Global View From Work Tech World

第9回 求められる分散型マネジメント 企業は必要に応じて導入を

2024年08月23日

製造業を中心とする産業では、中央集権型マネジメントが一般的でしたが、不確実性の高まりやテクノロジーの進化を背景に、分散型マネジメントへの移行が進んでいます。多くの日本企業では、中央集権型の成功体験から脱却しないまま、1on1やコーチングなど分散型の手法を形式的に取り入れようとしており、管理職の負荷が増大しています。

中央集権型では決められた手順通り物事を遂行する管理能力、上意下達のコミュニケーションが重視されますが、分散型では、各自が変化に適応しながら、自律的・即興的に価値を生み出す力が求められます。不確実性に対して柔軟に適応せよと求めながら四半期ごとに計画を作成・遂行させ、現場に権限を移せといいながら序列に固執する。矛盾に晒される管理職が疲弊するのは当然です。

1996年の刊行以来、プロジェクトマネジメントのバイブルとされてきた「PMBOK」が2021年の第7版で大きく改訂されました。変化のポイントは大きく3点あります。

  1. 目的は成果物の提供→価値の提供

    決められた成果物を完全に仕上げるというプロジェクトの目的が、顧客が求める価値の創出と定義されました。重要なのは最初に目指した成果物の完成にこだわるのでなく、「なにをつくるのか(価値)」「なぜ始めるのか(目的)」という原理原則であり、環境の変化を察知しながら、柔軟に対応する力です。
  2. プロジェクト単体のマネジメント→プロジェクト・ポートフォリオマネジメント

    ハイブリッドカーに注力してきたトヨタが、脱炭素を背景に水素活用やモビリティそのものを再定義するWoven Cityに取り組むように、プロジェクト単体の管理だけでなく、必要に応じてポートフォリオを入れ替え、全体の勝率を高める視点が必要です。
  3. ピープル・マネジメント→ピープル・エンパワーメント

    メンバーが自律的に判断・行動するために必要なのは、ピープル・エンパワーメントです。ここで重視されるのは、信頼や透明性、インテグリティ、相互の尊重などです。

分散型は「0→1」に適していますが、「1→100」に有効なのは中央集権型です。ただ後者が機能するのも、上司・部下間の強固な信頼があってこそ。終身雇用・年功序列が崩壊し、上司・部下の関係が希薄化するなか、形ばかりの中央集権型を維持することにこそ矛盾があるのかもしれません。

イメージ写真Photo=Veam/Westend61/amanaimages

Text=渡辺裕子

プロフィール

尾原和啓氏

Obara Kazuhiro
IT批評家。京都大学大学院工学研究科応用人工知能論講座修了。マッキンゼー、NTTドコモ、リクルート、グーグル、楽天などを経て現職。共著に『アフターデジタル』『努力革命』ほか。

Reporter