“世界最低水準”の社会人の学び、越えるべき3つの壁

2018年05月01日

社会人の学び率は世界最低水準

昨今、社会人の学びが注目されている。本コラムは、社会人が何を、どのくらい、どのようにして学んでいるのかを整理しながら、個人の「能力」の形成について考えたい。

社会人の学び直しについては、自学・自習や読書が学んでいる人の中で52.0%と最も多い※1 。その次のステップでは、大学や専門学校等の学校機関に通って本格的にインプットを行うことが、有効な手法となってくる。

この本格的な学びについては、OECDが2012年に成人向けの国際テストを実施した際の調査(PIAAC)によれば、日本は30代以上の学校機関への通学率において、調査対象国の中で最下位であった(図表1)。日本の社会人は、教育機関において本格的な学び直しを行っていない。

図表1 30歳以上の学校機関通学率(%)
出所:OECD「PIAAC2012」より作成

一方、読書やインターネットでの調査など自学・自習を含めた軽度な学びはどうだろうか。平成29年度能力開発基本調査において社会人の自己啓発の実施比率をみると、2007年度に56.3%の人が行っていたが、直近2017年度では42.9%と 、この10年間で大きく低下し、ここ数年は40%台前半が続いている。政府が"リカレント教育"を推進し、また、さまざまなメディアで大人の学びの特集が組まれているが、学習者の拡大には至っていない。

学びのコスト負担は自分が6割

職業人生が延びることで本格的な学びが必要とされるが、学ぶための費用も多くかかるようになる。社会人が学ぶ場合、誰からも補助を受けず、全額費用を出しているという人が57.8%で、企業や公的な支援の仕組みによる補助を一銭も受けていない人が約6割存在している。

学ぶ本人の費用負担なくして、本格的な学びは成立し得ないという現状ではあるが、これは費用負担が足かせになって学ぶことをあきらめざるを得ない状況であるといえるだろう。

図表2 自己啓発費用の補助の有無(%)
出所:厚生労働省「平成29年度 能力開発基本調査」
※正社員に対するデータを引用

年をとるほど、学ばなくなる

さらに、年齢と学びについての一貫した傾向として、年齢が高くなるほどに業務外の学び(自己啓発活動)を行う人は減少していく(図表3)。20代の34.6%をピークとして、年齢層が高くなるごとに低下していく。日本的雇用システムにおける職業人生の考え方であれば、若いうちに積み重ねた経験や技能をもとに、ミドル期・シニア期にはその経験・技能に頼ってひとつの企業で勤め上げるモデルには一定の合理性があった。しかし、職業人生が長期化し産業構造が急激に変化するこれからの時代においてはどうだろうか。図表3のような、年齢を重ねるごとに学ばなくなっている状況は、100年キャリアの時代を迎えるにあたり変化が求められているポイントといえよう。

図表3 自己啓発活動を行った人の割合(%)
出所:リクルートワークス研究所「全国就業実態パネル調査2017」

お金の報酬とは違う"第二の報酬"

一般に、組織から個人に分配されるのは「賃金」があがるが、「能力」の開発機会もまた、組織から個人に分配される重要な"報酬"と考えられる。100年キャリア時代の"第二の報酬"として、学びの機会、能力開発を考える際に、どのような問題点が存在するだろうか。われわれが検討してきた「100年キャリア時代の就業システム」の視点から、「能力」の分配から始まる好循環について考えたい。

100年キャリア時代の就業システム

個人が組織の理解や支援を受けて学ぶことで、多くの知識を蓄積・更新し、その「能力」は組織にイノベーションをもたらす、という循環を形成することが理想である。

キャリア形成の途中での自発的な学びの必要が小さかった日本的雇用システムと、補完的な現在の社会人の学びの状態には、いくつもの大きな課題があるといえるだろう。

「能力」向上のための3つの課題

今回の連載では、このうちの特に大きな3つの課題を取り上げたい。

第一に、年齢をおうごとに学ばなくなっている問題である。100年キャリア時代において、自己のスキルアップはもとより産業構造の変化に即し、必要に応じて学び直すことが重要となっていく。しかし、現状は20代をピークとして学習する人は減少していく傾向にある。特に40代の男性・正社員の学習量が大きく低下している。こうした事実に注目し、その背景を検証し、企業にどのような「分配」が求められるのか、対応策を考える必要がある。

第二に、「プレシニア期」の人材の問題を取り上げる。一昔前の50代といえば、組織のなかでの到達点は既に見えており、60歳定年を前に、職業人生の最終コーナーを回る時期だった。しかし健康寿命が延び、100年キャリア時代に移り変わるなかで、プレシニア期はあと15年、あるいは20年働き続けるための足掛かりをつくる時期へと変化している。

第三に、大人の学びの費用負担の新しいあり方の必要性である。個人の費用負担に頼る状況では、学びの広がりには限界がある。企業の人的資源の向上という観点から、新しい時代の能力開発のあり方を再考する。

 

※1 厚生労働省,「能力開発基本調査」によれば、自己啓発の実施方法については、「ラジオ、テレビ、専門書、インターネットなどによる自学、自習」が52.0%と最も多い。(正社員計、自己啓発を行った者の内数)

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中村天江
大嶋寧子
古屋星斗(文責)

次回 「40代男性、学んでいない人はなぜ学ばないのか?」 5/11公開予定