【座談会】進む機械化・自動化 変わる働き方

2023年09月15日

前出の特集1-1では少子高齢化により労働生産人口は減少し、供給は減る一方だが需要側は減らないという「労働供給制約社会」について警鐘を鳴らしてきました。特集1-2では、その解決策として有力な選択肢の一つである企業の現場における業務の「機械化および自動化」にクローズアップします。端的にいうと、タスクを見直し、ロボットを導入し、より少ない人手で仕事が回るようにすれば、供給制約という“ 魔手” から逃れられるのではないかと思っています。
ここでは、いずれも労働集約的産業で、労働供給制約の影響を大きく受けると予想される建設、小売、介護の各業界における先進企業の方々に集まっていただき、既に起きている人手不足の現状と、ロボットの導入など、それに対応した現場の働き方の変化、業界横断の先進的取り組みなどについて語ってもらいました。

座談会参加メンバー

建設業界を悩ます2024年からの残業上限規制

坂本:まず初めに、皆さんの業界における人手不足の現状を教えてください。

伊藤:建設業の場合、現場の作業員と建設会社に雇用されている社員の大きく2つに分かれます。作業員は約300万~350万人おり、高齢者も多いので、辞める人が多い。この1年だけでも、約10万人が職場を去りましたので、新規の入職者増が業界にとって喫緊の課題になっています。一方の社員については、建設業の人気が落ちているのでしょうか、応募する学生が減っています。採用人数を1.5倍に増やしたこともありますが、7~8年前までは12倍ほどだった倍率が約4倍にまで落ちています。その結果、学生のレベルが下がってきているという危惧があります。

坂本:何が原因で倍率が落ちているのでしょうか。

伊藤 仁氏(鹿島建設 常任顧問)

伊藤:作業員も含めてですが、まずは休暇の問題が大きいですね。現場にいる社員の場合は代休をやり繰りしてほぼ週休2日になっているのですが、現場に関しては、日曜日だけ休みという場合がまだ多いのです。
加えて残業の問題も悩ましい。来年4月から建設業には残業の上限規制がかかってきます。それをうまく乗り切れるかが、業界最大の問題です。さらにテレワークの問題もあります。管理部門はともかく、現場で施工管理に従事する社員がテレワークで働くのは難しい。新卒採用では、休暇の少なさと、このテレワークの問題が大きなネックになっているのではないかと思います。

山本:小売業界では人手不足がずっと続いています。なかでも深刻なのは、全体の7~8割を占める、時給で働く現場の人たちです。外食業も含め、そうした人たちの採用難が深刻です。もう一つ、小売業とは切っても切れない物流業や配送業にも来年4月から残業の上限規制がかかってきます。ここがしっかり機能しないと、商品が棚に並ばないわけですから、これも頭の痛い問題です。
人手不足ということでは、構造的な問題もあります。小売業における人的サービスの本来の役割はお客さまに相対し、お声がけしたり、さまざまな提案をしたりして、買い物のお手伝いをすることなのですが、現状は商品の運搬や陳列、はたまた精算といった単純業務に多くの人手が割かれています。それらの業務の効率をいかに上げ、本来の接客サービスに従業員をいかに向かわせることができるか。そこがわれわれの業界の大きなテーマになっています。

芳賀 沙織氏(Future Care Lab in Japan  R&D 責任者)

芳賀:日本は世界に先駆けて超高齢化社会に突入しており、介護業界においても、圧倒的な人材不足が発生しています。2025年には35万人、2040年には69万人もの不足が起こると厚生労働省は予測しています。これは介護を受けたくても受けられない高齢者が増加し、介護職員一人ひとりにかかる負担が増えることを意味しています。その背景には、危険・きつい・汚いという3Kに加えて、給料の低さ、仕事の多さといったイメージもあるようです。実際に入職しても、結婚や出産といったライフイベントが契機となり、離職していく人も多い。業界全体として、介護人材確保は喫緊の課題であり、働きがいの創出や処遇の改善に取り組んでいかなければならないといった状況です。

セミセルフレジから完全無人レジへ

坂本:それぞれの業界の人手不足の状況はよく理解できました。そうした状況を乗り越えていくには、現場の業務プロセスやタスクの中身を変えていく必要があると思います。いかがでしょうか。

