Next Issues of HR With コロナの共創の場づくり
第4回 オランダの共創の場のリアル
今回は、オランダの共創の場はどのように作られているのか、そのリアルな姿を伝えたいと思います。オランダの共創の場の最大の特徴は、ハード、ソフトともに“サステナブル”であることが埋め込まれている点です。
オランダでは、この10年ほど、コワーキングスペースやシェアオフィスづくりが盛んですが、その背景となったのがリーマンショックでした。オフィス需要が急速に冷え込んで都市計画が頓挫したなか、空いてしまったオフィスや施設を活用しようという機運が生まれ、共創の場づくりが進んだのです。
日本の都心では、コワーキングスペースやシェアオフィスといえばピカピカのビルの、そのために新たに作られた場がほとんど。つまり、ハコモノから入ります。しかし、オランダでは使わなくなった鉄道の車庫や工場、学校、軍の施設などを再利用する場合がほとんどです。リノベーションも多少はするものの、ほとんどそのまま使います。サステナブルシフトを国の成長戦略に置き、それらはパリ協定や欧州グリーンディールによって強化され、社会的な意味のあるサーキュラーエコノミーに資金がより集まるようになっています。
これが、ハード面での共創の場のサステナビリティです。今、デザインや建築の分野で求められているのは、“ありものの素材をどう使うか”というスキル。あらゆる新品の素材が早晩なくなることを前提に、すべての素材をネット上のライブラリに登録し、何かを作るときにはそれを参照して、時代によって変化する建築基準に合わせていくことを目指しています。そのための目利きができる人の存在感が増しています。再利用が前提となるため、接着剤を使わずにどう作るか、といった議論も進み、意匠設計にも影響を与えているのです。
ソフト面のサステナビリティは、その“目的”のインストールによって担保されています。第1回でも書きましたが、オランダの共創の場は、目的ありき。ヘルスケア、農業、金融などさまざまな領域の、「この課題を解決したい人集まれ」という号令のもと始まります。すると、その領域のスキルやネットワークを持つ人々、そこに投資したりそこから知恵を得ようとする大手企業が集まり、たとえばコロナ禍のような“事件”があっても廃れることはなく、持続性の高い場になるのです。コロナ禍で人が集まりにくい状況にありますが、課題解決のためにオンライン上でも議論を続けています。さらに、ファッション領域では比較的大型・高額の3Dプリンタやレーザーカッターなどを、また、農業系では垂直農業設備を備えるなどして、人々が集まらざるを得ない・集まりたくなる仕掛けも作っているのです。
これらはもはや、1つのビジネスモデルとして確立し、オランダではそのオーガナイザーも存在します。たくましいなあ、と思うのは、これらの社会課題に向き合う共創の場を、そのまま他国に“売っている”こと。土地の狭いシンガポールとは農業分野で連携、というように、共創の場のモデルを世界に広めています。
吉田和充氏
ニューロマジック アムステルダム
Co-founder&CEO/Creative Director
博報堂勤務を経て、2016年に独立しオランダに拠点を移す。日本企業、オランダ企業向けのウェブディレクションや日欧横断プロジェクトに多数携わる。
Text = 入倉由理子 Photo = 吉田氏提供 Illustration=ノグチユミコ