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第12回 台頭するインド系CEOに共通する調和型・対話型リーダーシップ

2025年02月13日

グーグルのスンダー・ピチャイ、マイクロソフトのサティア・ナデラ、アドビのシャンタヌ・ナラヤンなど、インド出身者がメガテック企業のCEOに就任するケースが増えています。インド出身の経営者をあえて私が分類するなら、かつてソフトバンクで孫正義の後継者とされたニケシュ・アローラに代表されるタイプとピチャイやナデラのタイプに大別できるように思います。

前者は上昇志向が強く野心的で、ときに独善的でさえありますが、圧倒的な成果で周囲を納得させます。一方、ピチャイやナデラは調和型リーダーシップの典型であり、混沌において調和を見出し、文化変容をもたらす力に長けています。

ナデラはCEO就任時、まず企業文化を変えようと『NVC 人と人との関係にいのちを吹き込む法 新版』という本を幹部社員に配りました。NVCはノン・バイオレント・コミュニケーション、つまり非暴力的なコミュニケーションの意で、暴力や対立を排し、自らの内なる感情に注目する技法です。

彼の就任前、マイクロソフトはクラウド化に後れをとり、業績は低迷していました。官僚的な縦割り組織から脱却し、クラウドやエンタープライズ事業が飛躍的に成長したのは、ナデラの手腕によるところが大きいとされます。

ゼロイチのフェーズでは、事業部間で競い合うことも辞さない強権型リーダーが必要で、それが急激な成長にもつながります。一方、プロダクトの成長期には、既存事業とシナジーを生み出す調和型リーダーシップが求められます。グーグルでは当初、アンディ・ルービンが自ら興したアンドロイド事業を牽引していましたが、ピチャイが責任者に就任後、AndroidOSはスマートウォッチやテレビに組み込まれ、やがてChromeと統合され、今や全社を横断するプラットフォームとして相乗効果を生み出しています。

インド出身という共通点に少し強引に結びつけるなら、ナデラが訴えた非暴力コミュニケーションは、ガンジーの思想と通じるものがあります。競争は成長をもたらす一方、ときに分断をもたらします。さらなる成長を実現するには、事業部間の利害の対立を超克し、対話を導くリーダーシップが必要なのでしょう。トランプやプーチンに代表される独裁的・強権型リーダーが台頭する一方、飛躍する企業において、こうしたリーダーが現れているのは興味深いことです。

マイクロソフトのサティア・ナデラ氏の写真組織の調和を重んじるインド人。CEOの手腕が注目されている。
Photo=AFP=時事

Text=渡辺裕子

プロフィール

尾原和啓氏

Obara Kazuhiro
IT批評家。京都大学大学院工学研究科応用人工知能論講座修了。マッキンゼー、NTTドコモ、リクルート、グーグル、楽天などを経て現職。共著に『アフターデジタル』『努力革命』ほか。

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