20代「本音」座談会 行動する若手と会社の新しい関係
リクルートワークス研究所は、調査レポート「大手企業における若手育成状況調査報告書」を発表するなど、若手社員の職場環境や育成について継続的に分析・提言を行ってきた。
本記事では、研究で得た視点をもとに当事者である若手社員を招いた座談会を実施。本業に加え、副業や社外のプロジェクトなどにも携わる4名に、本業に求めること、社外での活動に取り組む理由、将来的なキャリア像――など、リアルな「本音」を語ってもらった。
(聞き手:リクルートワークス研究所 古屋星斗)
「本業+α」でアクティブに活動する20代
―――はじめに、本業・副業・社外のプロジェクトなど、皆さんが取り組んでいる活動のポートフォリオを教えてください。全体を10とした時、時間や気持ちのリソースをどれくらい使っていますか?
佐藤大我さん(大手通信会社/24歳):新卒で入った通信会社で「雑誌の読み放題サービス」のマーケティングを担当しているほか、数カ月前から副業として、ベンチャー企業で「女性の複業を支援するサービス」にも携わっています。
時間でいうと、本業7:副業2くらい。残りの1割は本を読んだり、業務に関する勉強をしたりと、自己研鑽に当てています。
工藤理世菜さん(SaaS系ベンチャー/24歳):ちょうど転職したばかりなのですが、SaaS系ベンチャーのグループ会社で、働く人を対象にしたオンラインカウンセリングサービスの事務局をしています。前職では、教育系の一般社団法人で大学生・大学院生に向けた講座の企画などをしていました。
その他、社外ではフォトグラファーや認定キャリアコンサルタントとして活動しています。並行して取り組んでいるので、副業より「複業」というイメージですね。リソースは、本業6:フォトグラファー3:キャリアコンサルタント1くらいです。
岩井凌太さん(総合電機メーカー/27歳):総合電機メーカーの新規事業開発部門で、社内向けのビジネスコンテストを企画、運営したり、自分でも新規事業開発をしたり、社内認定コーチとして社内副業でコーチングをしたりしています。入社4年目で、今の部署に入る前はスマートシティ事業に携わっていました。
他にも、「be-FULL(ビーフル)」という、理想の人生やキャリアについて考え、実践するコミュニティを運営したり、仏教修行をしたり、月に1回バーテンダーをしたり……と、いろいろやっています。時間配分でいうと、本業6.9:be-FULL2:仏教1:バー0.1くらいのバランスです。
高橋智香さん(インターネットメディア/24歳):インターネットメディアで、ビジネス・経済ジャンルの記事を執筆・編集しています。現在新卒3年目で、入社前にも1年半ほど今の会社でインターンとして働いていました。
副業でもライターをしたり、最近ではポッドキャスト番組に少し携わったりしています。あと、毎年20万円分くらいは何らかのスクールに行くと決めていて、今年はワインスクールに通っています。リソース配分でいうと、本業7:副業2:スクール1くらいです。
本業に求めるのは「ここでしかできない経験」
――さまざまな活動をしている皆さんですが、本業にはどんな経験を求めているのですか?働くうえでのモチベーションとあわせて教えてください。
佐藤さん(大手通信会社/24歳):当面は本業を通してマーケティングのスキルを上げたいと考えています。僕が勤めている企業はいわゆる大企業で、従業員が8000名ほどいるので、各分野の専門知識を持ったさまざまな人と関わりながら、マーケターとしての足腰を鍛えたいな、と。直近では特に磨きたいスキルがあったので、課長クラスの方数名と1on1の機会をいただき、部署単位ではなくて「課長単位」で異動の希望を出しました。
個人的な話になりますが、僕は漫画が本当に大好きで。エンタメ全般に言えますが、「心の食事」のようなものだと思っています。だからこそ、この「心の食事」を適切なユーザーに、適切なタイミングで届ける仕事がしたい。そのために、できることをひとつずつ増やしているイメージです。
岩井さん(総合電機メーカー/27歳):何か特定の経験を求めるというより、「やりたいことを実現する手段として本業がある」という感覚に近いです。僕は学生時代に「幸せ」について研究していたのですが、その時に社会の幸福を増やす手段として、2つの活動に興味を持ちました。1つは人々が幸せを感じられる“空間づくり”や“街づくり”、もうひとつは、あまり表現としては好きじゃないのですが、主体的に幸せを掴める人を増やす“人づくり”です。
