NEC(日本電気)取締役 執行役員常務 兼 CHRO 松倉肇氏

カルチャー変革と人事変革の2軸からビジネスを変えていく

2021年04月13日

聞き手/石原直子(リクルートワークス研究所 人事研究センター長/主幹研究員)

石原 2018年にスタートした企業変革プロジェクトも、3年が経過しようとしています。

松倉 NECが目指すのは、単にプロダクトを提供するのではなく、「安全・安心・公平・効率」という社会価値を創造する企業です。グループ共通の価値観をまとめた「NEC Way」のなかでも、それが自分たちの存在意義、パーパスだと明確に位置付けています。
ビジネスモデルを大きく変えていくときに、カギとなるのは人材です。人材がモードチェンジしなければ会社の発展もないと考え、「挑戦する人の、NEC。」というHR方針を掲げました。実は人事部門がこのような方針を出すことはこれまでほとんどありませんでした。どちらかというとアンカー役として守りを固めることが多かった。今は変革のドライバー役を期待されています。

石原 松倉さんご自身は、人事畑のご出身ではありませんね。

松倉 私だけではなく、CFOに事業経験者をすえ、役員クラスに外部から人材を招聘しています。根底から変えていくんだという社長の新野隆の強い決意の表れですね。
2018年からの3年間は「2020中期経営計画」期間にあたりますが、それ以前は業績の低迷が続いて、当時の中計が未達で終わる状況が何度かありました。その要因をとことん議論した結果、問題は計画の精緻さよりも実行力だ、と。いかに素晴らしい絵を描いても実行できなければ意味がない。そこで「2020中期経営計画」では、「実行力の改革」が最も重要なテーマとなりました。
実行力の改革とは、その担い手である人の改革にほかなりません。すなわち、カルチャー変革と人事変革という2つの軸で取り組みを進めているのです。

徹底的に社員の声を聞き経営に反映させる

石原 それぞれどのような施策を進めてきたのか教えてください。

松倉 カルチャー変革については、2018年7月に「Project RISE」という社内変革プロジェクトを始動させました。ここでは社員の声を徹底的に聞いて経営に反映させることを基本としています。
まずは社員とコミュニケーションしようということで、社長が全国を回り、約1万人の社員と対話する場を設けました。過去の対話会といえば、資料を見せながら経営方針を説明して、最後に少し質疑応答をするのがお決まりでした。しかし今回は最初に少しだけ社長が自分の思いを語り、その後のほとんどの時間は社員の話を聞くことにしたのです。あらゆる質問に率直に答え、そのやり取りをすべてイントラネット上で開示しています。

石原 実際に、どんな声があがりましたか。

松倉 結構辛辣なものが多かったですね。なかでも「トップマネジメントが何をしているのかわからない」という強いメッセージがありましたので、役員は1年ごとのコミットメントと、役員報酬についてもすべて社内に開示することにしました。
各役員には具体的なKPIが設定されており、3カ月に1度、社長との1on1で進捗をチェックされます。例えば私の場合、NEC Wayの周知・浸透度がKPIの1つになっています。他社事例を参考に1年で6割を目標にしたら半年で達成してしまいました。よりストレッチした目標を求められ、今は9割を目指しています。取締役会でも定期的に進捗報告しています。

石原 厳しいですね。

NEC_sub.jpg松倉 やはりトップから変わらなければいけないということです。2018年、改革のスタートにあたって、社長が最初に言ったのが、「まずは自分が変わる。だからマネジメントチームの皆もぜひ変わってほしい」ということでした。社長の本気度を肌で感じましたね。

自律した個人が自分の意思で どの仕事にも挑戦できる

石原 人事変革としては、何をやってきましたか。

松倉 先に触れたように、触媒として変革をリードしてもらうため、外部人材を積極的に迎え入れていることが1つ。役員層に限らず、メンバー層でもキャリア採用をどんどん増やしているところです。同時に、思い切った若手の登用も進んでいます。
また、「どういう人が評価されているのかわからない」という社員の声を受けて、「視線は外向き、未来を見通すように」など5つの指標を作り、Code of Values(行動基準)としてNEC Wayのなかに組み込みました。人事考課も、すべてこれが基準となります。
こうした変革を進めながら、3カ月に1回、従業員サーベイを実施し、それを次の施策へと反映するPDCAを回しています。サーベイ結果は事業部ごとに集計してすべて社員に公開しています。違いが如実に見えるので、当初は事業部長に嫌がられましたが、少しずつ変化が見られるようになりました。良い意味で競争意識が生まれ、ポイントが上がった部門ではどんな取り組みをしたのか、情報交換をするなど、雰囲気が変わってきています。

石原 3カ月に1度のサーベイを続けているのはすごいことですね。サーベイ結果は、人事施策の結果指標そのものですから。

松倉 そのほか「NEC Growth Careers」という社内公募の制度を導入しました。従来の制度より大幅に制約を減らし、通年でいつでも応募できるようにしました。さらに従業員が自分の履歴書を掲載し、部門からのスカウトを待つことも可能です。
ねらいは、人材の適時・適所・適材を実現することです。事業戦略を実現するための人材戦略だとすれば、適材適所から適所適材に切り替える必要があります。これも当初は「いい人が抜けてしまう」と事業部長の抵抗が大きかったのですが、この制度がなかったら彼らは社外に転職してしまったかもしれないと話をしています。逆にこの制度を使って人を集めることもできるのですから。

石原 人材は人事から割り当てられるものという意識は、今も根強いと思います。

松倉 まさにその通りで、事業の責任者として人材というリソースも自分で集めるというマインドチェンジが必要です。同時に、社員の側も、自分のキャリアは自分で決めるという意識をもっと高めてほしいですね。

一人ひとりがNEC Wayを自分ごととして受け止める

石原 3年を経ての手応えはどうですか。

松倉 変わりつつあると思いますがまだまだです。重要なのはNEC Wayという会社の価値観と、社員一人ひとりのMy Wayがどこまで重なるかでしょう。そこで始めたのが「連鎖ミーティング」です。まずは社長が役員に自分のWayとNEC Wayがどう結びついているかを語り、役員が事業部長へ、事業部長が自分のメンバーへと、順番に話をしていくのです。自分の業務のなかでいかに実践するのか、自分の言葉で語ることで、変革を自分ごととして受け止めるようになるのです。
これを突き詰めていくと、自分の目指す姿が明らかになり、キャリア自律が進み、人事の仕組みも結果的にジョブ型へとシフトしていくのではないかと考えています。

NEC(日本電気)取締役 執行役員常務 兼 CHRO 松倉肇氏
1985年NEC入社。マーケティング企画本部長、経営企画本部長などを経て、NECマネジメントパートナー代表取締役執行役員社長に就任。NECに帰任後、取締役執行役員常務兼CSO、取締役執行役員常務兼CSO兼CHROを経て、2019年4月より現職。

text=瀬戸友子 photo=刑部友康

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