Global View From USA
第4回 米国で威力を増す労働組合 待遇改善の手段として高まる支持
全米脚本家組合(WGA、組合員数1万1500人)が5月、ストライキに突入したのをきっかけに、全米で「労働組合」の威力を見せようという動きが広がっている。全米トラック運転手組合(チームスターズ、同120万人)は、アマゾンなどの運転手の賃上げ闘争に乗り出している。ブルームバーグ通信は、「数十年ぶりに全米各地の組合で約65万人の労働者がストに参加する」と報じた。
WGAのストは8月9日、100日目に突入し、7月13日からスト入りした全米映画俳優組合(SAG-AFTRA、同16万人)とともに全米各地でデモを行った。両組合が同時にスト入りするのは1960年以来63年ぶりだ。ニューヨークの中心部にあるNetflix社前では1000人以上が、「企業の拝金主義は許せない」とシュプレヒコールをあげた。「ニューヨークは組合の街だ!」というコールには、トラックやタクシーの運転手らがクラクションを鳴らし、「団結」を表現した。
両組合の重要な要求事項は、賃上げのほかに生成AIなどを使った映画・テレビ番組制作に対する権利の保護と報酬だ。
「 映画で1シーンしか撮影しなかったのに、完成したら複数のシーンに(AIで作られた)自分が登場していた。何も言われていないし、報酬もない」と俳優のジージー・
カサノバさん。デモ参加者らは次々に、映画スタジオやNetflixなどはAI技術者を増やし、既に俳優や脚本家の仕事を奪っていると証言した。
一方、運転手組合のチームスターズは、ユナイテッド・パーセル・サービス(UPS)の運転手の賃上げをめぐり、8月1日からのスト権を確立していたが、UPSと暫定合意に至り、UPS運転手34万人の職場放棄による物流混乱は避けられた。チームスターズは次に、労組がないアマゾンの運転手の時給引き上げを狙っている。
全米自動車労働組合(UAW、同15万人)は7月中旬、自動車大手ビッグスリーと4年に1度の契約更新交渉に入った。フォーチュン誌によると、ショーン・フェインUAW委員長は「ビッグスリーはストの標的だ」とスト入りをほのめかしている。このほか、年初から教師やヘルスケア従事者、倉庫従業員らがストを展開。労組に対する労働者の自信と信頼を高めている。
米国でも物価が急騰し、低賃金の改善は多くの労働者にとって切実な問題として浮上した。そのなかで、会社に圧力をかけられる有効な手段として労組への支持が急速に高まっている。
Text=津山恵子
プロフィール
津山恵子氏
ニューヨーク在住ジャーナリスト。元共同通信社記者・ニューヨーク特派員。著書に『現代アメリカ政治とメディア』(共著)など。海外からの平和活動を続けている長崎平和特派員。
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