中小企業の採用難は何が深刻なのか 古屋星斗

2018年05月21日

人材不足の問題が深刻化している。後継者難や求人難によるいわゆる"人手不足倒産"が2017年度310件と高水準で推移している(※1) 。特に中小企業において深刻である。日銀短観の雇用人員判断D.I.(人員「過剰」回答社割合-人員「不足」回答社割合)においては、2018年3月期に大企業が-22ポイントのところ、中小企業は-38ポイントと、もちろん大企業も人員不足に直面してはいるが、中小企業にはより深刻な人員不足が降りかかっている。
今回は非常に難しい状況に置かれている中小企業の採用の状況について、掘り下げて検証したい。

新卒採用:採用難は"中小企業だけ"の問題

新卒採用においては、2019年卒の大卒求人倍率(大学院卒含む)は全体で1.88倍となり、全体で38.1万人の就職希望者の不足が見込まれている (※2)。この不足分は、その全てが中小企業における就職希望者の不足によるものである(図1)。300人未満の中小企業において41.6万人の不足(就職希望者数が4.7万人、求人数が46.3万人)となっており、全体の不足分(38.1万人)はその全てが中小企業の求人ニーズに起因することになる。
この、「中小企業における不足分が新卒全体の不足分のほぼ全て」という状況は、実際には長期にわたって続いており、2010年卒以降、新卒採用における求職者の不足はほぼ中小企業の新卒採用需要過剰による不足である。図2を見ればわかるとおり、新卒全体の不足数を、中小企業の不足数が連年上回っている(2016年・2017年卒を除く)。

図1:300人未満企業の新卒求人・求職者数、過不足数item_works03_furuya03_furuya05_01.png

図2:新卒求人不足数(全体/中小企業)item_works03_furuya03_furuya05_02.png

全体に対する中小企業の不足数の割合を "寄与率"として整理したものが図3である。リーマンショックの影響を大きく受けた2011年卒、2012年卒採用にあたってこの寄与率は大きく上昇しており(2010年卒では127.6%であったものが、2011年卒では185.7%まで上昇し、2012年卒でも184.4%と高止まり)、その後は100%前後まで低下している。このことから、景気の後退局面においても中小企業は著しい需要過剰の状態にあり、新卒採用難の状態が慢性化していることがわかる。

図3:新卒求人倍率と中小企業の求人不足寄与率item_works03_furuya03_furuya05_03.png

中小企業の新卒採用の困難は、いわばこの採用できない状態が継続して続いていることにあり、この状況への対応策としてか、新卒における女性や外国人の採用といった多様な人材の採用の割合が高いのはむしろ中小企業である。女性比率は中小企業では43.9%の一方、5000人以上企業では29.8%に止まる。既卒者比率や外国人比率についても中小企業で高く、大企業で低い。実は採用学生の多様性という観点では、大企業よりも中小企業のほうが多様である。

item_works03_furuya03_furuya05_04.png※比率は、従業員規模別の企業の採用総数に対する女性、既卒者、外国人それぞれの採用数の比率

こうしたことから、新卒採用における採用難の状況は"量的"には概ね中小企業独自の問題であり、大企業における採用の困難さはむしろ学生の活動早期化や接触点の多様化による"採用コストの増大"とみるのが妥当ではないか。(なお、新卒採用における課題について、「採用に係るマンパワー」が課題としている企業は300人未満の企業で66.6%に対して、5000人以上の企業では77.9%(※3)となっており、採用コストの増大は大企業にとってより大きな問題となっている)

中途採用:中小企業は未経験者、60歳以上など多様な人材を採用

中途採用についてはどうだろうか(※4)。こちらは大企業と中小企業の関係は新卒採用とは大きく異なる。中途採用において人員を確保できなかった企業は中小企業の割合が最も高いものの、大企業と中小企業との間にほぼ差はない。

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新卒採用での中小企業の著しい採用難の状況と比して、中途採用においての中小企業の確保の困難感がそれほどでもないのは何故だろうか。その理由として考えられるのは、中途採用における採用対象として考えられる人材の幅が大きく広がっていることにある。2つ例を挙げよう。
一つは、中途採用における"未経験者採用"の広がりである。中途採用といえば、即戦力となることを期待して企業が採用するイメージが強いが、採用難のなか中小企業においては業務上必要な資格や技能などの"採用基準"を緩和し、まず採用したうえで業務を行いながら並行して資格等を取得させるという採用が行われている。

item_works03_furuya03_furuya05_06.png※全体平均は従業員規模においてウェイトバックした数値

もう一つは、60歳以上の定年後のシニアの活用である。社内のシニア活用については再雇用という形で企業の大小問わず広がっているが、特に中小企業においては中途採用という形で外部シニアの活用が行われ始めている。

item_works03_furuya03_furuya05_07.png※2017年上半期に中途採用を行った企業を対象に、採用した者の年齢層を複数回答で聞いたもの。このため、比率は採用者数の比率ではなく、該当する年齢層を中途採用した企業の割合である。

全企業規模でボリュームゾーンとなっている"30代"の採用との回答社比率を比較すると、5000人以上企業で4.7%のところ、300人未満企業では11.2%となっており、相対的に60歳以上の採用に取り組む企業が倍以上であることがわかる。

今、中小企業に必要なのは採用後の支援

人材不足の状況を、特にその状況が厳しいとされる中小企業に注目して検証した。全体の構造としては、新卒採用で採用力の劣る中小企業は中途採用で人材を確保し、また、その採用対象から"即戦力"や"現役世代"といった中途採用にとって元来重要であった採用要件を緩和してしまうことにより、一定の人材確保ができている状況にある。
むしろ、中小企業における"困難さ"は、採用自体の難しさのみならず、こうした中途における「未経験者」や「シニア世代」を積極的に採用する傾向、加えて新卒における外国人、女性といった多様な人材を採用している状況にあるといえよう。
つまり、多様な人材を育成・管理する「コスト」が"困難さ"の本質ではなかろうか。採用後のトレーニングコストや、多様な社員が入ることによっての職種の分化等による労務管理コストが拡大する。一方で、大企業における採用の多様性は中小企業に比べると限定的であり、換言すれば"労務管理しやすい"人材を確保できている。ここでも大企業-中小企業格差(労働管理コストにおける差)が発生している可能性がある。
こうした人事労務に関するコストの増大は、ひいては採用に振り向けるリソースの縮減に繋がり、中小企業の採用力を更に奪うこととなる。
中小企業の人手不足への対応は、採用自体へのマッチングや金銭的サポート、定着支援だけでなく、採用後の企業の人事労務支援までを一気通貫で行う必要があるフェーズに入ったと言えるのではないだろうか。

(※1)東京商工リサーチ,「『人手不足』関連倒産(2017年度)」
(※2)以下、新卒採用についてのデータは特に注記なければリクルートワークス研究所「大卒求人倍率調査」より
(※3)就職みらい研究所,「就職白書2018―採用活動・就職活動編―」
(※4)以下、特に注記無き限り、リクルートワークス研究所「中途採用実績調査」より

古屋星斗

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