労働時間を削減すべきか、働く場所の自由度を高めるべきか ―「働き方改革」における労働時間の課題 戸田淳仁

2016年11月02日

政府が現在進めている「働き方改革」において、長時間労働削減のための労働時間上限規制の検討、同一労働・同一賃金実現のためのガイドラインなどの整備が挙げられている。その中でも労働時間規制については、上限となる労働時間を設けようという議論が進んでいる。

こうした議論が重要であることは言うまでもないが、業種や職種によって、長時間労働となる構造が異なるなどの事情により、働く個人が直面する長時間労働の課題を完全に克服するには他の施策も必要だとみている。ここでいう課題とは、長時間労働がもたらすストレス増大、健康悪化のことである。上限規制を進めつつ別の施策の推進も合わせて検討するといった際に、以前注目を浴びた「ホワイトカラー・エグゼンプション」のような柔軟な働き方を認める方向性もあるが、以下では、在宅勤務など働く場所の自由度の重要性を改めて指摘したい。

まずは、2つほど事実を確認しておきたい。

図1は、雇用者ならびに正社員のうち、どれだけが勤務時間や勤務場所に自由度があるかという回答結果である。勤務時間を自由に調整できる(調査における質問文では選べる)と考えている雇用者は14.8%、勤務場所は8.5%にすぎず、そのうち正社員に限定してみると、勤務時間に自由度があると考える正社員は8.8%、勤務場所は4.9%と、雇用者よりもさらに割合が低い。多くの雇用者は勤務時間や勤務場所は、企業から指定されるのが実態だと改めて確認ができる。

図1 勤務時間・勤務場所が自由に選べた人の割合

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次に、図2に示した週当たり労働時間別の仕事満足度や生活満足度を見てみよう。ここでは労働時間の長い人が多いと考えられる60歳未満の正社員に限定している。これらの満足度は仕事や生活におけるストレスと相関しており、満足度の高い仕事や生活であるほどストレスなく働いていると考えられる。週当たり労働時間が長くなるほど、仕事満足度も生活満足度も低下する。やはり長時間労働の人ほど、仕事にストレスを感じて満足度が下がるとともに、趣味の時間や休息時間などがとりにくく、生活満足度が低下する。

こうした事実はこれまでも指摘されたとおりである。それでは、勤務時間・場所の自由度が高い人についても、図2で見られた傾向があるだろうか。

図2 2015年12月の週労働時間別 仕事・生活満足度の割合
(正社員に限定)
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図3は、勤務時間の自由度の高い正社員に限定して、図2のように満足度の傾向を見たものである。仕事満足度については49~60時間未満まで緩やかに低下する傾向が見られるが、60時間以上においてはそれより少ない時間よりも仕事満足度が高い傾向が見られる。一方、生活満足度については週当たり35時間以上においては緩やかに低下する傾向が見られる。勤務時間が自由とはいえ、労働時間が長いと仕事生活満足度は緩やかに低下し、図表2とあまり結果は変わらないと言える。一方、勤務場所が自由であるとどうであろうか。

図3 2015年12月の週労働時間別 仕事・生活満足度の割合
勤務時間を自由に選べる正社員に限定)
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図4 2015年12月の週労働時間別 仕事・生活満足度の割合
勤務場所を自由に選べる正社員に限定)
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図4は勤務場所の自由度の高い正社員について見たものである。生活満足度は42~49時間未満より労働時間の長い区分において、仕事満足度は35~42時間未満より労働時間の長い区分において、満足度が高まる傾向が見られる。勤務時間が自由であるよりも勤務場所が自由であることは、労働時間が長くなっても満足度を低下させない。この事実は、労働時間を削減するよりも働く場所の自由度を高めることが、働く個人の視点で満足度を高めることを示唆している。

労働時間の削減も重要であるが、その目的が働くことによるストレス削減、健康悪化なのであれば、労働時間の削減だけでなく、在宅勤務制度を導入するなど勤務場所の自由度を高めることが必要であろう。一部の企業ではIT技術のサポートを受けながら在宅勤務制度を拡充しているが、図1が示唆するようにごく一部の企業にとどまる。こうした動きを進めていくための課題はいくつかあるだろうが、著者が聞く限りでは、在宅勤務を推進することのメリットをきちんとデータで示すことが、多くの人が在宅勤務の良さを知るうえで重要であろう。在宅勤務が個人だけでなく、いかに企業にとってもメリットがあるか、今後検証していきたい。

戸田淳仁(リクルートワークス研究所 主任研究員/主任アナリスト)

本コラムの内容や意見は、全て執筆者の個人的見解であり、所属する組織およびリクルートワークス研究所の見解を示すものではありません