プレイングマネジャーのためのマネジメント論 大久保幸夫

2019年01月31日

マネジメント研修を熱心に行う企業が増えている。
ダイバーシティ経営や働き方改革が進みつつあることが背景にあるのだろう。いくら制度を変えて、採用を変えても、現場のマネジメントがそれにふさわしい形に変わらなければ思うような成果は上がらない。
たとえば経済産業省が実施するダイバーシティ経営企業100選受賞企業のアンケート結果(新・ダイバーシティ経営企業100選・過去受賞企業追跡調査)を見ると、今後の課題として挙げている企業がもっとも多い項目は「マネジメントスキルの不足(45.4%)」であるから、むしろダイバーシティや働き方改革を進めれば進めるほどマネジメントが変わる必要性を実感するということなのかもしれない。
しかし、いざマネジメント改革に着手しようとすると、現場のマネジャーは忙しい、という問題に突き当たる。何といっても課長職の99.2%はプレイングマネジャーであるから(産業能率大学「第4回上場企業の課長に関する実態調査」2018年)、マネジメントに割く時間が足りず、労働時間も減らさなければならず、もっと頑張れと言われても「無理」となってしまう。
ではどうしたらいいのだろうか。

プレイングマネジャーにはプレイングマネジャーらしいマネジメントを

ワークス研究所では、ジョブ・アサインメントの研究によって、絶対やらなければならない日々の業務推進のマネジメントを進めることで、人材育成もイノベーション促進も生産性向上も動機づけもすべてこなしてしまうという一石四鳥の包括的なマネジメントモデルをつくり、時間がないマネジャーのためのマネジメント論を展開してきた。
それでもまだ足りないと思い、今度はプレイングマネジャーならではのマネジメントの在り方を模索している。

ポイントはプレイングマネジャーを「プレイヤーの仕事」と「マネジメントの仕事」をする人と考えるのではなく、「プレイングマネジメントの仕事」をする人と捉え直したことだ。
従来の専任型マネジャーがやるマネジメントとプレイングマネジャーがやるマネジメントでは推奨されるマネジメントが異なるのだと考えた。

その特徴は「フラット」と「プロフェッショナル」という言葉に集約される。チームとしてやるべき仕事を割り当てるときに自分自身にも割り当てるため、仕事をシェアする仲間としてのフラットな関係性が生まれる。そしてその業務を長く経験してきたプレイヤーなのでその道のプロならではのマネジメントができるということである。この特徴を活かすことで、もっと効率的で成果の上がる、さらにダイバーシティや働き方改革となじみやすいマネジメントができるのではないだろうか。
発案者として私はこのプレイングマネジャーによるマネジメントに「配慮型マネジメント(concerned management)」と名前を付けた。配慮というと弱々しいマネジメントを想起するかもしれないが、care(心配)やconsideration(おもいやり)というニュアンスではなく、かかわる(concern)という感覚である。
従来の専任型マネジャーが行ってきた管理としてのマネジメントではなく、配慮としてのマネジメントをプレイングマネジャーは行う。具体的には以下の4つのキーワードが挙げられる。
① 関心
② 補完
③ 支援
④ 環境
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配慮型マネジメントの場面イメージ

キーワードの説明は図を見てほしいが、より現実に起こる場面で語るならば、次のようなイメージになる。

場面a:ともに仕事をして、自らの仕事を見せて真似させる
*プロなので、一番の人材育成は自分自身の仕事を観察させることである。メンバーとチームを組んでひとつのタスクやプロジェクトを一緒に進めていく中で、まずは見せて、その後にやらせてみせ、スーパーバイジングしていく

場面b:マネジメント業務の一部もメンバーに任せて、メンバー同士の互助を促す
*多忙ななかで少しでも時間を創出するためには、マネジメント業務の一部も期待のメンバーに任せて、そのメンバーを中心に互助的に他のメンバーも関与するように仕向けていく。マネジャーはできる限り少し離れたところで見守るスタンスをとる

場面c:メンバーとともに上司と向き合う
*上司への報告にメンバーを同席させ、ときにはメンバーに報告させる。特に良い仕事をしたメンバーには自ら仕事の成果を語らせることで、露出機会としてゆく。ときには上司と頭越しにコミュニケーションすることも許し、育成と時間節約の目的を果たす

場面d:情報交換型のモニタリングを行う
*報連相を求めるのではなく、こちらからも追加的な情報や有益なヒントを提供しつつ、進捗状況をモニタリングする。報告と業務のスピードアップを一度に済ます

場面e:計画達成度ではなく成果を絶対評価する
*プロの眼で、メンバーの業務成果を評価する。査定期間外の過去の仕事の波及効果も対象として、メンバーを正当に評価しつつ、エンパワーする

場面f:社外・他部署の戦力を最大限活用する
*戦力不足を解決するために、マネジャーが社外ネットワークや他部署との結束点となり、ネットワークで仕事をしていく。オープンイノベーションの促進にもつなげる

場面g:ワークライフの相談に乗り、安全配慮のしくみをまわす
*ダイバーシティにより、メンバーが抱えるワークライフの悩みも多様化している。マネジャーは社内外の専門家と連動しつつ、メンバーの健康や生産性を阻害する要因を取り除くために動く

まだまだ場面は多くあるが、配慮型マネジメントを象徴するものを列挙してみた。
そしてこのようなマネジメントを展開するためには、メンバー人数は何名程度が適当か(いわゆるspan of control)、という疑問にも答えていかなければならない。
マネジメント議論は久しぶりに大きな転換期を迎えているように思う。
興味がある方々との議論を深めていきたい。

大久保 幸夫

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