スウェーデンの「フレキシブル・ワーク」

2017年10月02日

フレキシブル・ワークを奨励する政府政策

スウェーデンは、育児休暇制度が高度化しているが、現在は労働時間の短縮が議論されている。労働時間は主に団体協約で定められており、フレキシブル・ワークは一般的で、既に週30時間労働の企業もある。
スウェーデン・モデルの基本ともいえる労働法は、他の加盟国の労働法と比較すれば限定的で、労働市場に関わる法律は全体的に「選択適用が可能」である。団体協約によって修正可能なのが、大きな特徴である。また、従業員の約70%が労働組合に加入し、労働組合が団体協約交渉を担う重要な機能を果たすことから、現場レベルでの「交渉による柔軟性」が高い。そのため、規制の枠組み(制定法)を、企業の生産面での制約や労働条件に関する労働者の選好・ニーズによって、より良く適合させることが可能になっている。

労働時間の自由度の鍵を握るソーシャルパートナー(労使団体)の存在

相互関係が最もわかりやすいのは、労働時間の規制にある。スウェーデンの労働時間法(Arbetstidslagen)は特に柔軟性が高く、1950年代後半から、業界全体での労働時間に関する契約を自由に交渉・策定できるようになっている。最近では1日6時間勤務に移行する企業も増えている。
業界レベル、工場レベルで、団体協約によって一部または全体を変更することができる。法律では週40時間労働が定められ、1カ月50時間・年間200時間までの時間外労働規制が設けられ、夜間勤務も禁止されているが、かなりの数の例外や改変により、さまざまな生産活動の多様性と固有の規制が許容されている。
そのような柔軟な交渉・策定ができるのは、法律で1日の労働時間の上限を規定していないことも関係している。

一般的に、ブルーカラー労働者の団体協約においては、交代制の仕事や特定の変則的な仕事、骨の折れる仕事については、法規よりも短い労働時間を規定し、賃金も規制している(交代勤務割増賃金)。
一方、ホワイトカラー労働者の団体協約は、通常、法律の規定に従うが、銀行や保険など一部の業界の協約では、標準の週40時間を下回る時間で交渉されている(38時間程度)。公共セクターの事務職員についても、季節調整勤務時間制度があり、9月から4月までの契約労働時間は週40時間50分、5月から8月までは37.5時間である。近年は、週労働時間の短縮が議論されることが多く、ヨーテボリの介護施設の従業員70名が、2015年2月から週労働時間を30時間に減らした事例もある。

  • 労働時間規制
    スウェーデンの労働時間は、労働時間法および団体協約に定められている。法律によって基準が定められてはいるが、団体協約で、多くの場合、従業員の利益のために、法律から逸脱することも可能である。一部例外はあるが、法定の週労働時間の上限は40時間。2013年のフルタイム労働者の週平均労働時間は40.8時間であった。年次休暇法で定める法定年次有給休暇は最低25日である。
  • 時間外労働規制
    法律上、1カ月に50時間、年間200時間を超える時間外労働をすることはできない。しかし、雇用主は団体協約において法律を回避することができる。ただし、これらの取り決めもEU労働時間指令を遵守しなければならない。労働時間が4カ月間にわたって週48時間を超える契約は締結することができない。
  • パートタイム勤務
    パートタイム雇用とは、労働時間が週40時間未満の、フルタイム雇用に満たない雇用のことである。パートタイム雇用の労働時間は契約により定められる。2013年には被雇用者の26.2%がパートタイムで勤務しており、EU28カ国の平均である20.3%を上回っている。
  • フレックスタイム制
    2013年には企業の約半数が、8割以上の従業員にフレックスタイム制を導入している(欧州企業調査)。また、25~65歳の従業員では、約半数(48%)が公式あるいは非公式のフレックスタイム制を利用しているなど、かなり一般的な働き方となっている。

手厚く、柔軟性のある育児休暇制度

スウェーデンの育児休暇制度は高度に進化しており、かつ柔軟性があるため、両親は子供と一緒の時間を過ごすことができる。両親合わせて、子供1人につき最長16カ月の有給休暇をとることができる。このうち、13カ月については直近の収入の80%(ただし、2014年には年間約44万4,000スウェーデンクローナ〈5万1,100ユーロ〉を上限とする)、残りの3カ月については一律で1日当たり180スウェーデンクローナが支払われるなど、手厚い制度となっている。

  • 出産休暇
    母親は産前7週間、産後7週間の休暇をとることができる。1994~2004年には、妊婦の約25%が平均38日の産前休暇を取得した。
  • 育児休暇
    育児休暇法に従い、両親には雇用の第1日目から480日の有給育児休暇が与えられる。2002年以降、120日は(配偶者に対しての)譲渡が不能となっており、パートナーそれぞれが60日について権利を有する。残りの360日は、両親で適切に分けることができるが、同時に休暇をとることはできない。390日については、給与の80%が支払われるが、年間44万4,000スウェーデンクローナを上限とする。残りの90日については、一律1日180スウェーデンクローナが支払われる。2008年以降、育児休暇を半分ずつとる両親は、年間1万3,500スウェーデンクローナの非課税の賞与を受け取っている。
  • 父親の育児休暇
    新生児または養子縁組をした新生児の父親は、10日間の休暇をとることができ、この間給与の80%が支払われる。2004年には父親の約80%が、使用可能な10日のうち平均9.7日の育児休暇を取得した。
  • 労働時間の短縮
    育児休暇法の規定によれば、8歳未満の子供を扶養する両親は1日の労働時間を、25%を上限として短縮する権利がある。ただし、その分の賃金は支払われない。

「1日6時間勤務」へのチャレンジ

2014年の労働時間法によって、従業員は午前7時から9時の間に始業し、午後3時から5時の間に退社できる権利を有しており、早朝勤務者も多い。また、Toyota Service Centre社、ABB社、Svartedalens社、Brath社など"1日6時間勤務制"に移行する企業が増えた。従業員の満足度や生産性の向上もあり、最近は欧州内の企業にも広がっている。
従業員数13万5,000人のエンジニアリング最大手ABB社では、1988年の創立以来、積極的にワーク・ライフ・バランスが図れるようフレックスタイム制度をはじめとしたさまざまな制度や支援策を導入した。たとえば、遠隔地勤務制度によって、1週間あるいは一定期間など合意した日数の在宅勤務を行える、サバティカル休暇(長期休職制度)や、パートタイム勤務を選択することもできる。また、一定期間、別の部門や国で働く機会も与えられ、スキルや能力の向上に役立てられている。
こうした支援によって、従業員調査や各ランキングにおいてワーク・ライフ・バランスが高く評価されている。

IKEAは最も魅力ある企業の上位を独占

IKEA社は、フレックスタイム制度、在宅勤務、フレックス休暇、ジョブ・シェアリングなど、スウェーデン政府が定めるあらゆるベネフィットを取り入れている。このベースには従業員への信頼があるという。サバティカル休暇や、手厚く柔軟性のある育児休暇などの導入は、従業員の可能性をさらに高める機会へとつなげ、また、将来のキャリアへの影響も少なく安心して働き続けることができる。この他にも、さまざまな支援制度を導入しており、従業員の満足度を高めている。こうした取り組みは、有能な人材を採用し定着させるだけでなく、企業イメージも高めており、国民から最も魅力的な企業としての認知も高く、ランキングの各項目で上位を独占しているという(図表)。

図表 最も魅力的な企業上位3社(理由別)
出典 Randstad Award 2015

グローバルセンター
村田弘美(センター長)

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