社会人になってからは、前者を実践するためにスマートシティの部門で働き、後者は社外のコミュニティの運営を通して少しずつ形にしてきました。今は、本業で部署異動をして“ひとづくり”を通した価値提供にフォーカスしています。
高橋さん(インターネットメディア/24歳):やや同義反復ではありますが、「ここでしかできない経験」を求めて本業に向き合っています。というのも、私の場合は編集という仕事柄、他の職種に比べると独立しやすく、同期でもフリーで活躍している人もいて。
だからこそ、この会社・この媒体でしかできない企画をつくったり、仲間と大きなプロジェクトを仕掛けたりするために、ギルド的な感覚で組織に属したいな、と。具体的なイメージはまだ描いている最中ですが、こうした感覚は今後も忘れずに仕事をしていきたいです。
工藤さん(SaaS系ベンチャー/24歳):まだ転職をして3日とか4日なので、本業に何を求めているかというと少し答えにくいのですが……ただ、転職をする時に「健やかに働ける」とか「納得感を持って生きる」という軸を大切にしていたので、自分も然り、そうした経験を他の方にも提供できるといいなと思っています。
あとはシンプルに、いろいろな人の考え方や生き方を知るのが好きなので、サービスを通じて出会う人々の言葉や表情から、自分の見えている世界を広げていけたら嬉しいです。
―― 思った以上に具体的なお答えが出て驚きました。いろいろな活動をしている結果として、本業の仕事との向き合い方がストイックなのかもしれませんね。その会社に「所属している」以上の意味を求めているのかもしれません。
学生時代の経験は社会で生きる?
―― 本業について伺いましたが、さかのぼって皆さんの学生時代についても聞かせてください。学生時代の経験は、今の仕事に活きていると感じますか?
高橋さん(インターネットメディア/24歳):高校生ぐらいからメディアに就職したいと思っていたので、大学時代はジャーナリズムを専攻したり、テレビ局で夜勤バイトをしたり、広告・メディア関係の会社3社でインターンをしたりしてきました。
なので、私の場合は学生時代の経験がそのまま仕事に活きていると感じます。あと、今の会社にはインターンからそのまま新卒として入社したので、1年半くらいの助走期間があったのも、入社後にギャップを感じることがなくてよかったですね。
工藤さん(SaaS系ベンチャー/24歳):学生時代というか、人生を通じての経験が今の仕事につながっているな、と感じます。現在担当しているのは「メンタル不調になる前の方にカウンセリングを推奨する」サービスなのですが、私自身が何度もメンタルの不調を経験していまして。
中学生の頃に長期間のいじめを経験して目が半年見えなくなったり、その後もうつ状態になってしまったり。3年ほど前にはPTSD(心的外傷後ストレス障害)の診断を受けて治療をしていました。大学も1年ほどで金銭的な理由で中退していて、心が折れてしまっていたのですが、もともとインターンをしていた前職の会社に入社させてもらって。そうした経緯もあり、一貫して「人のより良い生き方や働き方を考えるサポートがしたい」という気持ちが強くあります。
岩井さん(総合電機メーカー/27歳):僕も中学時代に1年くらい教室から居場所がなくなるという経験をして以来ずっと人と人との間柄――人間関係を何とか良くしたい、と考えてきました。それと「この人の所に行けば自分は安心できる」という人がいるだけで、最悪の状態にはならないというか、不幸のどん底までは落ちないのでは、という考えから、コミュニティづくりにも興味を持って。
学生時代は留学先のイギリスで移民地区に住む子どもの居場所づくりをしているNPOで働いたり、大阪の四條畷市役所でインターンをしたり、その繋がりから地方公務員と中央省庁で働く官僚をつなげる団体に携わったりと、「地域×コミュニティ」を軸に活動をしていました。こうした経験が、今の本業や社外のコミュニティの運営につながっていると感じますし、何より学生時代に知り合った人と一緒に仕事をしたり、人を紹介してもらったりすることも多くて、すごくありがたいです。
佐藤さん(大手通信会社/24歳):僕はひたすら、よさこいサークルに明け暮れる生活をしていました。夏は60日間以上連続して練習をして、最終的には副代表になって、ストイックに打ち込んできた自負があります。それから、塾講師のバイトにも力を入れていましたが、皆さんと比べると「THE大学生」という感じです。
今振り返ると、出版社に行って漫画の編集者になりたいという気持ちはあったので、漫画に関わって何がしたいのか、どんなスキルが必要なのかを分解できていれば、違う学生時代の過ごし方もあったのかもな、とは思います。とはいえ、学生生活に悔いはないので、よしとします(笑)。
