やる気の出る仕事と出ない仕事は、何が違うのか 久米功一

2016年12月02日

職務特性からやる気を定式化する

やる気の出るような仕事とはどんなものだろうか。職務特性を研究したハックマンとオルダムは、やる気と満足度に影響を及ぼす仕事の要素として次の5つを挙げている[1]。つまり、①技能多様性(求められるスキルの多様さ)、②タスク完結性(部分ではなく全体を把握できるかどうか)、③タスク重要性(他者に影響を与えるかどうか)、④自律性(仕事の進め方への関与)、⑤フィードバック(自身の実践の効果に関する評価)である。

働き手は、①②③を通じて、仕事の意義を理解し、④で結果に対する責任を持つようになり、⑤によって、成果に関する知識を豊かにする。この一連の経験が、やる気と満足度を高めるとして、以下の定式化がなされている。

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MPSは、モチベーションが引き出されるスコアであり[2]、一般的に、MPSの高い職務は、働き手にやる気と満足度をもたらす。しかし、賃金や時間、仕事の安定性、労働環境などの衛生要因が欠如していれば、MPSに比して、やる気や満足度が低くなることもありうる[3]

職務特性と仕事満足度、その実態はどのようか

では、実態はどうなっているのか。「全国就業実態パネル調査」(2016年)では、職務特性と仕事満足度について質問をしている[4]。その結果を用いて、45の職種区分に関して、MPSと仕事満足度の関係を図示した(図を参照)。図中の直線は、MPSから理論的に導かれる仕事満足度のレベルを表している。

図 MPSと仕事満足度の関係 ※クリックで拡大しますmps_potential_score.png

 この図から、3つのことが観察される。第一は、MPSと仕事満足度の間には、ハックマンらの理論の通り、有意に正の相関がみられることである。MPSは仕事満足度の良い予測変数となりうる。第二に、MPSは職種によるばらつきがみられる。MPSが高い職種として、経営関連専門職、コンサルタント、法務関連専門職、会社・団体等管理職、逆に、低い職種として、OA機器オペレーター、製造・生産工程作業者、ドライバー、保安・警備職がある。MPSの低い職種については、職務特性の5要素のいずれかを改善させて、職務特性と仕事満足度を高める必要があるだろう。最後に、予測値(図の直線)から乖離する職種が散見される点である。上述の通り、外れ値となる職種は、賃金や時間、仕事の安定性、労働環境などの衛生要因が欠如している可能性がある。この点について、働き方の可視化指標「Works Index」のスコアを用いて説明してみよう[5]

衛生要因の改善に目を向ける

たとえば、法務関連専門職は、MPSは高いものの、予測値を大きく下回る。Works Indexのスコアをみると、Index1(就業の安定)が下位4番目である。会社・団体等管理職は、Index3(ワークライフバランス)が下位7番目となっている。これらの職種は、就業の安定性や労働時間などが、職種特性から本来得られるはずの仕事満足度を毀損しているといえる。

一方、家政婦(夫)ホームヘルパーなどは、MPSは低いものの、仕事満足度が相対的に高い。その背景として、Index3(ワークライフバランス)が2番目に高いことが挙げられる。生活衛生サービス職業(理容師・美容師など)は、Index1(就業の安定)やIndex3(ワークライフバランス)が低いものの、職務特性に加えてIndex5(ディーセントワーク)の高さがみられる。

仕事満足度が低ければ、職務特性を見直すべきであり、職務特性から本来得られるべき仕事満足度を十分に得られていないとすれば、衛生要因を改善するべきだろう。図に示されたMPSと仕事満足度に関する職種間のばらつきは、やる気の出る職務の設計には、多様なアプローチがあることを示唆している。

 

[1] Hackman, R. and Oldham, G. 1980, Work Redesign, MA: Addison-Wesley
[2] 松山淳氏の訳出による(http://www.earthship-c.com/leadership/Job-Characteristics-Model.html
[3] たとえば、介護職に関する調査として、労働政策研究・研修機構(2009)「介護分野における労働者の確保等に関する研究」労働政策研究報告書 No.113がある
[4] 具体的には、職務特性は、「単調ではなく、様々な仕事を担当した」「業務全体を理解して仕事をしていた」「社内外の他人に影響を与える仕事に従事していた」「自分で仕事のやり方を決めることができた」「自分の働きに対する正当な評価を得ていた」、仕事満足度は「仕事そのものに満足していた」に対して、「あてはまる」から「あてはまらない」までの5段階で回答してもらった。
[5] Works Indexの詳細は、https://www.works-i.com/surveys/item/160523_WorksIndex2015.pdfを参照されたい。

久米功一(リクルートワークス研究所 主任研究員/主任アナリスト)

本コラムの内容や意見は、全て執筆者の個人的見解であり、所属する組織およびリクルートワークス研究所の見解を示すものではありません。