伊藤:先ほど介護業界の3Kの話が出ましたが、建設業界もまったく同じです。そうした仕事を減らすために、われわれはロボットの開発を進めています。各種ロボット自体は出来上がりつつありますが、問題はコストです。建設業界のロボットは工場内でのそれのように、作業の全自動化を目指すわけではありません。今まで3人の作業員が従事していた作業を、2人プラスロボットでできるようにして作業員の負担を減らそうという考え方なのですが、コスト面でいうと、作業員3名のほうがまだ有利なんです。ロボットのコストを何とか同じレベルまで下げていきたい。
そのために立ち上げたのが、ゼネコン約30社と、ロボットやアプリなどを開発するIT 企業約170社で構成される建設RX(Robotics Transformation)コンソーシアムという組織です。大量生産すれば製品単価が下がる。それを狙って、開発したロボットやアプリを会員企業間で幅広く共通して使うわけです。また、作業員は、あるときはゼネコンAの現場で、またあるときはゼネコンBの現場で作業しますので、同じロボットやアプリを使うことができれば、使い方を早期に習得でき、結果的に仕事の生産性が向上します。それを作業員の収入増につなげることにも取り組んでいます。

坂本 貴志(リクルートワークス研究所 研究員/アナリスト)

坂本:小売業界はいかがでしょうか。先ほどのお話ですと、商品の運搬や陳列、精算に多くの人手がかかっている構造を改善したいということでしたが。

山本:精算でいえば、私どものスーパーでは、従業員が商品のスキャンをするものの、お支払いはお客さまご自身でやっていただくセミセルフレジを2012年から導入しています。従業員は1つのレジに対し1人で足ります。それまでは2人の従業員が対応していましたから、半分に減ったわけです。
そこから、従業員不要のセルフレジを導入し、さらに2020年からはScan&Go Ignicaというスマートフォンアプリを取り入れました。個々のお客さまが各自のスマートフォンを商品のバーコードにかざし、精算していただく。完全な無人レジです。最も高い普及率を誇る店舗では、4割のお客さまがこの仕組みで買い物をしています。

坂本:完全無人レジも普及し始めていますが、一方で、お客さまにその価値を理解してもらうのは大変なのではないでしょうか。

山本:利用していただいたお客さまにはボーナスポイントを付与しており、それが普及のインセンティブになっています。それ以前に、Scan&Go Ignicaはレジに並びたくない、余計な待ち時間をなくしたいというお客さまにはとても好評です。

坂本:ロボットに関してはどうでしょうか。

山本 慎一郎氏(カスミ 代表取締役社長)

山本:値段のチェックや、商品のピッキング作業を補助するロボットを導入できないか、実験中です。一方、在庫品をピッキングしたり、フォークリフトを自動化したりといった、物流センターにおけるロボット化はどんどん進めています。それが可能なのは、100店舗分の商品を取り扱うなど、ロットが大きいからです。ここまでの規模だと、コスト面の採算がとれる。ところがこれが店舗単位になると、1万数千点の商品があって、極端にいえばそれらを数個だけ、ロボットで動かすことになり、採算が合いません。
でも諦めるわけではありません。ここ3年ほど、小売業はロボットフレンドリーな社会をどうつくっていくのかというテーマの経済産業省の委嘱事業に参加しており、導入実験を続けています。

 

コスト、スペース、リテラシー ……機械化が進まない理由

坂本:続いて介護業界についても伺います。機械化に関しては、食事、入浴、排せつといった三大介助が中心になるかと思いますが、いかがでしょうか。

芳賀:われわれの介護業務は、ご利用者の身体に直接触れる直接介助と、触れない周辺業務に分けられます。このうち、利用者の口元にお食事を運ぶような直接介助は機械化が難しく、あくまで人が担当したほうが良い業務だと思います。一方、食事といっても、配膳や下膳、あるいは食べた食事の量を記録する周辺業務は機械に置き換えることが可能で、現にそれを進めています。
さらに、ある業務を本当に介護の有資格者が行わなければならないのか、という問題もあるんです。具体的にいいますと、先ほどの配膳や下膳などは介護の有資格者でなくても対応可能で、有償のボランティアやシルバー人材センターの人に任せることも可能です。そういった形で、さまざまな方に関わっていただくことも重要だと思います。

坂本:機械やロボットの普及にあたっては、どのような課題があるのでしょうか。

片岡 眞一郎氏(SOMPOケア DX 推進部 特命部長)

片岡:一つは先般から話題になっているようにコストです。これは介護業界でも大きな問題です。もう一つは運用面です。まずスペースの問題がある。介護施設は手狭なところが多く、置き場所がネックになる場合があります。加えて職員のICTリテラシーが十分ではないといった教育の問題もあります。こうした問題を一つひとつクリアしないと、ロボットを導入したけれど、逆に負担を感じてしまうなど、宝の持ち腐れになってしまう可能性があります。

