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第3回 国防費増額のために祝日を1日廃止 広がる働き方の自由化に逆行と猛反発
1686年に制定された「Store Bededag(大祈祷日)」というデンマークの祝日が、2023年を最後に廃止されることになった。祝日をなくして税収を上げ、ウクライナ戦争に伴う国防費の増額に充てるためである。
政府のこの決定が、デンマークでは珍しく大論争を巻き起こした。世論調査では国民の7割が反対。国会前では労働組合を中心に大規模なデモも起き、雇用主と従業員が決めるべき労働問題に政府が介入した、と反発した。
ただ、反対が広がった根本的な理由は、労働時間を減らし、働き方の自由を求めるトレンドに完全に逆行していたことにある。
パンデミックを機に人々が価値観を見つめ直し、働き方を変えたのは世界的な現象だが、デンマークでもそれは顕著である。2022年の総選挙で、フルタイムを週37時間から30時間に短縮することを提案した政党は、「我々は既に豊かで、生産性も高い。今、私たちに必要なのは、家族との時間なのだ」と訴えた。週休3日制を実験的に取り入れたある自治体では、好意的な反応を受けて、制度の恒久化を決定。首都のコペンハーゲン市でも、2024年から週休3日制の実験を始める。
もともと、仕事の進め方を個人の裁量に任せる労働文化が根付いていたこともあり、コロナ禍を経て、自宅勤務の流れは加速している。大手銀行勤務のある女性は、週末の旅行先に木曜日の夜に入り、金曜日は現地のカフェで仕事をして、長めの休暇を楽しんでいる。多数の自宅勤務者を見込んで、勤務スペースを減らした企業もある。「会社に行っても机が空いてないから、1カ月近く家で仕事をしていた」とは、海運企業勤務の友人の話だ。
サステナブルな暮らしや食の未来像を提示し、世界から注目を集めるイノベーションラボ「SPACE 10」(コペンハーゲン)は、さらに一歩先を行く。クリエイターが創造力を最大限発揮できると同時に、チームとのつながりも感じられる働き方を模索した結果、月曜日の朝だけ全員が集まり、あとはどう仕事をしてもいいと決めた。「人々が来たいと思えるほど、職場を魅力的なものにしなくてはいけない」という説明である。
今や、優れた才能は世界的な奪い合いとなっている。彼らを惹きつけたい企業の側が、職場として魅力的に映るためには、自由という強いニーズを汲み取る必要がありそうだ。
Text=井上陽子
プロフィール
井上陽子氏
北欧デンマーク在住のジャーナリスト、コミュニケーション・アドバイザー。筑波大学卒、ハーバード大学ケネディ行政大学院修了。読売新聞でワシントン支局特派員など。現在、デンマーク人の夫と長女、長男の4人暮らし。
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