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第7回 発話のルールに見える文化

2022年06月10日

前号でお伝えしたように、オランダの社会では“聴く力”が求められますが、同時に発話も重要です。欧米企業の会議は参加者全員が自分の確固たる意見を持ち、侃侃諤諤の議論をするというイメージがあるのではないでしょうか。すべてが誤りではありませんが、ことオランダの会議(特に意思決定の場)は発言の数がことさら多くありません。時間も短く、20分で終わることもあります。

参加者全員のその会議における役割が明確で、各々専門領域の視点での意見を求められます。そして、全員がその場で意思決定する権限を持っています。日本のように、権限のない人が参加して「持ち帰ります」ということはほぼありません。

専門家としての意見を期待され、全員がよく聴いていますから、発話する側は考えをしっかりまとめて述べなければなりません。意見を言う前にほかの人々の話に耳を傾け、現在から未来にかけての自社・自部署のメリット・デメリットを検討し、場への貢献も意識しながら自らの意見を構築します。回りくどく、複雑な説明は嫌われます。それは、共通言語である英語がネイティブではない人々が多様な国から集まって議論をするからです。私も英語がそれほど得意ではないために複雑なことが言えず、常に直球勝負です。だからこそ全員の意見が明確に理解でき、意思決定のスピードが上がるのです。

日本のJリーグの黎明期のこと。本場欧州でプレーした選手が上下関係なくファーストネームで呼び合うのを見て、「サッカーというスポーツはカジュアルな文化だ」という理解が浸透したことがありました。しかし、オランダで実感するのは、サッカーに限らず企業でも社長をファーストネームで呼ぶなど、過剰にかしこまることがないということです。会議の場でも、忖度や配慮の結果、回りくどい言い回しをして話が長くなる、といったこともないのです。

意見を構築する力は、これまでも述べてきた通り、教育の力にほかなりません。暗記して正解を言うことを求められる日本と、常に自らの意見やその考え方の背景を問われるオランダとの違いは大きいでしょう。

実は、会議のあとの態度も違います。全員が直球勝負でスピーディに出した結論は、正直“粗い”ことも少なくありません。日本のように、微に入り細に入りリスクや課題を検討しませんから、実際にその意思決定を実行に移したときに失敗することもあるのです。その場合、すぐに“ピボット”することを厭いません。

このように概観してみると、会議での発話の背景には、環境や教育、行動スタイルなど、文化そのものが関わってくることがわかります。単に会議のルールを変えただけでは、望む結果は得られないでしょう。

とはいえ、オランダでの会議ルールも試行錯誤はあるようです。ある省庁であまりに意見が出過ぎて散らかることを課題視し、脳科学などの知見により、アイデアの拡散モードと結論の収束モードに適した実証実験の場をオフィスにつくっています。絶え間ないトライ&エラーの文化も埋め込まれているのです。

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w169_ni2_02.jpg吉田和充氏
ニューロマジック アムステルダム
Co-founder&CEO/Creative Director

博報堂勤務を経て、2016年に独立しオランダに拠点を移す。日本企業、オランダ企業向けのウェブディレクションや日欧横断プロジェクトに多数携わる。

Text = 入倉由理子 Photo = 吉田氏提供 Illustration=ノグチユミコ