坂本:機械化、ロボット化を進めるにあたって、利用者のほうが歩み寄るべき点はあるのでしょうか。

片岡:歩み寄りといったほど大げさではないのですが、利用される方、介護職員、事業者それぞれの立場で導入を考えることが重要に感じます。例えば、高齢者の呼吸・心拍・睡眠を把握する見守りセンサーというツールがあります。従来ですと、夜間の介護施設では、職員が各部屋を訪問し、利用者の安否確認を行っていたのですが、このツールがあると、足を運ぶことなく画面を通じて安否確認ができるようになったばかりか、利用者の側も睡眠を邪魔されずに済むようになりました。結果、夜勤職員の数も減り、経営的にも助かっています。

坂本:職員には、そうしたツールを使うにあたって、どんな心構えが必要になってくるのでしょう。

片岡:管理者と現場のリーダー、職員という立場の違いはあると思いますが、共通していえることは何のためにツールを使うかということをしっかり理解することだと思います。自分たちがどんな介護をやっていきたいのかをよく認識したうえで、便利なツールを活用し、業務の効率化を図る。そうやって創出された時間を活用することで、利用者とのコミュニケーションを増やしたり、自分たちの残業時間を減らしたりするのが大切だと考えています。最初の導入は結構苦労しますが、そこさえ押さえておけば、「こんなに便利なものなんだ」と、自然な感じで普及していきます。

坂本:特別な教育までは必要ないということでしょうか。

片岡:はい。導入目的や使用方法などの教育はもちろん必要ですが、話し合いをしたうえで、全員が納得した形で導入していくという姿勢がいちばん大切です。

坂本:建設業においてはどうでしょう。リスキリングのような仕掛けは必要でしょうか。

伊藤:われわれ鹿島建設では社員の集合研修の方法を大きく変えようとしています。これまでは講義型の研修が主流でしたが、体験型の新しい研修を行える施設を開設しました。施設内には、鉄骨造や鉄筋コンクリート造などの主要な構造体や、鉄筋や型枠、設備などの各種モックアップを配置しています。実物に触れ、体験し、研究できるようにしています。講義もすべてeラーニングとし、事前に学習して試験に通った状態で、討議形式の研修に参加するというやり方です。

坂本:ロボットやアプリの導入といったように、現場の仕事のやり方も大きく変わってきているようですが、そうした変化に対応する教育も研修施設で行っているのでしょうか。

座談会の様子

建設現場をサポートするOne Teamという会社

伊藤:そうですね。ただし、社員にすべてを理解してもらおうとすると、自分の担当業務に差し障りが出てきますから、現場の一員となってあらゆる業務をサポートできるようにOne Teamという会社を鹿島のグループ会社として立ち上げました。建設業の場合、新しい現場ができるたびに現場に事務所を立ち上げ、さまざまなシステムのセッティングをする必要があります。それをサポートし、現場の社員や作業員がすぐに仕事をできるようにするのがOne Teamの役割です。

坂本:その会社はどのような人たちで構成されているのでしょうか。

伊藤 仁氏(鹿島建設 常任顧問)

伊藤:社員150人ほどの会社です。デジタルに強い人材は1割ほどですが、大学で専門教育を受けた人だけではなく、大学は文系ながら、ITやデジタルに興味があり、経験を積んできたという人もいます。また、外国人が50人ほど在籍していて、そのうち46人がミャンマー人ですが、非常に前向きに仕事に取り組んでいます。

坂本:山本さん、こういった人材育成やリスキリングについて、小売業での取り組みを教えてください。

山本:小売業全体かどうかはともかく、わが社が推進しているのが仕事に対する認識を変化させることです。日本の小売業の生産性は米国と比べると非常に低い。商品が1万点あるとしたら、毎日同じ商品を10個ずつ配送している。その背後には人間による予測があります。明日これくらいのお客さまが来るだろうから、これくらいの数を店舗に並べておけば大丈夫だろうと。人間がやっていますから、その精度は高くありません。しかも、在庫の状態は自分の目で確認しないと把握できません。それぞれの売り場に張り付きながら、予測を行ってきました。
これをやっていると、人手がいくらあっても足りません。そこで、現在はデジタルツールを使い、在庫の可視化を進めています。それが進むと予測の精度が上がる。明日の予測しかできなかったものが、1週間先までできるようになります。そうなると、物流や陳列作業のあり方も大きく変わります。各自が担当する棚の範囲も広げることができるし、陳列以外のほかの業務もできるようになる。毎日の配送が週1回になったら、これまでは商品の陳列しかやってこなかった人が、別の役割をこなせるようになる。スキルや職種が広がっていく可能性があります。これまでは、人に作業を張り付けていたところが、その都度必要な作業に人を張り付け、アサインできるようになってきています。

マルチタスク化が進める人材育成と働き方改革

坂本:スキルの多様化が必要になりますね。

山本:その通りです。今まで商品の陳列しかできなかった人にパンを焼く能力や、魚をさばく能力を身に付けていただいています。そのために重宝しているのが、紙ではない、動画によるマニュアルです。500本ほどあり、オンデマンドでいつでも視聴できます。しかも、多能工化の対象は正社員もパートも問いません。全員がそうなると、社内の階層構造も変わります。働き方も変わり、フレックスタイムが普及します。定年も必要なくなる。副業や兼業も可能になり、働き方の自由度が高まります。

