Global View From Nordic

第9回 フラットな組織が育むイノベーション 効率的な意思決定で短時間労働も可能に

2024年08月23日

デンマークの設計事務所風景デンマークの設計事務所で、日本との職場文化の違いを経験した中野さん。日本の職場でも、仕事を効率化させるためのアイデアがいろいろと浮かんだそうだ。
Photo=井上陽子

その昔、デンマークの職場文化を学ぶ講座を受けた際に、面白い統計を見かけた。何かわからないことがあったとき、「上司は答えを持っているべきだ」と考える人の割合が、インドや中国で9割以上などアジアで高い一方、ノルウェーは23%、デンマークは11%、スウェーデンでは7%と、北欧諸国ではかなり低い。はなから上司に答えを期待していないのだ。

専門性に基づくジョブ型の採用が一般的で、自律的な仕事をしていることもあるが、学校の先生も社長もファーストネームで呼ぶようなフラットさの影響も大きい。管理職というのはそういう職種であって、別に部下より偉いわけではない、という意識がある。そんな北欧人に言わせれば、日本の上司と部下の関係は、まるで親と子のように見えるそうだ。

デンマーク企業で働いた日本人が、日本の組織と異なる点としてよく指摘するのも、この「管理職との距離感」だ。デンマークの設計事務所「シュミット・ハマー・ラッセン・アーキテクツ(SHL)」で1年を過ごした大手ゼネコンの建築デザイナー、中野舞さんは、決裁権があるパートナーが、建築デザインを決める会議に毎週のように入ることに驚いたそうだ。そのメリットは、数ある候補のなかでも「これはない」というデザインが早い段階でわかり、余計な作業を省けること。それに、選定プロセスを共有することで、決裁権のある上司からのダメ出しで、一から作業をやり直すような無駄が起きない。結果的に仕事が早いのだ。

組織のフラットさがもたらすのは、スピードだけではない。SHLのパートナーであるマッツ・カルトフト氏は、「ヒエラルキーは組織の安定のためには有益だが、イノベーションや創造性が求められる仕事に必要なのは別のもの。それはオープンさであり、ミスを高いレベルで許容する環境だ」と語る。同氏は、会社にとっての最大の資産は、社員のアイデアであり、「もしもパートナーレベルの上層部だけがアイデアを出す権限を持っていたら、我々のビジネスはかなり遅れたものになっていた」と力を込める。

どんな人の意見でも尊重するフラットな文化は、人件費の高いデンマークで、少ない人数で組織を回す知恵でもある。若手のモチベーションにもなるだろう。そんな組織文化が、短時間労働でも成果を出すことにつながっているのだ。

Text=井上陽子

プロフィール

井上陽子氏

Inoue Yoko
北欧デンマーク在住のジャーナリスト、コミュニケーション・アドバイザー。筑波大学卒、ハーバード大学ケネディ行政大学院修了。読売新聞でワシントン支局特派員など。現在、デンマーク人の夫と長女、長男の4人暮らし。

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