Global View From USA
第12回 増えるSNSの「不況対策」コンテンツ 若者世代の焦りや不安感の裏返しか
SNSにあふれる不況対策。しかしそのSNSのあり方も問われている。
Photo=AFP=時事
経済的な不安定感がアメリカ社会全体で高まっているなか、Instagram Reelsなどで「不況対策(recession prep)」というフレーズを筆頭に、「備えとしてのお金を貯めるアドバイス」をするコンテンツを最近多く目にする。主に若者の間で副業や貯金をすることを勧めたり、投資の基礎を共有したりするインフルエンサーが注目を集めている。大統領選挙や経済政策の変動に加え、貿易摩擦やインフレリスクが懸念される状況で、SNS上のコンテンツクリエイターは視聴者の経済的不安に対応するべく、新たな戦略を模索しているのだ。
アメリカでは、トランプ次期大統領が発表した25%の関税政策や移民問題への対応が、経済環境をさらに不安定なものにしている。エコノミストらは、こうした政策が消費者物価の上昇や貿易関係の混乱を引き起こし、経済全体に広範な影響を与える可能性があると警告している。この背景のなかで、特に若い世代が経済的安定を求めて情報を積極的に探し始めている。
人気なのは、「給料日ルーティーン」「予算の見直し」「収入源の多様化」「投資初心者ガイド」などのテーマだ。緊急資金の確保や副業の重要性を説くケースも多く見かける。さらには「job securityは期待できないからcareer securityに集中するべき」などと、不安定な雇用状況に臨機応変に対応するためのノウハウを伝授する人もいる。
しかし、アメリカにおけるTikTok禁止法が騒がれるなかで、インフルエンサー経済自体も不安に直面している。ブランド契約やスポンサーシップの減少が懸念されるのはもちろん、クリエイターの主要な収益源であるエンゲージメントもプラットフォームのアルゴリズムの変化とともに変わってしまう。インフルエンサーたちのなかには、これによって商品販売や有料サブスクリプションといった直接的なマネタイズ手法に移行しつつある人もいる。
SNS上でのコンテンツの方向性にも変化が起きている。かつては贅沢なライフスタイルを発信するインフルエンサーが人気だったが、現在ではそのような投稿も「空気が読めない」と批判されかねないうえ、以前と比べて話題にもなりづらい。節約術や副業などのライフハック的なコンテンツが支持や共感を得ているのは、若者たちのニーズとともに焦りや不安が反映されているからなのだろう。
Text=竹田ダニエル
プロフィール
竹田ダニエル氏
カリフォルニア大学バークレー校在学中。AI倫理教育研究員。1997年生まれ。カリフォルニア州出身、在住。著書に『世界と私のA to Z』『# Z世代的価値観』。
Reporter