文化を楽しむ「日本版秋休み」のすすめ──村田弘美
2019年10月、出発した東京の気温は30度。約14時間後に到着したストックホルムの気温は0度と、気温差は30度。同じ北半球でも北欧と日本の気候の差は明らかである。北欧では通年の寒さもあって、室内空間での居心地のよさを常に意識している。オフィスでも目に優しい明るいファブリックや体に優しい照明器具、家具を取り入れ、快適な空間をつくり出している。新入社員が初任給で「一生使える自分の家具を買う」人も多いという。日本の若年層も車離れをしているが、例えばデンマークでは、車を取得する際の税金が150%超と高額で、若年が購入するのは難しい(例:所得税は56%、消費税は25%)。手に入れやすく実用的なインテリアへと志向が高まるのも当然のことだろう。本稿では、日本にない北欧の風習や休暇制度について紹介する。
「ヒュッゲ」な時間
北欧らしい時間の過ごし方として、スウェーデンには、お茶やコーヒーを飲む時間の「FIKA(フィーカ)」、ノルウェーには心地よい時間の「Koseling(コーシェリ)」、デンマークにはくつろぎの時間の「HYGGE(ヒュッゲ)」という習慣がある。日本語でいうと「ほっこり」「ゆったり」、また「リラックス」が近いかもしれない。ヒュッゲな時間の過ごし方に欠かせないのはコーヒー。北欧のノルディック・ローストはとても美味しく、消費量は世界一(ICO)だという。訪問企業でも「まずは、コーヒーはいかがですか」と勧められたが、北欧でコーヒーを勧めることは、「あなたをとても歓迎しています」という特別な意味があるという。
北欧では6つの企業を訪問したが、どの企業でもコーヒーや紅茶と、美味しいお菓子でおもてなしを受けた。これによって来客との距離が近くなり、互いにリラックスしたよい関係で会話がはじめられるという。日本でも企業を訪れる際に、お水やお茶をいただくことがあるが、近年、お茶出しは非常に事務的になり、自分がもてなされると感じることは多くなくなった。一方、企業と従業員との労働契約においても、コーヒー休憩時間を明記する企業は多いという。契約時間の長さによるが、例えば、1日に1回、2回の休憩と30分の昼休みで、7時間の労働に対して、計60分の休憩をとる。
ノルウェー・デンマークの昼休みは「30分」
コーヒー休憩と合わせて、気になるのがノルウェー、デンマークの30分間の昼休みである。日本の労働基準法第34条では、労働時間が 6時間を超え、8時間以下の場合は少なくとも45分 、8時間を超える場合は、少なくとも1時間の休憩を与えなければならない。上記のコーヒー休憩と合わせると日本と同じくらいになる。北欧企業の昼食休憩は、例えばサンドイッチとコーヒーなど、短時間で簡単に食事を済ませて、午後は早い時間に退社する。公的サービスでは、日本の延長保育のような制度がないため、夕方には必ず定刻に子供を迎えに行かなくてはならない。また、外食費が高額なことから、17時過ぎには家族全員が集まり自宅で夕食をとるのが一般的である。
スウェーデンのスカンディック・ホテルの人事セクションを訪問した際に、もっとも採用が困難で人気の低い職種は「料理人」という説明があった。料理人は夕食を作り提供する側で、自分の家族とは一緒に夕食を食べることができないのが不人気の理由であるという。家族一緒に夕食をとることを大切にする国の価値観がこのランキングに表れていた。
また、自律性の高さを表しているのが「金曜日の就業」である。各訪問先企業で就業状況についても聞いたが、サービス業などを除き、本社業務などでは、金曜日は1週間の業務の調整日に充てている人がいるという。一週間のミッション管理で、月曜から木曜にやるべき業務を終えている人は休む、もしくは半日業務、在宅勤務をすることを認めていた。自律的に業務を進め結果を出していれば、各自の裁量に任せるという企業がほとんどであった。勿論、業務を終えていない場合は休めない。
北欧の「秋休み」は一週間
北欧各国には、日本にはない制度が散見された。スウェーデンでは「先週1週間は、秋休みでした」、デンマークでは、「明日から1週間の秋休みです」と説明された。秋休み前の金曜日は、訪問のアポイントが取りにくく、いくつかの企業には断られた。日本でも昭和30年代までは同様の秋休みはあったようであるが、現在はない。
北欧の秋休みは、昔はじゃがいもの収穫を子供が手伝うため、別名「じゃがいも休暇」と言われていたという。デンマークのチボリ公園は休暇に合わせて、ハロウィーンの装飾に変わる。また、「秋休みチケット」を買うと、公共交通機関が乗り放題、美術館、博物館、城、劇場、コンサートに入場できる。祝日ではないが役所も学校も裁判所も1週間の休暇となる。休暇自体は日本のお盆休みや年末年始休暇と変わらないが、その文化はかなり異なる。休暇に入る前日の金曜には「カルチャー・ナイト」という文化祭のような前夜祭のイベントが国内各所で行われ、美術館、裁判所、公的機関は夜22時まで開いている。普段は入館できない最高裁も見学できるなど、国を挙げて秋休みの1週間を楽しむ。
日本でも、シルバーウィークやプレミアムフライデー、5日間の年次有給休暇取得の義務化など、休暇取得促進がなされているが、カレンダー次第の連続休暇であること、また、職場や同僚など周囲が休まないと休暇が取りにくいのが現状である。1週間程度一斉に休む「日本版の秋休み」を導入し、日本の文化を知り、楽しむ。豊かな時間をつくることを検討してはいかがだろうか。