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第3回 “変わり身の速さ”が意味するもの

2021年10月08日

前回、オランダ人の“変わり身の速さ”について触れました。今回はその意味するところを掘り下げます。

一例を挙げましょう。2012年、当時18歳のオランダ人、ボイヤン・スラットがオーシャン・クリーンアップという会社を創業しました。事業内容は、社名の通り海のゴミを一掃すること。潮流に乗せて海上に設置したフェンスにゴミを集め、それを船で回収します。TEDで構想をプレゼンテーションして必要な資金を集め、実証実験に至りました。ところが、その段階で事業は頓挫。ゴミを集めるフェンスが真っ二つに割れてしまったのです。実は、スタート前から専門家が「フェンスが壊れて失敗する」と指摘していました。

(多くの)慎重な日本のビジネスパーソンであれば、専門家の言葉に耳を傾け、失敗する前に計画をストップするという判断をするでしょう。でも、オランダ人(の多く)は“やってしまう”。それには、失敗というものを恐れさせないオランダの教育が寄与していると私は見ています。彼らにとって、失敗は試行錯誤の一プロセスでしかありません。「失敗したらどうするのか」と問われれば、彼らは「やり直せばいいし、結果的に成功すればそれは失敗じゃない」と切り返してきます。変わり身の速さとは、言い換えればやり直しを躊躇しないことともいえます。

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スラットの顛末でいえば、フェンスの改良に取り組むのと同時に、海だけではなく川のゴミ回収に取り組んでいます。海に出る前に、川で集めてしまえ、という発想の転換です。実は、ゴミ回収船を世界各国で展開することを目指し、造船会社となって活動しています。業種まで変えてしまったのです。

このような人を生む教育の本質は、前回も述べた本人がやりたいことに取り組ませることに尽きます。スラットも「ギリシャの汚染された海を見てショックを受けたこと」が原点となり、彼の事業のテーマとなっていったといいます。そして、やりたいことの実現のプロセスでさまざまな失敗があってもそれを失敗ととらえず、どうしたらできるようになるのか試行錯誤します。その試行錯誤の支援こそが、教育者の役割なのです。

オランダの教育の本質を日本でも伝えたいと考え、私はオンラインで子ども向けのスポーツやアートの“教えない”スクールを開講しました。10週間を1タームとして目標を決め、その目標を達成するための練習メニューを子ども自身に考えてもらいます。コーチは、子どもからの質問に答えるのみ。たとえばピアノであれば、まずは好きな曲を選ぶ。アニメの主題歌だって構いません。本人が本当にカッコよく弾きたいと熱望するものであることが重要です。すると、最初は失敗の連続でも、自ら試行錯誤し、練習のやり方を変えたりして上手に弾けるようになる。失敗することよりも、その先にある目標の達成に目が向くようになります。子どもだから(あるいは若くて経験がないから)といって正解や正しい道を示さない。周囲の支援の、発想の転換が求められています。

w166_ni_05.jpg吉田和充氏
ニューロマジック アムステルダム
Co-founder&CEO/Creative Director

博報堂勤務を経て、2016年に独立しオランダに拠点を移す。日本企業、オランダ企業向けのウェブディレクションや日欧横断プロジェクトに多数携わる。

Text = 入倉由理子 Photo = 吉田氏提供 Illustration=ノグチユミコ