休日に仕事を忘れることが、仕事にやりがいを感じるきっかけになる ──石川ルチア

2020年03月16日

近年の新卒採用における「自分探し」の風潮もあり、働くことの「目的」や「意味」についての議論が活発化している。仕事の「有意味感」とは、以下のような感覚を指す(Lips-Wiersma and Wright、2012、※1)。
「自分の仕事が誰かの役に立っている」
「自分の成長を感じる」
「自分の力を最大限発揮している」
「他者との一体感を感じる」

欧米の人事系コンファレンスに出席すると、講演者は度々有意味感に言及する。有意味感を持って働くと仕事へのコミットメントが高まるとして、欧米企業も従業員へ意味のある仕事を提供する方法を模索している。私たち「『働く×生き生き』を科学する」プロジェクトの調査(※2)では、有意味感が高いことは、生き生きと働いている人の特徴の1つであった。

有意味感についての研究では、自分の仕事の内容や取り組み方を主体的に変更すると(ジョブクラフティングという)、自身の知識や能力に仕事を合わせられるため、個人と職務が適合していると感じ、有意味感につながると明らかになっている(Tims, Derks and Bakker、2016※3)。そして、困難と直面することや職場の人間関係、組織の中で自分の価値を認識していることなど、多くの要因が有意味感を醸成し、社会人経験年数によってその要因が変化することが分かっている(正木、2019※4)。

また、有意味感は職場の要因だけで構成されるものではない。Bailey and Madden(2016、※5)が様々な職業に就く135人にインタビューを実施したところ、個人的な生活の中で有意味感を持ったとの回答があった。例えば、ある弁護士は、弁護を必要としている誰かに対し、友人や家族が自分を推薦したときに、公私ともに信頼されているのだと仕事に意味を感じた。また、あるミュージシャンは、音楽活動に反対していた父親が初めて自分の演奏を鑑賞し、活動を認めたときに、仕事に強い意味を感じた。このように、プライベートの要因も見過ごせない。

そこで本稿では、人は何によって仕事に意味を感じるのかを、本プロジェクトで得た1万人のデータで検証する。特に、仕事以外のどのような行動が有意味感に影響を及ぼすか、見ていこう。

私生活の過ごし方も仕事に対する有意味感に影響を与える

アンケートの質問項目全60問の中から、家族とともにする行動を尋ねたもの3問と、その他の職場以外での行動を尋ねたもの5問の合計8問を選定した(※6)。また、データの信頼性を確認するため、前述の先行研究で有意味感をもたらすと示されている「強みの活用」(個人のスキルと職務が適合していること)および「ジョブクラフティング」の2つを加えて、次の4つの変数を作成した。・・・1.家族と時間を過ごす、2.職場外でも活動している、3.強みの活用、4.ジョブクラフティングである。

これら4つの変数は、有意味感に影響を与えるのか。年齢と性別、職種をコントロール変数に加えて重回帰分析を試みた。結果は図表1のとおりである。

図表1 有意味感を被説明変数にした重回帰分析の結果ishikawa01.jpg(注1)*** は0.1%有意。** は1%有意。*は5%有意。
(注2)R2乗(決定係数)=.560

この結果からは、先行研究に見られたように、仕事に意味を感じるには、自分の個性ややりたいこと、らしさと今の仕事が適合していること、そしてジョブクラフティング、すなわち自分が仕事を進めやすいように作業を追加したり、やり方を決められることが影響していた。先行研究と一致している。一方、家族と30分以上会話をする頻度や一緒に食事をする頻度に有意な影響は確認されなかった。職場外でも活動していることは、他の変数ほどの説明力はないが、有意であった。有意とは、各変数の数値が誤差ではなく、確実に影響力がある、という意味である。

休日にリラックスできてこそ、仕事に意味を感じる

職場外での行動の中でも、どれが有意味感につながる行動なのかを明らかにするため、質問項目を変数として重回帰分析を行ったのが図表2である。

図表2 有意味感に影響する職場外での活動各種を説明変数とした重回帰分析の結果ishikawa02.jpg(注1)*** は0.1%有意。** は1%有意。*は5%有意。
(注2)R2乗(決定係数)=.110

職場外での活動の中で、有意味感への影響力が強いものは、「その他の余暇活動」、「自己啓発活動」と「家族の一員としての活動」であった。
仕事から完全に離れてくつろぐことで、新鮮な気持ちで仕事と向き合い、意味を見出せると考えられる。「自己啓発活動」で仕事と直接関係のないことを学ぶということは、幅広いことに興味を持ち、異なる領域の視点から今の仕事を客観視できることで、意味に気づけるのではないだろうか。また、「家族の一員としての活動」は、図表1の分析で確認した「家族と時間を過ごす」とは異なる項目である。後者は単に一緒に食事をするとか出かける行動を指すが、前者は「家族が良好な状態を保つため」と目的がはっきりしている。自身の仕事が家族の幸せに貢献している実感につながっている可能性がある。

以上の分析結果からは、職場外での過ごし方も仕事の有意味感に影響することが示唆された。
仕事に意味が見い出せず悩んだことは誰しもあるだろう。そのようなときは、仕事の取組み方を工夫してみたり、職場の人間関係を積極的に広げることも大事だ。しかし、仕事から完全に離れた時間を過ごすことも、私生活が充実するだけではなく、自身の仕事の意義を理解するきっかけになり得ると明らかになった。有意味感を持ちながら生き生きと働くためにも、仕事から離れた時間は重要なのである。

※1  Lips-Wiersma, M. and Wright, S. (2012) Measuring the Meaning of Meaningful Work: Development and Validation of the Comprehensive Meaningful Work Scale (CMWS). Group & Organization Management, 37(5) 655-685.
※2 「働くx生き生き」を科学する」調査、実施時期2019年11月13日~15日 
※3  Tims, M., Derks, D. and Bakker, A. B. (2016) Job Crafting and its relationships with person-job fit and meaningfulness: A three-wave study. Journal of Vocational Behavior, 92, 44-53.
※4 正木(2019)働くことの意味付けを促進する要因の実証的検討―中堅社員のキャリア発達の視点からー.キャリアデザイン研究 (15) 87-99.
※5 Bailey, C. and Madden, A. (2016)What Makes Work Meaningful ? Or Meaningless. MIT Sloan Management Review. 52-61
※6各変数を構成する質問項目ishikawa03.jpg

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