新型コロナ対応、若年雇用に対する懸念点──古屋星斗
目下、新型コロナウイルスによる経済・社会への影響が大きくなっている。国際的には「Essential work」のみの就業を認める国・地域も増加しており、雇用や仕事に対する影響も無視できない。
今回は、若年者の雇用・キャリア形成を研究する筆者の立場から、日本における雇用への影響について、現下取られつつある対応策の課題と懸念点を整理する。
1、新卒採用スケジュールの混乱と選考・入社時期の柔軟化
◎選考時期
新型コロナウイルスの影響は新卒採用にも出ている。折しも、ウイルスの社会活動への影響が日本において表れたのは、2020年2月中下旬からであり、丁度2021年卒者の採用広報解禁日である3月1日を目前とした時期であった。合同説明会や対面での面談、ワークショップなど、オフラインイベントが中止となる中、企業は、オンラインセミナーやWEB面談などを積極的に導入している。
他方、新型コロナウイルスが早期に収束したとしても、従来3-6月に行われてきた新卒採用活動には大きな影響がある。最終的に採用するに当たっては、オンラインで完結するのではなく「一度はしっかり直接会わないと」と採用する企業が思うのは当然でもある。多人数が一堂に会するような、これまでの面接会場の運営方法や面接体制は取りづらく、既存のスケジュールに沿った形での適切な人材獲得は困難となる可能性が高い。
こうした状況において今後のポイントは、3-6月期に限定する採用から、通年化への対応に移っていく可能性が高いということだ。就職活動の通年化については、2019年卒の実績で通年採用を予定している企業は10.7%に留まっていた(※1)。通年採用については「採用目標人数を確保するため」とする企業が多数を占める(73.5%、他方「多様な人材を確保するため」と回答した企業は18.8%)など、採用時期の柔軟化を積極的に行う企業は限定的であった。しかし、現下の状況では人材確保のためにこれまでのような「大量・一括選考、短期終決」を図ることは困難であり、採用可能期間を柔軟化・通年化しつつ、学生と自社の選考の機会を最大化する戦略が求められるだろう。
また、現実的な課題として2021年卒インターンシップを今夏開催できるのかという問題もある。いずれにせよ、選考時期の柔軟化・通年化なくしては良い人材を獲得する採用プロセスを構築することは難しい状況にあると言える。
◎入社時期
また、選考時期が本格的に柔軟化した場合、同時に論点になるのが入社時期である。これまでも経団連から「ギャップイヤー」(※2) などと提言されているとおり、入社時期を一律の「4月1日」とせず個人の選択に任せる企業があった。最近では、日立が2021年度の新卒者から卒業後1年以内の自由な時期の入社を認める制度を開始すると報じられている。今年度についてはこうした柔軟化の動きとは別に、特に入社後の業務の状況が流動的であり、入社時期を遅らせたいと企業側から打診があった学生・生徒についての報道もある。
もちろん、入社を保留され企業から具体的な入社時期の提案がないような状態の新卒社員をサポートすることが必要となるが、“一斉”研修で“定型の”プログラムを実施することの意義が薄れた昨今、必ずしも同じ時期に入社することの理由は明確ではない。新型コロナウイルスの影響を契機として、自社内にいては経験しがたい機会を与えるために、入社時期を柔軟に設定する動きが波及していくことが期待される。
◎高校卒就職スケジュール
加えて、選考期間が行政の「申し合わせ」により厳しく定められている高校卒就職においても大きな懸念がある。企業が新型コロナウイルスへの対応により、行政が定めた時期に、採用に向けて必要な事務処理ができないという点だ。特に採用の中心は中小企業であり、大学卒の採用活動と比較して高校卒採用への影響は大きくなる可能性が高い。スケジュール通りであればこの6月には企業側は求人票をハローワークに提出する必要があるが、状況によっては全体スケジュールの後ろ倒しや、選考についての支援、企業の求人票提出期間の延長などの考慮が必要となるだろう。
2、試用期間中の解雇
