Global View From Work Tech World

第10回 AIによるスキルマッチングで必要な人材の正確な把握を

2024年10月17日

2023年10月、伊藤邦雄氏が会長を務める人的資本経営コンソーシアムから好事例集が発表されました。人的資本経営とは経営戦略と人材戦略の連動、As is-To beギャップの定量把握などの視点が挙げられていますが、事例を見る限り、多くの日本企業では局所的な打ち手にとどまり、経営戦略と連動した人的資本経営の実践例は少数のように感じます。

鍵となるのは経営視点に立った人的資本の可視化ですが、アメリカでは2017年頃から、さまざまなHRテックがこの領域に参入しています。

オラクルのHRマネジメントシステムでは、自社の人材ポートフォリオをダッシュボード上で一元管理できます。コアとなる人材はもちろん、チーム内で成長著しい人材、重点的にフォローすべき人材などがアルゴリズムで一覧化されます。育成の進捗状況も可視化され、要員計画に対する進捗状況が把握できるので、リソース配分の打ち手が明確になります。

やはりアメリカのスタートアップEightfold AIが提供するプラットフォームでは、レジュメをAIが分析し、スキルタグを生成・付与してくれます。社内ジョブも同様にAIが分析し、スキルタグが付与されるので、目指すべき人材ポートフォリオと現状の把握・比較も容易です。社内外のマッチングが容易になるだけでなく、アップスキリングやリスキリングに必要な投資検討にも役立ちます。

AIによるスキルマッチングは、DE&Iの推進にもつながります。性別や属性などバイアスを排除し、スキルや経験に基づいた評価が可能になるためです。

人的資本管理には、2つの考え方があります。1つは、決められた手順に従って正確に業務遂行する人材の確保という視点。この場合、人材は代替可能なものとされ、一定の量と質の担保が主眼となります。もう1つは大きな価値をもたらす希少人材を獲得し、パフォーマンスを最大化する視点です。

後者は社内での育成が難しければ、採用するしかない。そのためにどのような戦略が必要か逆算して、報酬制度を設計し、組織のダイバーシティを推進することが、経営戦略と人材戦略の連動であるはずです。優秀な人材の獲得には魅力的な報酬は欠かせませんが、これまで自社で育成できなかった人材の受け入れには、自社の単一的なカルチャーからの変容も求められます。

イメージ写真AIなどテクノロジーの活用が人的資本の可視化を可能にする。
Photo=Doable/amanaimages

Text=渡辺裕子

プロフィール

尾原和啓氏

Obara Kazuhiro
IT批評家。京都大学大学院工学研究科応用人工知能論講座修了。マッキンゼー、NTTドコモ、リクルート、グーグル、楽天などを経て現職。共著に『アフターデジタル』『努力革命』ほか。

Reporter