Global View From Nordic
第2回 日本人が失敗する「CC問題」 「あればナイス」より価値向上に集中
3月に発表された国連の幸福度報告書で、2023年もまた、北欧5カ国はすべて10位以内にランクインした。北欧諸国に共通する特徴はいくつもあるが、1つは労働時間の短さだろう。前回デンマークではラッシュアワーが午後4時台と書いたが、終業後に1日の“第二部”があるような日常が、幸福度にも密接に関係しているように感じる。
しかし、どうやったらそんなに早く仕事が終わるのだろうか?
現地企業で働き始め、“デンマーク流”の洗礼を受けた日本人から話を聞くと、失敗談として話題に上るのが「メールのCC問題」である。
日本では、CCのみならずBCC も駆使しながら、仕事の状況を幅広い関係者に伝えることは、むしろポジティブに取られているように思う。ところが、同じ感覚でデンマーク人にCCを送っていると、「自分に無関係のメールで時間を無駄にさせるな」と怒られかねない。残業はめったにしない人たちで、労働時間の管理にはシビアなのである。
ある日本人は、労働時間を抜本的に減らすために、仕事内容を「あればナイス」なことなのか、ないと仕事として成立しないのかで分けて考えるようになったと説明した。たとえば会議の議事録を作って共有するといった「あればナイス」な作業は、一切やめたと言う。代わりに、自分の仕事の価値を上げる作業を時間内に終わらせることに集中しているのだそうだ。
メールのCC問題が象徴しているのは、「それは、自分の仕事に価値を生み出す作業か?」を厳しく問う姿勢なのだろう。
やらないことが多い一方で、デンマークのビジネスの特徴の1つが「Agility (機敏性)」へのこだわりだ。2022年の世界競争力ランキングで、デンマークは首位となったが、内訳を見ると、機敏性を含む「経営慣行」の項目が1位。ちなみにこの項目、最下位(63位)は日本だった。
時間が来たらさっさと帰るとか、最低限の自分の仕事だけやるような働き方は、日本人の美徳である勤勉さやサービス精神に反するように感じるかもしれない。しかし、長時間職場にいるとか、気が利くとか、“やってる感”を出すことに重きを置き、その仕事本来の価値を上げることに時間をかけていないとするなら、その勤勉さとはいったい誰に向けたものなのだろう。そんなことも考えさせられるのである。
Text=井上陽子
プロフィール
井上陽子氏
北欧デンマーク在住のジャーナリスト、コミュニケーション・アドバイザー。筑波大学卒、ハーバード大学ケネディ行政大学院修了。読売新聞でワシントン支局特派員など。現在、デンマーク人の夫と長女、長男の4人暮らし。
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