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第11回 AIエージェントの進化がスキルベースの働き方を加速させる

2024年12月16日

2024年9月、アメリカ・ラスベガスで開催されたHR Technology Conference& Exposition 2024では、2つのキーワードが話題になりました。AIエージェントとスキルベース組織です。

AIエージェントとは多様な専門性を持つ小型AIモデルを組み合わせることにより、一連のタスクを自律的に実行するシステムで、既に大規模AIを上回る性能を実現しています。

エヌビディアが出資したことで話題になった日本のスタートアップSakana AIは、論文執筆のプロセスを、ブレインストーミングや実験の反復、執筆、査読などに分解し、複数の基盤モデルで分業することで、ほぼ人間が介在することなく論文を完成させ注目されました。

一方、アメリカではジョブ型に代わるモデルとして、スキルベース組織が注目されています。
人手不足は慢性化し、ジョブ(職務)を明文化したところで、すべての要件を満たす人材の配置は困難です。さらにゴールそのものが刻々と変化する時代には、ジョブディスクリプションはすぐに陳腐化していきます。

スキルベース組織は、仕事を細分化し、個人の持つ能力やスキルと組み合わせるモデルです。従来のジョブ型組織では、各ジョブに担当者を固定していましたが、スキルベース組織では、変化にあわせて柔軟に社内外複数のプロジェクトに参画させます。

いわば自律分散型の集合知によって、より敏捷にパフォーマンスを最大化するもので、こうした動きは、AIエージェントの進化によって加速していくでしょう。社内の膨大な仕事を分解・再定義し、個人の持つ能力やスキルとマッチングすることは、AIの得意とするところです。

AIと人間は、細分化されたスキルごとにコラボレーションのあり方を模索するようになります。ヒューマンワークとして残るのは人間関係の構築・維持で、さまざまな業務がプロジェクト単位で進むアジャイルな組織においては、より重要性を増すでしょう。

ジョブ型雇用の導入もままならない日本企業は、周回遅れともいえますが、飛躍的に進化する可能性もあります。固定電話が普及していなかった新興国でスマートフォンが普及し、一気に社会変革が加速したように、ジョブ型雇用を経ることなく一足飛びにスキルベース組織へと移行する。そんなリープフロッグ現象が起こるかもしれません。

カンファレンスに登壇したラビン・ジェスターサンカンファレンスに登壇したラビン・ジェスターサン。スキルベースの働き方など未来の組織について講演した。
Photo=尾原和啓

Text=渡辺裕子

プロフィール

尾原和啓氏

Obara Kazuhiro
IT批評家。京都大学大学院工学研究科応用人工知能論講座修了。マッキンゼー、NTTドコモ、リクルート、グーグル、楽天などを経て現職。共著に『アフターデジタル』『努力革命』ほか。

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