ローカルから始まる。

さとゆめ 代表取締役CEO 嶋田俊平

2023年12月08日

「ふるさとの夢をかたちに」をミッションとして、全国の名もなき地域に事業を生み出す株式会社さとゆめ。山梨県小菅村をまるごとホテルに見立てた「NIPPONIA 小菅 源流の村」、JR東日本とともに展開する青梅線沿線の集落と無人駅を結ぶ「沿線まるごとホテル」など、斬新なプロジェクトを次々と立ち上げる。地方創生で成果を上げるカギとは何か。代表取締役CEOの嶋田俊平氏に聞く。
(聞き手=浜田敬子/本誌編集長)


――― 今、関わっているプロジェクトはどのぐらいあるんですか。

嶋田俊平氏(以下、嶋田):全国で50くらいです。関連会社を含め社員は約50人。「古民家ホテル」「沿線ホテル」「森林セラピー」「癒しツーリズム」など事業ごとにチームがあり、地域のニーズに合わせて、各チームのメンバーによる横断プロジェクトを組むことが多いですね。

―― 今回の取材場所(山形県河北町アンテナショップ&レストラン「かほくらし」)も、さとゆめが支援しているんですよね。

嶋田:2017年に河北町の町単独のアンテナショップの立ち上げにコンサルタントとして入り、「かほくらし」の資金調達、物件探し、スタッフの採用などに携わったのが始まりです。その後、河北町の商工会を核として、さとゆめを含む町内外4社の共同出資で地域商社かほくらし社を作りました。私は共同代表取締役副社長として運営に携わっています。

―― さとゆめがほかの地域コンサルタントと違うのは、地域に「伴走する」という点ですね。

嶋田:「さとゆめメソッド」や「さとゆめブランド」を各地域に横展開していくスタイルではないんです。一つひとつの自治体と、どうやってこの地域のファンを増やすか、生産者のこだわりを伝えていくか、全部ゼロから考えます。

―― 伴走するにはパワーが必要です。伴走したいという地域はどのような基準で選ぶんですか。

嶋田:どんな観光資源があるか、特産品は何かというのはあまり関係ありません。いい景色、おいしい食べ物、豊かな自然はどこも素晴らしく、差別化が難しい。リソースを生かして町の課題を解決したいという思いのある「人」がいるかどうか。それが結局、成否を分けます。
かほくらし社の場合も、商工会に河北町のことを朝から晩まで考えているキーマンがいます。人口がどんどん減っているのに、町のなかで閉じて商売する会社が多く、将来経営が厳しくなるのは明らか。だから外に打って出たいと。私に声がかかる前から、イタリア野菜の産地化に取り組み「かほくイタリア野菜」というブランドを売るなど、河北ブランドを作り、育てるための活動をリードしてきた人です。

―― やはり、リーダーの存在が大事なのですね。

嶋田:そうです。同時に、ホテルでも店でも、単に箱を作ればいいのではなく、その町や事業に関わる一定量の関係人口、ファンコミュニティが活性化の基盤となります。かほくらしの成功は、リーダーの姿や熱い思いに地域の生産者やメーカーが業種を超えて横につながっているからこそ。道府県のアンテナショップは都内に多くありますが、町村レベルは非常に稀です。リーダーとその周りのファンコミュニティが育っている状況を見てうまくいくと思えました。
また、リーダーの存在も大事ですが、同時にそのリーダーを支える地域の人たちがいて、孤立していないことも重要です。事業を作るには3〜5年と時間がかかる。若いさとゆめのスタッフがプロジェクトの立ち上げから入り、人生を懸けるように必死に取り組みます。途中でリーダーの気持ちが折れて梯子を外されるようなことがあってはスタッフの頑張りが無駄になる。だからこそ、最初の目利きは僕がきちんとやらなくてはと思っています。

w181_local_satoyume.jpgさとゆめとJR東日本は共同出資で「沿線まるごと株式会社」を設立。JR青梅線の駅舎をホテルのフロントとして、また、沿線集落で空き家となっている古民家を客室として活用する。地域住民も接客・運営に携わるという。
Photo=さとゆめ提供

町や事業の関係人口が地域活性の基盤に

きれいごとの企画書は誰も信じない 最後まで伴走して結果を出す

――プロジェクトのなかでも、山梨県小菅村全体をホテルに見立てた「NIPPONIA 小菅 源流の村」が有名です。このキーマンは小菅村の村長、舩木直美さんだったのですか。

嶋田:2014年、僕が起業した直後に道の駅のプロジェクトで声をかけてもらったのが始まりです。小菅村は森林が総面積の95%を占め、冬は雪で閉ざされる。都心から80キロ圏内なのに動植物の豊かな生態系が残ります。この人口たった700人の小さな村に道の駅を作りたい、と強い思いを持っていたのは村長でした。

