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第11回 急速に広まるテック業界での雇用悪化 AIや自動化による失業対策が急務
9月半ば、ウォール・ストリート・ジャーナルは、「テック系の職は枯渇した──そしてすぐに復活することはない」という記事を公開した。UCバークレー校教授のジェームズ・オブライエン氏がその記事を引用しつつ、コンピュータサイエンス専攻の卒業生が就職難に直面している現実についてLinkedInに投稿をしたところ、大きな話題を集めた。
オブライエン教授曰く、かつてはバークレーをはじめとする有名大学のコンピュータサイエンス学科の卒業生は、数々のいわゆる「トップ企業」からオファーを受けることが一般的だったが、近年の労働市場が急速に変化している影響で、成績優秀なトップクラスの学生でさえ、思うように就職先が見つからない状況が続いているという。
私が学部生だった2018年と比較しても、確かに状況はまったく違う。当時は少しでもプログラミングができれば確実に就職できるといった安心感があり、「コンピュータサイエンス学科卒業=一生安泰」といったムードさえ漂っていた。
しかし、現在のテック企業の不安定な雇用状況は、2024年のアメリカの労働事情のなかでも突出している。2024年だけで、457社以上の企業が13万人以上の従業員を解雇したといわれており、Appleがコロナ後初めてシリコンバレーで600人以上の従業員を解雇したほか、Intelは8月に業績の低迷と支出削減を理由に、総従業員の15%以上にあたる1万5000人を削減すると発表した。
この背景には、プログラミング業務のアウトソーシングや、AIを活用したツールの普及が、特に2020年以前には莫大な需要があった、初級レベルのエンジニア職の需要を減少させていることがあるといわれている。
オブライエン氏は、「今すぐに何か解決策を考え始めなければならない」と強調したうえで、AIや自動化による人材削減が続いていくなかで、社会全体でユニバーサル・ベーシック・インカム(UBI)の導入が検討されるべきだとも主張している。具体的には、AIや自動化技術による労働に対して課税し、その財源をUBIに充てることで、テクノロジーの発展によって生まれてしまった職の消失問題に対応できる可能性を提案した。
この指摘は話題を集めているが、一時的な救済策ではなく、社会全体の仕組み自体を早急に見直さなければいけない、かつてのテック業界の「夢」を抱き続けているのは現実的ではない、という厳しい認識が徐々に広がりつつあるのだ。
Text=竹田ダニエル
プロフィール
竹田ダニエル氏
カリフォルニア大学バークレー校在学中。AI倫理教育研究員。1997年生まれ。カリフォルニア州出身、在住。著書に『世界と私のA to Z』『# Z世代的価値観』。
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