マネジャーの若手育成「本音」座談会
リクルートワークス研究所は、今年7月に調査レポート「大手企業における若手育成状況調査報告書」を発表した。本研究では、大手企業に勤める就業3年以下の社員にインタビューや定量調査を実施し、現状の仕事の実態や成長環境、職場環境を把握・分析。さらに、若手社員の育成や職場環境の改善に関する提言をまとめている。
本記事では、研究で得た視点をもとに、若手の育成を担う30〜40代のミドルマネジャーを招き、匿名で座談会を実施。若手育成の現状と今後について「本音」で語り合った。
(聞き手:リクルートワークス研究所 古屋星斗)
Aさん 大手事業会社 営業部所属 :マネジャー歴9年目
Bさん 大手事業会社 人事部所属 :マネジャー歴6カ月
Cさん 官公庁 企画系部門所属 :マネジャー歴4年目
重要なのは「期待値」「エモさ」
――ミドルマネジャーであるお三方に、若手社員の育成やマネジメント、コミュニケーションについて伺っていきます。はじめに、普段のマネジメントで意識されていること、気をつけていることを教えてください。
Aさん:まずは、本人の「希望」を知ることですね。「仕事にどんな経験を求めているのか」「普段はどんな生活を送りたいのか」「将来どうありたいのか」と、とにかく何を求めているのかを直接聞くようにしています。それから、大切にしているのが、「エモさ」です。本人が自覚しているかはさておき、仕事のどんな場面で感情が動くのか、テンションが上がるのかを見極め、一緒に言語化する機会を設けています。
仕事の話をしていると「私はこれができません」とか「こういう失敗をしてしまいました」と、どうしてもネガティブ面にフォーカスした話になりがちです。だからこそ、「でも、ここは良かったね」「こういう強みがあるんじゃない」と、「できること」や「強み」にフォーカスした話をするように意識しています。
Bさん:私もまだマネジャーになって半年ぐらいですが、同じく「相手の心を開くこと」を心がけています。定期的な1on1や、業務の合間のちょっとしたコミュニケーションを通して、大切にしている価値観や仕事に期待することを聞くイメージです。
とはいえ、いきなり「大事にしていることを教えて」と言っても、なかなか本音を話してくれません。なので、プライベートも含めてまず自分の話をしたり、「私も、もともとは働くモチベーションが高いタイプじゃなかったよ」と自己開示して、心理的安全性の高い場をつくろうと意識しています。
Cさん:私もお二方と同じく、若手とのコミュニケーションと、彼らの「期待値」にあわせたマネジメントですね。若手社員と一口に言っても、望むワークスタイルや目指すゴールは人それぞれ。私が所属している官公庁でも、「どんどん仕事をしてステップアップしたい人」から「プライベートを重視しながら安定的に働きたい人」まで、さまざまな若手がいますから、一人ひとりの「期待」に合った仕事を振るように心がけています。
なかには、上司や同僚に「気を使って」、本当は思ってもいないのに「成長したいです」と言っているケースもあるので、そこはきちんと本音を引き出すことができているか考えながら進めています。
フィードバックすべき仕事、しなくていい仕事
――若手社員のマネジメントでは、業務へのフィードバックも重要になります。研究では、「現状よりも、上司からのフィードバックをもっと欲している」と答える若手も多くいるとわかっていますが、皆さんはどんなことを意識していますか。
Aさん:先ほどの話にも通じますが、若手の「目指すゴール」によってフィードバックの仕方を変えることでしょうか。たとえば営業職で、本人がものすごく受注したいと思っている案件で、かつ目指すキャリアにもつながる場合は、何度もフィードバックをして徹底的に準備するよう促します。反対に、あまり本人の志向に関係ない仕事であれば、「てにをは」の修正ぐらいで巻き取ることもありますね。
Cさん:私も同じスタンスで、本人の目指すキャリアによって、フィードバックの頻度や伝える内容は都度変えるようにしています。ただ、現実的な問題として、時間の兼ね合いで十分にフィードバックし切れないこともある。明日までに資料を用意しなくてはいけなくて、どうしても差し戻している時間がない時は、巻き取って作業してしまうこともありますね。もちろん、時間が十分に確保できている場合はきちんとフィードバックしますけれど。
Bさん:私は、とにかく「褒める」フィードバックを意識しています。できないところを頭ごなしに詰めるのではなく、まずはできているところに対して、「いいね」と言葉で伝える。その上で、直したほうがいいところがあれば、「どうしてこう書いたの?」と意図を聞いて、「それなら、こういう書き方のほうが相手に伝わるかもしれないよ」と、アドバイスをしています。
―― 「ポジティブ・フィードバック」ですね。若手を叱ることはありますか?
