高校卒者のキャリア。問題の核心、「離職後」を考える──古屋星斗
高校卒就職者について昨今、これまでにない盛んな議論が行われている。政府では、横断的な会議体である規制改革推進会議のテーマとして取り上げられたほか、所管省庁である厚生労働省・文部科学省においても「一人一社制」の見直しについて検討が行われている。また、メディアでも9月16日の高校生の“就職活動解禁日”前後において、新聞各社が一斉に記事を掲載するなど、社会的に広く議論がされるようになっている。
高校卒就職者については、「七・五・三」問題が有名であり、大学卒就職者と比較して高い早期離職率が大きな課題であった。ただし、この早期離職率については、その原因の多くは就職先企業規模の問題(つまり、中小企業への就職者が高校卒者で多いことに起因する)である可能性が明らかになっている。(“新卒3年以内離職率の高卒-大卒格差に潜む、本当の社会課題”)
今回は高校卒就職者を取り巻く課題について、更にもう一歩踏み込みたい。つまり、離職の先にある、彼らが「会社を辞めた後、どうなっているのか」というテーマを検討する。
学歴で大きく異なる、正規社員離職後の非正規比率
まずは、初職が正規社員だった若者に限定し、その会社を辞めた後どうなっているかを把握したい。大学卒就職者のみならず高校卒就職者についても現状は売り手市場であり、求人倍率はゆうに2倍を超え、内定率は98.2%と極めて高い水準にある(※1)。景気の良し悪しを問わず、「卒業後、正社員に就職」は高校の就職指導の全国共通の目標であり、事実として高い内定率はこの目標を実現できていることを物語っている。ただし、離職率は高く、更にはその後どうなっているのかについて、公的統計は沈黙している。
そこで、初職正規社員が退職した後の雇用状況を検証したい。初職は正規社員で退職経験があるという20代の若者について、学歴別で現在の雇用状況を整理し、非正規雇用となっている比率を可視化してみた(図表1)(※2)。
図表1:正規社員を退職して非正規雇用となる割合(29歳以下)
このように、最初は正規社員だった若者について比較しても、現在いわゆる非正規社員である比率は、高校卒者で36.2%、大学卒者で25.3%と実に10%以上の差があることがわかる。若手社会人のキャリアについて単に学歴別の早期離職の差が問題なのではない、退職して非正規雇用となりやすいという事実にある背景を、より大きな社会課題として捉えるべきではないだろうか。この背景には、高校卒者特有の課題が存在すると考える。
問題の背景にあるのは、キャリアへの理解・ブランクの長さ・学び・相談相手
例えば、自身のキャリアや労働条件についての無理解である(図表2)。これは図表1の現職が非正規雇用である者の回答の集計であるが、契約期間について「わからない」とする者が高校卒者(36.3%)は、大学卒者(21.3%)と比べ15%以上も高いのが現状である。自身のキャリアを作る、そのために自分の労働契約を確認する、そうした姿勢がないことがこの背景にはあるだろう。
図表2:現職の契約期間
また、高校卒者の方が無業期間(ブランク)も長い傾向がある。20代で3年以上のブランクがある者は16.3%と、大学卒者の3.1%と比較して著しく高い(図表3)。高校卒者の方が4年程度社会に出るのが早いとはいえ、20代の時点で3年以上ブランクがあるという事実の重さは等しく、厳しい状況に直面していることがわかる。
図表3:無業期間が長い者の比率
学習活動の現状にも大きな差がみられる(図表4)。通学、セミナー・勉強会、通信教育、eラーニング、読書、インターネットで調べた、詳しい人に聞いた、というように学びには様々な形態があるが、その全てを行わなかった人の比率を示している。
図表4:学習活動「どれも行わなかった」者の比率
更に、自身で行う学びだけでなく、企業が提供するOJTやOff-JTといった学びの機会についても著しい学歴差が存在している(図表5、6)。OJTにおいて“機会が全くなかった”者が高校卒者(45.9%、大学卒者は32.1%)において多いことがわかるだろう。Off-JTにおいても同様の傾向がある(高校卒者は76.4%、大学卒は62.6%者が受講の機会なし)。
図表5:OJTの機会
図表6:Off-JTの機会
顕在化する“相談資産”の格差
そして、何より最も大きな問題であると考えるのが、企業の外に相談できる人がいないことである(図表7)。職場には相談できる相手はいる高校卒者が多いが、他方で職場の外側に相談相手がいる高校卒者は、大学卒(35.5%)と比べて14%程度も低い21.6%となってしまう。非正規雇用であれば契約が更新されなかった場合には、その職場との繋がりも途絶えてしまうことから、相談相手が全くいないという状況に陥る危険性が高い。高校卒者にヒアリングをすると、「卒業後入った会社に同期はゼロ」、「職場で一番近い年齢の先輩が40代」、「同級生も違う仕事をしており、悩みを相談する相手がいない」といった話を聞くことが多い。入社時点から就活プロセスを経てOB・OGや就活友達、インターンシップ先の社会人など多様な知人を獲得する大学卒者と比較すると、相談相手となる社会人ネットワークが貧弱であることが実感できる。こうした問題は入社以降、離職以降も変わらず、キャリア上の資産の薄弱さに繋がっている。
図表7:相談できる人の有無(職場内・外)
年間17万人前後の若者の人生の第一歩となっている高校卒就職。若者が減りゆく日本で、高校卒者がより良いキャリアを歩むための支援の検討は喫緊の課題である。就職後、特に初職離職後については、高校卒者は本稿で示したような不利な状況にあるにも関わらず、大卒者や他の離職者と同じ扱いとなっている。
「新卒でいい会社に就職する」ことが絶対の価値ではなくなっている昨今。キャリアの現状について統計的にフォローアップを行うこと、そして適切な支援策を講じていくことは、この国の若者人材を最大限に活躍させていくために今始めることのできるアクションなのではないだろうか。
(※1)文部科学省,「平成31年3月高等学校卒業者の就職状況(平成31年3月末現在)に関する調査」
(※2)本稿の分析に用いたデータは全て、リクルートワークス研究所,「全国就業実態パネル調査(2019年版)」より。図表1は初職就業形態が正規社員で、退職経験がある者。図表2以降は、初職正規社員、退職経験、現職就業形態が非正規雇用の者で集計している。