―― 今の仕事にダイレクトにいきているというお話から、ライフキャリアの考え方に影響しているという話まで聞かせて頂きました。改めてこう聞いてみると、一括りに「学生時代」と言っても、本当にバリュエーションが豊かになったなと感じます。
四者四様。日頃実践している「スモールステップ」
―― 私は若手社会人が納得感を持ってキャリアを築く有効な手段として、今自分ができる小さな行動を見つけて実践する、「スモールステップ」を提唱しています。皆さんが普段実践しているスモールステップがあれば教えてください。
工藤さん(SaaS系ベンチャー/24歳) :大層なことではないですが、とにかく「やりたいことを発信する」ことは意識してきました。フォトグラファーを始めたのも、高校時代にフォトサービスを展開している会社の社長に手紙を書いたら、TwitterのDMでお返事をいただいたのがきっかけで。そこからフォトグラファーを志し、カメラを買えないくらい金欠だったのですが、結果的にクラウドファンディングでご支援をいただいて、デビューすることができました。
転職も、キャリアコンサルタントとしてサービスに関わっていた際に「将来的にこんなことをしてみたい」と事務局の人に話していたら、そこからオファーをいただいた感じで。叶う、叶わないはさておき、夢や目標は積極的に声に出してみる。すると、自分の納得感も高まりますし、周りの人がこういう手段があると教えてくれる機会が増える気がします。
岩井さん(総合電機メーカー/27歳):僕の社外コミュニティの活動も、始まりは小さなきっかけでした。学生時代にお世話になっていた団体の人に頼まれて、はじめはノリノリではない状態で関わっていたイベントで出会った方が、アメリカのスタンフォード大学で人生やキャリアのデザインについて学んでいた話をしてくれて。そこからインスピレーションを受けて、自分でもワークショップをやるようになって、最終的に団体を立ち上げるに至りました。そういう意味では、「とりあえず巻き込まれる力」って結構大事だなあと。
あと、元々お世話になっていたけど最近連絡していない人に連絡してみる、とかは意識的にやっています。実は今の部署に異動したのも、もともとは学生時代にお世話になっていた本業の先輩に久しぶりに連絡したところ、話が盛り上がったのがきっかけです。
高橋さん(インターネットメディア/24歳):私も「とりあえず巻き込まれる」ことは意識していて、誘われた飲み会や読書会は基本的に予定が合う限り行くようにしています。先輩からの受け売りで「8割理論」というのがあるのですが、どんなに渋そうな会でも、行ってみると8割楽しいし、実りがある。残り2割は……お察しです(笑)。
不思議なことに、そういう場所で出会った何気ない知り合いが、後々の取引先になったり、そこで聞いたちょっとした情報が仕事のヒントになったりするんですよね。そういうセレンディピティを経験しているからこそ、誘われた会にはとりあえず顔を出すようにしています。
佐藤さん(大手通信会社/24歳):ちょうどコロナ禍の真っ只中に新卒入社したこともあり、社会人になりたての頃は漠然とキャリアが不安で。「入社1年目の教科書」みたいなビジネス本を読んだり、SNSを眺めたりして時間を過ごしていました。で、その時たまたま会社の研修で参加したセミナーで、すごい経歴を持った講師の方が「私もあなたも同じ人間です」って言っていたことに衝撃を受けました。そこで、たしかに自分がすごいな、憧れるなと思う人って、才能やセンスはもちろんですが、それ以上にすごく行動をしているな、と気づいたんです。
それがきっかけで、僕もとにかく行動をするようになりました。具体的には、僕は漫画家の卵を支援する仕事をしてみたいと思っていたので、漫画家として活動されている方にInstagramのDMで「インタビューさせてください」と1日100通ずつ送り続けてインタビューさせてもらったり、漫画家が集まるイベントに赴いて、情報収集をしたり。
社内でも、コロナ禍もあって仕事にフィードバックをいただける機会が限られていたので、Slackでオープンチャンネルをつくって30名ほど先輩を招待し、定期的にフィードバックをもらう機会をつくりました。入社した当初は1on1をお願いするのも躊躇していたのですが、少しずつ動くうちに自信がついていった感覚があります。
―― 最初は何気ない行動だったとしても、積み重ねるうちにだんだんと大きな動きに変わったという皆さんの実感が印象的です。またお話を聞かせてください。本日はありがとうございました。
執筆/高橋智香