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第13回 予防医療につながるエイジテックも登場 身体的ハンデ克服技術は高齢者の社会参画を可能に
2025年1月、アメリカ・ラスベガスで開催された「CES2025」では、2024年に引き続きエイジテックと呼ばれる領域の製品展示が多く見られました。エイジテックは、高齢者とテクノロジーを組み合わせた造語です。もともと高齢者のQOL(生活の質)向上に役立つ製品が中心でしたが、この数年、ベビーブーマー世代の高齢化に伴い、健康寿命を延伸する製品のニーズが高まっています。
最近ではセンサー技術の向上が著しく、ストレスホルモンを計測するセンサーや更年期周辺症状を追跡するウェアラブルデバイスなど、身体値のモニタリングによって予防医療につなげる製品が目立ちました。
高齢者の社会参画をテクノロジーによって支援する取り組みも増えています。
日本でも落合陽一氏などが参画するクロス・ダイバーシティプロジェクトは、ライフステージの変化や障がいによる身体的・能力的な差異を、AIやウェアラブルデバイスなどの技術によって克服することを目指しています。オリィ研究所が開発する分身ロボットは、自宅からの遠隔操作によって接客や配膳、運搬、誘導など身体労働を伴う業務を可能にしました。
AI やロボット、VRなどテクノロジーの進歩は、物理的な距離や身体的ハンディキャップを克服するだけでなく、高齢者の社会参画を促す大きな助けとなるでしょう。
一方、高齢者就労支援では、求人側と求職側のミスマッチも大きな課題です。
以前、ある人材会社が、就労を希望する高齢者の身体・認知能力を段階別に評価し、その結果に基づいて適した仕事を紹介する実証実験を行いました。社内新規事業として提案されたもので、高齢者雇用における求人側・求職側双方の不安を解消し、就労促進につなげる狙いでしたが、事業化に至らなかった理由の1つは、単純作業の求人が中心で、求職側のニーズとマッチングしなかったためと聞いています。
高齢化に伴う労働力の減少、社会保障費の膨張は、先進国の直面する課題です。テクノロジーの進化によって健康寿命を延伸し、社会参画におけるさまざまな課題をクリアする一方、「シニアだから簡単な作業を」「接客や配膳はリモートワークでは無理」などの思い込みを捨て、求人側と求職側双方が柔軟な働き方を模索することによって、高齢者を社会負債から社会資産に変えていくことができるはずです。
テクノロジーの進化によって高齢者がさらに働きやすい社会に変化を遂げることが期待されている。
Photo= イメージナビ/amanaimages
Text=渡辺裕子
プロフィール
尾原和啓氏
IT批評家。京都大学大学院工学研究科応用人工知能論講座修了。マッキンゼー、NTTドコモ、リクルート、グーグル、楽天などを経て現職。共著に『アフターデジタル』『努力革命』ほか。
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