Global View From Nordic
第12回 DXと集約化で医師も脱長時間勤務 50歳未満医師の6割が女性に
デンマーク王立病院に臨床留学し、2年間を過ごした濵田さん。医師の働き方の違いをまざまざと経験したという。
Photo=井上陽子
日本の新聞記者として超がつく長時間労働をしてきた私にとって、午後4時台には職場を出るデンマークの働き方は、特に興味深い取材テーマである。一般的な組織での効率的な働き方については、本連載でも何度か取り上げたが、驚くのは、日本では激務でも仕方ないとされる職種の人でも、基本的に残業なしで帰っていることだ。医師もしかり、である。
日本の大学病院で典型的な長時間労働を経験してきた外科医の濵田隆志さんは、デンマークの病院では、外科医ですら残業をしないことに驚いた。大きな違いは、シフト制の考え方だ。今日は手術だけ、外来だけ、当直だけと、決められた役割を100%こなすことが評価されており、時間外だろうが犠牲心や善意で仕事をこなす日本の医師の働き方との違いを感じたそうだ。
仕事の効率化も徹底している。国全体で統一された医療データベースがあるため、手術内容などを記載しておけば、患者の転院先からも内容が参照できる。このため、転院先に診療情報提供書を郵送する、といった日本での事務作業が大幅にカットできる。また、看護師や麻酔科医らとの明確なタスク分けにより、外科医としての仕事に集中できる環境もあるそうだ。
ただ、短時間労働ということは、医師としての経験が積みづらいわけだが、それを解決するのが「集約化」の仕組みだ。王立病院は、肝臓、胆道、膵臓の困難な手術を一手に引き受けており、一施設としての手術数は欧州でもトップクラスである。こうした手術を担当するのは限られた外科医だけで、当直勤務もせず、集中して手術の技術を磨いている。
「外科医って技術職なので、慣れが大きいんです。年間100人から200人の手術に入れば、それはうまくなります。毎日サッカーをする人と、週に1回の人では、練習量が違うのと同じです」と濵田さんは言う。
興味深いのは、医師の仕事のワーク・ライフ・バランスの良さが、女性医師の増加をもたらしたことだ。若い人ほどその傾向は強く、デンマーク医師会によれば、50歳未満の医師の男女比は37:63と、圧倒的に女性が多い。
日本では医師不足が深刻な問題だが、激務のために女医が子育てをしつつ仕事を続けるのが難しい、という事情がある。デンマークの現実が示すのは、医師不足問題への1つの答えであるようにも見える。
Text=井上陽子
プロフィール
井上陽子氏
北欧デンマーク在住のジャーナリスト、コミュニケーション・アドバイザー。筑波大学卒、ハーバード大学ケネディ行政大学院修了。読売新聞でワシントン支局特派員など。現在、デンマーク人の夫と長女、長男の4人暮らし。
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