Bさん:ないですね。そもそも、叱られるようなことをする若手もほぼいません。
Aさん:私の場合は、結構叱るというか、強めの言葉で注意することもあります。たとえば、「本人が自分でやる」と決めたことを、やっていなかった時とか。「自分でやるって言ったのに、どうしてできなかったの?」と。
ただ、ちょっと工夫もしています。最初は少し強めの言葉だったとしても、「すごく応援していたのに、やってくれなくて悲しいな」とか、「困ったことがあったらいつでも声をかけてね、絶対にサポートするから」と、柔らかい言葉を挟むんです。叱ったことで、前向きに取り組もうとする意欲まで失わせてしまっては、元も子もないですから。
自分たちが受けた育成とはまったく違う
―― 若手マネジメントの話に関連して、ご自身の受けた育成と比較して、「ここは違う」と感じる点はありますか?
Aさん:正直、私の新人時代とは全然違いますね。とあるメーカーで営業をしていたのですが、今思うとパワーハラスメントの嵐でした(笑)。
大学卒業後、入社してすぐの状態で、車の鍵と地図とお客様のリストを渡されて、特にレクチャーもないまま、3カ月で300件の飛び込み営業。夜は居酒屋を予約して、先輩が来るまで正座して待っていて、来たらひたすらお酌。それが、深夜まで続き、全然家に帰れない……。「昔のほうが良かった」とはまったく思わないし、私もできるなら、今の時代に生まれ直したいくらいです。
Cさん:私の場合も、新入社員の時は労働時間がかなり長かったです。月曜日に出勤して、金曜日までほぼオフィスで寝泊まりする感じで、あまり人間扱いされていなかった気がします。それに比べると、今はかなり人間扱いされていますね。日付を回って仕事をすることは、若手も含めてほぼありませんし、自分で時間の使い方を決められる環境は恵まれているな、と。ただ、振り返ると激務だからこそ良かったこともあって、手数の多さと言いますか、とにかく仕事をこなすスピードが上がった。今の若手はその環境がないため、どうやってそのスキルを身につけてもらうのがいいのだろう、と思案しています。
Bさん:お二方とも、すごく大変だったんですね。私は人事という部署柄もあってか残業はほぼなく、新人時代と今で働く環境はあまり変わっていません。
ただ、リモートワークが普及して、ネットワーク形成という点では私の世代より今の世代のほうが大変です。人事という仕事柄、社内でのつながりも業務上重要なのですが、ランチや飲み会が減り、なんとなく知り合って、仕事をして……という流れが、生まれづらい。そういうつながりをどう提供すべきかは、今後マネジャーが考えなくてはいけないポイントだな、と感じます。
当人の「合理性」を超えた機会を提供する
―― 他に、若手のマネジメントに関して、課題だと感じる点はありますか?
Bさん:そうですね……。若手が自ら「これがやりたい」と言ってくれることが少ない点ですかね。みんな、言われたことは真面目にやるんです。でも、仕事ってやっぱり、自発的に企画して動かすからこそ、面白いと思える部分もあるじゃないですか。もしかしたら、自発的なアクションを起こせる仕事ではないと私たちが感じさせている可能性もあるので、改善していきたいです。
―― なるほど。他の方はいかがでしょう?
