2015年のニート 玄田有史

2016年10月06日

2004年に『ニート』(幻冬舎)を共著し10年以上が過ぎた。翌年『働く過剰』(NTT出版)を出したが、総務省統計局「就業構造基本調査」からニートを考えた。当然データは2000年代前半までのものだ。

最近のニートは、どうなっているのか? リクルートワークス研究所が2016年に実施した「全国就業実態パネル調査」から、2015年12月のニートを調べてみる。

定義は、『働く過剰』および『日本労働研究雑誌』に投稿した「若年無業の経済学的再検討」[1]と同じ。15歳以上34歳以下の未婚者(在学中を除く)のうち、2015年12月に仕事をせず、さらに求職活動や開業準備をしていなかった人々が「ニート」に当てはまる[2]

ニートは、就業を希望しつつも職探しをしていない「非求職型」と、そもそも働くことを希望していない「非希望型」に分類される。一方、求職中であるニート以外の無業者が「求職型」。図1にそれらの推移を示した。

図1 15~34歳未婚無業者数の推移(万人)

2015年のニート人口は、推定72万人。不況が深刻化する直前の1997年と同水準で、失業率が過去最高となった2002年より10万人以上少ない。減少の背景には、景気の影響の他、若年雇用対策の効果もあるかもしれない[3]

ただしニートのなかでも非希望型は60万人と、過去にないほど増えている。非求職型が大きく減ったのとは対照的だ。

調査からは、求職型に比べ、ニート、特に非希望型ほど、高校中退を含む中学卒の割合が多く、従来の指摘とも通じる。非希望型には中学3年の成績が学年全体で「下のほう」と答える割合も多い[4]

「若年無業の経済学的再検討」では、1992年には世帯年収が高いほうが非希望型になりやすかったが、1997年、2002年とその傾向は弱まり、貧困家庭から非希望型は増えていた。ここでは無業類型別の世帯貯蓄総額の構成を求めた(図2)。非希望型は、実に53パーセントが世帯貯蓄ゼロだという。貯蓄が100万円以下を加えても7割に近い。

図2 無業類型と世帯貯蓄(%)

全体として減ってはいるが、学びに困難を抱え、生活の苦しさに直面しつつも、働くことに希望を持てない姿は色濃くなっている。それが2015年のニートの特徴だ[5]

[1] http://www.jil.go.jp/institute/zassi/backnumber/2007/10/index.htmlからダウンロード可。
[2] この定義は「家事」が主な未婚無業者を排除しない点で、厚生労働省が定義する「若年無業ニート)」とは異なる。同省定義では女性のニートを過小評価するおそれがある。詳細は『働く過剰』(155-159頁)。厚労省定義による計算では、ここでもニートは7万人少なくなる。
[3] 同定義を35歳以上54歳以下で求めると中高年ニートは91万人。今やニートは若年のみならず、中高年に深刻な問題である。
[4] 仕事の知識や技術向上に自分の意思で現在取り組んでいる割合も非希望型では1割弱と、求職型・非求職型に比べて低くなっている。
[5] パネル調査では非希望型の16%が公的援助で生活費をまかなっていた。働くことを希望しない理由として、「健康上(精神面)の理由のため」(17%)、「仕事をする自信がない」(15%)等が多いものの、最多は「特に理由はない」(31%)である。

玄田有史(東京大学社会科学研究所教授)

本コラムの内容や意見は、全て執筆者の個人的見解であり、所属する組織およびリクルートワークス研究所の見解を示すものではありません。