Global View From Nordic

第10回 子育てはもっと“楽”を基本に 本当にそれって必要?

2024年10月17日

子供が水遊びをしている写真クーラーもない北欧から来ると、日本の酷暑はかなり堪える。でも、子どもたちは暑さにもめげず、学校の友達や親戚と楽しい時間を過ごした。
Photo=井上陽子

デンマークの学校は、6月に年度が終わり、8月半ばまでが夏休みである。そこでここ数年は、6月末に子どもたちを日本に連れて行き、日本の1学期が終わるまでの数週間、実家近くの小学校と幼稚園で過ごさせてもらっている。

子どもたちにとっては日本語や日本文化を学ぶ貴重な経験なのだが、私にとっては、日本での子育てを垣間見る絶好の機会でもある。同級生の親と話していて痛感するのは、働く女性が増えたとはいえ、家事や子育てはまだまだ母親が中心だということ。学校や幼稚園に行かせる手間も、母親の負担になっているようだが、デンマークとの違いを感じるのが、デフォルトが“楽ちん”かどうか、である。

たとえばその日、水泳ができるかどうかを記入する「水泳許可証」。日付や体調の良し悪しを書き、印鑑を押して提出するのだが、これはそもそも必要だろうか、と思ってしまった。できないときだけ学校に伝えることにして、泳げるときには提出なしにすれば、記入する親(それはたいてい母親)だって、確認する先生だって、楽なのでは?

おそらく、これを書かせる安全上の理由はあるのだろうし、そんなの1分で終わる、ということかもしれない。でも、こうした作業が「忙しい親に時間を割かせている」と考えず、それを良しとしていると、ほかのことも積み重なっていくのではないだろうか。手作りの想定で、サイズ指定の袋をいくつも用意する必要があるのも、その1つだろう。最近、デンマークから日本に戻った友人は、それを“袋地獄”と呼んで苦笑していたが、共働きが標準で、忙しい親の負担になるような雑事はできるだけ減らす、というデンマーク的感覚では、ちょっと考えづらい。

日本の出生率低下の原因として指摘されることの1つが、家事育児の負担が、あまりにも母親に偏っていることである。袋を用意したり、すべてに名前を書いたりするのも、母親がやっている家庭が多いのではないだろうか。

頑張り屋の働く母親たちは、それでも努力と根性で何とかしてきたのだろうが、それだと子育てが大変すぎて、敬遠されても仕方ない。本質的には、父親が日常的に育児や教育に関わるような仕組みが必要だと思うのだが、せめて、子育てはもっと“楽ちん”をデフォルトにする、という考えが浸透しないものだろうか。

Text=井上陽子

プロフィール

井上陽子氏

Inoue Yoko
北欧デンマーク在住のジャーナリスト、コミュニケーション・アドバイザー。筑波大学卒、ハーバード大学ケネディ行政大学院修了。読売新聞でワシントン支局特派員など。現在、デンマーク人の夫と長女、長男の4人暮らし。

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