Next Issues of HR With コロナの共創の場づくり
第2回 多様な人を育むオランダの教育の本質
オランダの共創の場に、なぜ多様な人が集まるのか。今回はこの問いに取り組みたいと思います。
どのように多様かといえば、まずは働いている人の国籍が多様というのが真っ先に目につくことですが、実はオランダで生まれ育ったオランダ人も、強み、志向、価値観などの多様性では負けていません。その背景には、世界的に評価されているオランダの教育があるのは間違いないでしょう。既にそのありようは多くの書籍などで紹介されていますが、本質的に重要なことは、オランダの教育目標だと考えています。その目標とは端的にいえば、“人生の楽しみを見つけること”です。
私の子どもは日本でいうところの小学校1年生を終えたばかりですが、既に1冊のファイルにまとめられた“ポートフォリオ”を持っています。義務教育は4歳から始まります。そこから本人がやったこと・書いたもの・作ったものと、教科の評価だけではない積極性や傾聴力、自律的に考えたか、質問をどれだけするかなど、数十項目にわたる教師からの評価が蓄積されたものです。それは学年が上がっても引き継がれていきます。
オランダの学校では、基本的に自分がやりたいことに取り組みます。教師の役割は生徒の前に立って教えることではなく、生徒のやりたいことを後押しすること。生徒からの質問に答えるのが主な仕事です。義務教育の日々の授業で、自らの個性や強みを発見し、磨いていきます。その全記録、いわば本人の“作品集”がポートフォリオです。義務教育を終えた12歳でそのポートフォリオを携えて、自分自身で人生を豊かにし得るであろう専門分野を決め、職業教育を受けて専門の道に進むのか、高等教育機関に進む準備をする学校に入るのかなどを選択します。
そうした教育の結果、どのような領域であっても、大学生くらいの年齢でその道のいっぱしの専門家と言えるほどの知識・経験・スキルを蓄えています。私はオランダのデザインリサーチラボでデザインを学んだことがありますが、20代の学生のポートフォリオ(ここでは本当の作品集の意味です)を見てレベルの高さに驚かされることも多い。日本のように教育と社会の分断はなく、就職活動のために自分のやりたいことを考える、ということはまずないのです。
この話を日本の人々にすると、必ず聞かれるのが「途中で志向が変わったらどうするのですか」ということ。変わったら、道を変えるというのがその答えです。専門を変えると学びのラダーは複雑になっていきますが、それもその人の個性につながります。たとえば薬剤師の資格を持ったサッカー選手、SEができる医師など、いわゆる“レアキャラ”が多く存在する社会でもあるのです。
次回は、多様な人を育てる教育の続きとして、この変わり身の速さ、いってみれば“ピボット”のすごさに触れたいと思います。
吉田和充氏
ニューロマジック アムステルダム
Co-founder&CEO/Creative Director
博報堂勤務を経て、2016年に独立しオランダに拠点を移す。日本企業、オランダ企業向けのウェブディレクションや日欧横断プロジェクトに多数携わる。
Text = 入倉由理子 Photo = 吉田氏提供 Illustration=ノグチユミコ