―― ただ、「道の駅こすげ」のオープン直前に村長から「私が考えていたものとかけ離れている」と言われたとか。

嶋田:私が提案していた内容が役所内のコミュニケーション不足で村長に伝わっていなかったことが原因でした。ただ、オープン後、村長から地方創生総合戦略の策定を長期的に支援してほしいと直接電話をいただき、長期の伴走が始まり、その5年後に村と一緒に「EDGE」という会社を立ち上げました。村にあった複数の古民家の空き家を1つのホテルと見立てて村全体でもてなす「村まるごとホテル」は突拍子もないアイデアのようですが、それまでに築いた信頼関係があったからこそ、村民の方々にすんなりと受け入れてもらえました。

―― ホテル開業以降、村に変化はありましたか。

嶋田:最も大きいのは、村民の方々が村に自信や誇りを持つようになったこと。ホテル1泊3万〜4万円と高額なのに予約が取れないほどの人気で、外国人客も多い。それまで小さな不便な村だとコンプレックスを持っていた村の人たちが、親戚や知人に嬉しそうに村やホテルについて話すようになったそうです。

―― 都会から見た価値と地域の人が感じる価値が違うため、地域を活性化する人たちの多くが、最初は疑いの目で見られると聞きます。

嶋田:さとゆめの前、環境系シンクタンクのコンサルタント時代に地域資源を生かす提案をすると、「本当にそんなことに金を払う人がいるのか」「喜ぶ人がいるのか」と疑われました。きれいごとを書き連ねるだけでは、誰も信じない。だから、さとゆめは最後まで一緒にやる、なんだったらこっちがやってみせる。結果が見えてようやく、この地域の何気ない風景に人は感動してくれることに気づくんです。

―― これまでの地方創生といえば高額のコンサルティング料を払って分厚い企画書が完成しても、具体的に実施されないことが課題でした。近年は嶋田さんのように、外から入ってきた人が地域の魅力を発見して地域の人々が覚醒する事例も多く出てきました。

嶋田:従来は地域資源を活用し、地域の課題を解決するために外の人が足りないものを補い、支援する「村おこし」型でした。それが2010年代の半ばから、都市部の人たちが自分たちを主語にして、都会ではできないことを実現しようと活動する形へと変化しました。自然豊かなところで働く、環境にいい暮らし方をする、というように。新しいことに挑戦する余白がある地域への期待が高まっているのだと思います。

w181_local_Inside-the-building.jpgw181_local_exterior.jpg「NIPPONIA 小菅 源流の村」では、築150年の古民家「大家」、山と谷を見渡せる崖に立つ「崖の家」を中心に、小菅村の自然、地元の旬の食材を使った食を楽しめる。
Photo=さとゆめ提供

観光、カルチャー、食の資源を持つ地域が次世代の花形になる

―― 今、さとゆめには入社希望者も多いと聞きます。どんな人が多いんですか。

嶋田:さまざまですが、満員電車で通勤するような都会での仕事に疑問を感じる人が多いですね。地方創生という事業への可能性を感じている人も多い。日本で今後世界に誇れる産業は観光、カルチャー、食で、その資源を持つのは地域。産業構造の変化によって、地域が実は花形になりつつあるのです。
そして地域では一人ひとりの存在価値が大きく、あっという間に地域の希望になれます(笑)。また、最終意思決定までの階層が少なく、スピーディにものごとが進められます。首長がやろうと言ったら、すぐにチャレンジできます。

―― そういう意味では企業にとっても魅力的です。

嶋田:新しい社会システムやサービスの実証実験の場として有効です。小菅村は、ドローンメーカーのエアロネクストと連携協定を結び、ドローン物流を日本ではじめて実用化します。「新しい社会、暮らしを作る場として自由に使って」という地方に人も企業も集まってきています。

―― さとゆめも、JR東日本と青梅線沿線で「沿線まるごとホテル」プロジェクトに取り組んでいます。パートナーとしての大手企業の何を重視していますか。

嶋田:定期的に人が入れ替わっても、5年、10年と長期で事業を作ることに明確なビジョンが経営者から担当者まであるのか。JR東日本は、共同出資会社を作るまでに、社長をはじめ10人以上の経営層の方がわざわざ小菅村に来てくださり、意見交換させていただきました。全員がローカルの路線の大切さや、それによって地方を守るという思いを語りました。
都市と地域のあるべき関係性は、両者にメリットがあること。単に一緒にやって利益を分けるのではなく、足りないものを提供し合う相互補完関係が成立し、お互いの存在が不可欠になるのが理想です。都市の大企業が「支援してやっている」というようなスタンスでは一緒にできない。対等性を重んじ、相互にリスペクトできることが成否を分けると思います。

さとゆめは最後まで一緒にやる なんだったらこっちがやってみせる

Text =入倉由理子 Photo=伊藤 圭(嶋田氏写真)

w181_local_shimada.jpg

Profile

2004 京都大学大学院農学研究科森林科学専攻修了。環境系シンクタンクに入社
2013 さとゆめ設立、経営に参画
2017 さとゆめ代表に就任
2018 ホテル開発・運営会社EDGE設立
2019 「NIPPONIA 小菅 源流の村」開業
2021 JR 東日本と共同出資で「沿線まるごと株式会社」を設立