Aさん:うちは、「当人の『合理性』を超えた機会提供」をどうしていくか、ですね。その時々では、本人にとって必要でなかったり、合理的でなかったりする選択だとしても、「後々のキャリア形成に効いてくる経験」って結構あるな、と思っていて。私はまったく望んでない転勤を一度して、最初はものすごく嫌だったんですけど、その転勤先で出会った企業や人をきっかけに、キャリアが拓けたと思っているんです。なので、そういう機会をどうやって若手に提供すればいいんだろう、と。
Cさん:すごくよくわかります。昔のように、上から強制的に「やれ」と言われた仕事を、とりあえずこなす、という時代ではないですからね。ただ、Aさんがおっしゃる通り、一見泥臭く見えたり、きつそうに見える仕事も後々本人の役に立つ、みたいな例は少なくありません。もちろん、それが価値のあるものだと伝えるのがマネジャーの仕事だとも思うのですが、なかなか難しいです。
―― いわゆる「計画的偶発性」をいかに提供できるか、ということですね。
Cさん:まさにそうです。一方で、この「偶発的な機会提供」はマネジャーに一任するのではなく、評価制度に組み込んだほうがワークする気がしています。たとえば「処遇」とセットで提示する、とか。きっと若手も、なんらかの「手当」や、今後の人事に関する「頭出し」をセットにして内示を出されたほうが、安心してその機会を受け入れられると思います。
マネジャー同士、企業を超えた情報交換を
―― ここまでマネジメントの話をお伺いしてきましたが、先行きの見えない時代で、将来のキャリアに不安を感じる若手は少なくありません。この点についてもお考えをお聞かせください。
Bさん:キャリアや経験の浅いうちは特に、不安ですよね。しかも、その不安の中身は若手に直接聞いてもわからないし、やはりマネジメント層が読み取らなくてはいけない部分だな、と思います。と言いつつ、それが難しくて頭を悩ませているのですが。
ただ、最近は本人の「欲求」を捉えて、差分の埋め方をアドバイスするのがいいのでは、と考えています。若いころの不安って、「こうなりたい」という理想の姿と、現状にギャップがあるからこそ増幅する気がするんですよ。なので、冒頭の話にもつながりますが、まずは若手の声に耳を傾け、「本音を引き出す」のがマネジャーにできる第一歩かな、と。
Aさん:「何者かになりたいけど、自分らしく働きたい」「でも、自分らしく働いた結果、何も達成できないのは嫌」と考えている若手は多い。で、結局どう行動しようと迷っているうちに、結果を出している同世代もでてきて、さらに不安になる……という「負のループ」がある気がします。
そこで私が意識しているのは、小さくてもいいから本人が「できていること」をきちんと言葉にして伝えること。たとえば、同じ1000万円の受注でも、「今回の営業プロセスはここが良かったね」とか、「あなたならではの強みがこう生きたね」と、毎回いろんな観点からグッドポイントとしてフィードバックしていくんです。そういう小さな「できること」の積み重ねが、やがて大きな仕事にチャレンジする際の自信になりますから。
Cさん:おふたりともどちらも大切な視点ですね。私も、特に今マネジメントしている若手社員は、ストレスが体調に出やすいタイプということもあり、不安はなるべく取り除けるよう、対話を重ねています。あと意識しているのは、本人のちょっと先の育成プランも先んじて伝えること。「今後、社としてはこういう育成方針を考えているんだけど、どう?」という感じで声をかけて、本人の意向も引き出しながら、一緒にキャリアについて考えていくイメージです。
Aさん:なるほど、育成プランを先んじて伝えるのも一つの手ですね。皆さんのお話をお聞きして、私もいろいろ試してみたいと思いました。職場環境が変化していくなかで、若手の育成の難度もどんどん上がっていると感じます。今日の座談会のような、組織を超えて情報交換をしたり、連携したりする機会が増えていくといいですね。
―― 若手育成の難度が高まっていると感じますが、試行錯誤していくためにもこのような場をリクルートワークス研究所も継続的に設けていきたいと思っています。本日はありがとうございました。
執筆/高橋智香