あいまいな求人の先に見える未来 豊田義博
求人の質が変わってきている。従来の変化とは異なる、構造的な変質が起きているように感じられる。
それは、次のような求人案件に象徴される。
「次代の事業の絵が描けるような人材を採用したい」
なんとも抽象的なオーダーである。そんな人がいたら、どの会社でもほしいに決まっている。だが、そういう趣旨の人材ニーズが少し前から散見される。
企業の実態に多少なりとも詳しい方であれば、良好な景況の持続を受けて、新規事業需要が高まってきているのだろう、と捉えるかもしれない。自社の求人の背景を、そのような認識で捉えている採用担当者も多いように感じる。そうなのかもしれない。しかし、何かが違う。これまで景気上昇局面で現れていた求人とは、本質的に異なる何かがある。
景況感の変化とともに変化する求人の「質」
中途採用市場は、景況感の変化に合わせて劇的に変わる。新規求人数は、景気動向指数の先行指数、有効求人数は、一致指数の構成要素として採用されている。つまり、景気上昇局面では、求人数は増え、下降局面では減少する。
昨今の未曾有の人手不足は、景気動向指数が長期にわたって100を上回り続けていることに密接に関連している。飲食サービス、小売り、医療介護系などの求人需要は一向に満たされる気配が見えない。また、パート・アルバイトや派遣の時給は、対前年比で2年強にわたって上昇し、かつてない水準に達している。
このように、景況感の高まりは、量的な人手不足を生み出すのだが、ある程度長期化すると、求人の質が変化してくる。営業職、サービス職などの量的ニーズとは別に、ある領域に特化した「ピンポイント型」の需要が増えてくるのだ。数量の大きい求人ではないのだが、高度な専門性や稀有な経験を求める求人であり、市場にそのような人材が多くは存在しないため、これまたなかなか満たされることがない。エンジニア領域には典型的にみられるものであり、最近では、自動車メーカー各社が募集している自動運転に関する研究開発要員が例として挙げられる。
景況からの派生とは違う、未来の求人
景況感の高まりに対応し、まずは今今のビジネスの需要を満たす求人が立ち現れ、その状況が長期化すると、企業が未来に向けての投資を始める。こうしたピンポイント求人は、その表れだ。そして、その中には、新事業、新製品・サービス開発の求人もよく見られる。今立ち現れている求人にも、散見される。
しかし、「景況感の高まりの継続」によって、常に発生するような求人とは質的に異なる求人が生まれている。多角化を目的とした新事業、新たなマーケットの掘り起こしや既存顧客のつなぎとめを目的とした新製品・サービス開発、、、、といった趣旨ではなく、今までの延長上にはない未来に向けて、ビジネスのありようを大きく変え、新たなビジネスストーリーを描く必要を感じている企業が増えているのだ。
日本企業は、これまでも永きにわたって「変わること」を求められてきた。バブル崩壊、「失われた10年」、新興国の興隆、リーマンショックなどなど、大きな環境変化への対峙を幾度となく求められてきた。しかし、本当に変わった、といえる企業は一握りでしかない。多くの企業は、人員抑制、コストカットや事業の切り離しなどの軽量化などの善後策によって、試練を乗り切ってきた。しかし、社会は、徐々に、かつ確実に変容している。20世紀の延長上ではない、新たな時代のパラダイムが生まれつつある。本質的に「変わること」が必要な時を迎えているのだ。そして、変容できない企業は、市場から消えていくことになる。
「次代の事業の絵を描く」人材を、心から欲している企業には、今の延長上に未来がないことにはっきりと気づいているのかもしれない。
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