坂本:店員のマルチタスク化が進むと、店長の役割はどう変わるのでしょうか。

山本 慎一郎氏(カスミ 代表取締役社長)

山本:店長は1店舗に1人しかおらず、仮に週40時間労働だとすると、店舗の総営業時間の4割程度しかカバーしていません。今後は店長以外の人が店長の業務をこなせるような仕組みをつくっていきたい。下位職の人が上位職の仕事をこなせるようになることは、人材育成という面でも歓迎すべきことです。これらを通じて、働く人たちの社内での流動化を高めたいと考えています。

坂本:現場だけではなく、管理部門もマルチタスクが要求されるというわけですね。最後に、ここまでお話ししてきたテーマに関する業界横断の取り組みについて、それぞれお聞かせいただけないでしょうか。

伊藤:建設業界には日本建設業連合会(日建連)という団体があり、建設業に係る諸制度をはじめ、建設業における基本的な諸課題の解決に取り組んでいます。そのなかには、建築ロボット専門部会もあるんです。業界のロボット化推進には行政も関わっていますので、行政との調整をこの専門部会が担い、実際のロボット開発は先述した建設RXコンソーシアムで行うというような棲み分けをしています。

坂本:日建連だけに頼らず、コンソーシアムをつくった理由は何でしょうか。

伊藤:日建連には140社ほどの建設会社が加盟しています。それを通じて、主に業界に関するさまざまなルールづくりを担っていますが、参加企業は基本的に競争関係にあるので、資金を拠出し、議論をしながら新しいロボットの共同開発に取り組むのは難しい面があります。そこで、コンソーシアムという協調のための新たな組織を立ち上げたのです。

坂本:小売業にも同じような横串連携の仕組みはあるのでしょうか。

山本:小売業界の喫緊の課題といえば、商品情報の管理です。今の日本にはそれが一元化されていない。商品情報の正確性というのは物流はじめ、あらゆる業務のベースになります。この問題に小売業協会という業界団体が責任をもって取り組んでいます。
例えば、経済産業省の協力も仰ぎながら、商品バーコードを管理するGS1 Japanへの登録の速度を上げていく取り組みを行っています。そのほか、首都圏の複数のスーパーマーケットがトラックを共有し、積載率を向上させる取り組みなども始まっています。

片岡 眞一郎氏(SOMPOケア DX 推進部 特命部長)

坂本:そうしたさまざまな取り組みが行われるなかで、何か障壁はあるのでしょうか。

山本:物流でいいますと、多重下請けという構造的問題があります。そこが可視化され、解消されないと共同配送はすんなりとは実現しないでしょう。先ほどの在庫の話もそうですが、小売業というのは可視化の推進がすべての鍵を握っています。車両の可視化、商品の可視化が進まないと明るい未来は開けてきません。

大企業発の研究所が業界変革のハブになる

坂本:業界横断的取り組みという意味で、介護業界はいかがでしょうか。

芳賀:まず私たち自身がそうです。Future CareLab in JapanはSOMPOホールディングスが運営している研究所ですが、そのSOMPOという看板は掲げていません。介護業界は中小企業が非常に多く、大手といわれるSOMPOも売上シェアは全体の1%程度です。そうしたなか、業界全体の発展に役立ちたいという意味で、あえて社名を掲げていないのです。また、われわれは行政との連携も密で、厚生労働省が主管する介護ロボットの開発や実証、普及を目指す事業に参画しています。

坂本:御社が新たな介護のあり方を生み出す重要なハブになっているわけですね。介護業界は中小というより、それこそ、小事業者の集まりであり、新しいテクノロジーやツールを一つひとつきめ細かく、各社に届けていくのは難しいことだと思います。

芳賀 沙織氏(Future Care Lab in Japan  R&D 責任者)

芳賀:小売業と同じように、介護業においても可視化はなかなか進んでいません。一方で、介護に関するテクノロジーやツールもたくさん出てきています。しかし、何が自分たちの事業所にマッチし、何はマッチしないのか、わかりにくい面があります。事業者同士が横の連携をとり、それらの情報を共有し、それぞれを最適な事業所に提供できる支援につなげたい。そうすることで、高齢者、介護職員、未来社会の三方良しを成し遂げたいと考えています。

坂本:そういう意味では、御社が成功事例の一つとなっていくかもしれないですね。皆さま異なる業界にもかかわらず、課題や運用面では共通項が見えるような気がしました。本日はありがとうございました。

Photo=平山 諭

関連する記事