも今を大切に」という気持ちがより強いということだろう。
図表5:「今」に対する価値観(世代別)(%。あてはまる計)
二極化する10代
さて、もうひとつ興味深いことを紹介したい。
例えば、「自分が所属するコミュニティ(学校、職場、地域など)のルールやしくみに不満がある場合、提案するなど自ら変えるための行動を起こす」については、10代が「あてはまる」側も「あてはまらない」側も多く、つまり行動を起こす層と行動を起こさない層が両方とも、30代・40代よりも多い状況にある。こうした場合に「どちらともいえない」という中間回答が減少する。
こうした状況を「二極化」と捉える。
他にもある。いくつかあげると例えば、「他人が幸せか否かには関心がない」についても同様の二極化傾向が見られている。関心がない層は30代・40代と比較して減っていないが、関心がある層は増加するという形である。
また、「将来も、地元を離れたくない」についても、こちらは30代で見られる「あてはまる」=地元志向が高い状況から、地元志向層が減り、地元を離れる層が増えるという形で結果として、地元志向層と地元を離れる層がほぼ同じ割合となっている。若者の地元志向言説もかなり流布されており、確かに30代においてその傾向が見られるが、10代においてはまた状況が変化してきている可能性もある。いずれにせよ、地元志向はすでに若者の平均値ではない。
図表6:二極化傾向が見られた項目の例(%。あてはまる計)
さらに、就業先意向について、現在の10代では30代・40代と比べて「将来は、大企業に勤務したい」者も多いが、「将来は、独立・起業したい」「将来は、ベンチャー企業で働きたい」者も多い結果となっている(図表7)。
大企業に行きたい者、ベンチャー企業に行きたい者、はたまた独立したい者、ということで10代の中に様々なキャリア志向が存在しているのだ。中でも「大企業に勤務したい」割合の高さが際立っているため、大企業志向は高いと言えるが、ただ独立・起業やベンチャー企業志向も相対的に高く、一律に「Z世代は大企業志向だ」というよりは、「キャリア志向が多様化している」と表現するのが妥当だろう。
図表7:就業先意向(世代別)(%、あてはまる計)
「最近の若者は…」論を超えて
価値観調査の結果を見てきたが、「現代の若者はこうだ」という紋切り型の言説が成り立つ余地が狭くなっていると感じる。世代というファクターだけで説明がつく点もあるが、それだけでは説明がつかないことが多すぎるのだ。また、平均値では全体を把握できない二極化・多様化という現状も見えてきた。
全体を整理しておく。こうした状況をふまえれば「最近の若者は…」式の一本槍なロジックでは、現代の10代の価値観を説明することは難しいのではないだろうか。この若者はZ世代だからこうだ、という理解ではなく、その若者自体への理解が求められよう。多様性の重要性が叫ばれる時代に、なぜ若者を世代で一括りにしようとするのか。
図表8:10代の価値観のまとめ
むしろ、変わっているのは「行動」や「経験」だ。環境が変われば行う行動も変わることは、当然のことだがあまり言及されていない。年齢はまだ若いのに、サブスクサービスを利用し、プログラミングの知識を活かして生活を便利にし、3Dプリンタで制作した経験がある10代は30代・40代よりも多いこともわかっている(図表8)。
こうしたことは10代の若者の価値観やマインドセットの変化に理由を求めるよりも、単に身近にそういった環境があったからとシンプルに考えるのが自然だろう。しかし、環境が変わり行動・経験が変われば、それをきっかけとして人は変わっていく(※10) 。
上の世代と、Z世代の本質的な違いは実は、行いやすい行動・経験が変わったことに起因するのかもしれない。
図表9:これまでに経験したこと(世代別)(%。あてはまる計)
(※1)リクルートワークス研究所,2022,「10代価値観調査」
(※2)主対象については高校生が1149、大学生が410、社会人が56サンプルであった
(※3)それぞれの世代で、性別(男・女)及び居住地(東名阪・その他)が1:1となるよう回収。なお回収時点では完全に1:1となるよう回収したが、その後のデータクリーニングで回答ロジックが不適当なデータを除外した結果、掲示のサンプルサイズとなった
(※4)関連書籍として、與那覇潤,2022,『過剰可視化社会 「見えすぎる」時代をどう生きるか』,PHP新書がある
(※5)関連書籍として、金間大介,2022,『先生、どうか皆の前でほめないで下さい: いい子症候群の若者たち』,東洋経済新報社がある
(※6)「あてはまる」~「あてはまらない」のリッカート尺度・5件法で聞いたうち、「あてはまる」「どちらかと言うとあてはまる」の合計。以降同様の図表は同じ
(※7)パーソナルキャピタル,2021
(※8)キャリア選択におけるコスパ志向の影響については、以下参照。「コスパ志向」が若者の仕事観にもたらした真逆の2つの結果を考える──古屋星斗
(※9)例えば以下を参照。 溝上慎一,2013,ポジショニングによって異なる私─自己の分権的力学の実証的検証─ 心理学研究,84(4),PP.343-353.
(※10)実際に、本調査でもこれまでの経験項目数が増えるほど、将来展望が肯定的になる関係が見られた