厚生労働省が取りまとめた2020年卒者の内定取り消しは22社で32人となっている(3月27日時点)。厚生労働省によれば、リーマンショック時(2009年卒)には2000人以上の内定取り消しが確認され、1990年代末の金融危機の際にも1998年卒で1077人もの内定取り消しが確認されている(※3)。現下でも、厚生労働省がハローワークを通じて把握している数以外にも、内定取り消しに直面する学生・生徒は存在していると考えるのが自然だ。
こうした状況の中、今後一層留意すべきなのは「試用期間中の解雇」である。雇用後の試用期間については判例上1年が上限だが、3ヶ月程度で設定している企業が多い。この期間中の解雇や期間終了後の本採用拒否についても、労働法令による制約が課せられており、試用期間だからといって自由に解雇ができるわけではない。しかし、リーマンショック後に「試用期間切り」が話題になったように、大きな課題となる可能性がある。試用期間中の解雇は、年度末に問題が集中する内定取り消しと比べて、解雇が発生する時期が一定でなく、また「能力不足」などの解雇理由を付与できるため、社会問題として察知しづらい面を持つ。
試用期間中の解雇は新卒社員のファーストキャリアを寸断することになる。社会として早期に察知し、早期に手を打つことが求められる。
3、「雇用調整助成金」のアップデート
◎成長企業の雇用を守る
最後に企業側の支援策についても取り上げたい。景気減退期の雇用対策として大きな存在感を発揮するのが雇用調整助成金である。既に「休業補償の80%の支給率を90%に引き上げること」、「売上減少の要件を前年同月比マイナス10%からマイナス5%に緩和すること」などといった緩和・拡大措置が政策的に取られている。こうした措置に加えて筆者が課題感を持っているのが、「成長企業の雇用維持」である。
雇用調整助成金について売上減少の要件が緩和されている点については触れたとおりだが、前年比となっている。前年比マイナス5%であるため、例えば昨年から3倍の売り上げとなっており、3倍の従業員がいるベンチャー・スタートアップ企業において、売り上げが突然半分になっても雇用調整助成金を使うことはできない(3倍の売り上げが半分になってもまだ前年比プラスのため)。折しも都市部を中心として様々なスタートアップ企業が生まれており、ポテンシャルの高い若手が新卒・転職問わず大手ではなく小さくともイノベーションが起こっている企業を選択する志向も高まっている。こうした実態に対して、「事業を長く継続的に低成長で実施している企業について、売り上げが5%下がった」という状況を支援対象として想定している、現状の雇用調整助成金では対応することが難しい。ベンチャー企業・スタートアップ企業のもとにいる有為な若手の雇用を支える体制は脆弱であると言わざるを得ない。
現状の新型コロナウイルスによる危機は、成長率の高い企業が瞬間的に困難に直面した、という状況であり、そうした状況を支援対象とできるよう、売り上げの「前月比基準」や「3ヶ月前比基準」といった新たな基準を設けることで成長率の高い企業の雇用を守ることができるだろう。
◎育成・越境期間にする
また、雇用調整助成金は、休業させた労働者に対して教育訓練投資を行えば上乗せ加算される規程もある。ピンチをチャンスに、若手を育てる時間に使ってはいかがだろうか。ただ、加算額は1人1日1200円と少額であり、この危機を企業が人材投資の好機と捉える大きなインセンティブとするために、加算額を増額することを提言したい。
更にあまり知られていないが、休業ではなく他社へ「出向」させても雇用調整助成金を受給することができる。新型コロナウイルスは物理的な拠点の破壊などを伴っておらず、オンラインツールが活況な情報通信業など、局地的に調子の良い事業も存在する。この時期だからこそ、自社と異なる領域での越境経験を積ませる良い機会になるのではないだろうか。
(※1)リクルートワークス研究所,2018,「ワークス採用見通し調査」
(※2)学校卒業から企業就職までの期間をあえて長く設定することで、その期間中に新卒者が海外留学やボランティアなどの社会活動、ワーキングホリデーなど、多様な経験をすることを促すこと
(※3)厚生労働省,新規学校卒業者の採用内定取り消しへの対応についてhttps://www.mhlw.go.jp/seisaku/26.html