長時間労働は家族形成を阻害するか 三輪哲

2016年10月20日

2016年9月に、東京都の小池百合子知事が、夜8時には完全退庁するように職員へと呼びかけた。長時間労働を避けようという意図がそこにはみられる。もっとも、長時間労働の問題は東京都庁に限られるわけでなく、日本社会は労働時間が著しく長い、との指摘が昔からなされている。とりわけ働き盛りの男性について、その見方は妥当であるようだ。

労働時間が長くなることのデメリットとして、家族形成の妨げとなることがある。家族形成とは、結婚やパートナーシップ形成、出産などによって新たに家族がつくられることだ。労働時間が長過ぎて、結婚へと踏み出せなかったり、配偶者とのかかわりが少なくなって子どもを授かりにくくなったりすることがありうるとされる。

本当に、長時間労働は、結婚や出産をしにくくさせるのか。この点を検証するため、「全国就業実態パネル調査2016」のデータより、30~39歳の男性正規雇用者を対象に、2015年の1年間における結婚と出産の推定確率をみてみよう。

図1は、週当たりの労働時間の分布である。最も割合が高いのは30時間超40時間以下で、全体の4割を占める。40時間超50時間以下が3割7分ほどである。これら2つ合わせて、全体の4分の3を超える。他方、60時間を超える人も、6%ほどいるようだ。

図1 週当たり労働時間数(30~39歳男性)

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図2は、推定された2015年の結婚確率[1]を労働時間別に比較したものである。正規雇用の30代男性では、週当たりの労働時間が60時間以上となるグループの結婚確率が唯一5%を切る水準となり、相対的に結婚しにくいことがわかった。

図2 労働時間と結婚確率(30~39歳男性)

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図3は、推定された2015年の出産確率[2]である。労働時間が週60時間以上のグループでは、出産を経験する確率が15%程度であった。この値は、他のそれよりも概ね4~7ポイントくらい低い水準である。

図3 労働時間と出産確率(30~39歳男性)

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「全国就業実態パネル調査」のデータ分析から、働き盛りの30代正規雇用男性においては、長時間労働が結婚や出産の確率を低くしていることがうかがえた。非婚・晩婚化や少子化の背景には、日本社会に根付いた労働慣行の影響もあるのかもしれない。

結果は割愛したが、こうしたクリアな結果は、20代男性や非正規雇用まで対象を拡げると見えにくくなる。また、「結婚や出産をしたから労働時間を抑制した」という逆方向のメカニズムの影響もありうる。よって今回の分析結果の解釈は、慎重になされなければならない。「全国就業実態パネル調査」ならば、この先に調査データが累積されていくことで、より詳細で確かな分析結果が得られるだろう。今後の同調査の展開に、大いに期待したい。

[1] ここでは、調査時点で配偶者がいない者とこの1年間に結婚した有配偶者のなかでの、直近1年間の結婚経験の割合を求めた。
[2] こちらは調査時点で有配偶者とこの1年間に離婚をした無配偶者のなかでの、パートナーが出産あるいは妊娠した経験の割合を求めた。

三輪哲(東京大学社会科学研究所准教授)

本コラムの内容や意見は、全て執筆者の個人的見解であり、所属する組織およびリクルートワークス研究所の見解を示すものではありません。