労働時間の減少による経済への負の影響は拡大

2019年10月08日

2000年以降、生産性の向上が経済成長を牽引

なぜ労働投入量が減っているのに、実質GDPは増加しているのか。それは、労働時間の減少による経済へのマイナスの効果を、生産性向上によるプラスの効果が大きく上回っていたからである。生産性の向上と労働時間の減少がそれぞれ実質GDPにどのような影響を与えてきたのかを分析するために、実質GDPの寄与度分解を行う(図表3)。

図表3 実質GDPの寄与度分解(累積、2000年基準)
2-3.jpg出典:内閣府「国民経済計算」より筆者作成

2000年から2018年までで1人当たり労働時間は137時間減っているが、生産性一定の仮定をおけば、これによる実質GDPの減少寄与は-40.2兆円となる。
就業者数の増加と生産性の向上は、実質GDPをそれぞれ押し上げている。就業者数は6561万人(2000年)から6889万人(2018年)と328万人増加しており、これによる実質GDP への寄与は27.0兆円である。
1時間当たりの実質労働生産性は4026円(2000 年)から4678円(2018年)まで上がり、この18年間で16.2%上昇しており、実質GDP への寄与は76.9兆円となる。結果として、2000年から2018年にかけて実質GDPは490.9兆円から554.9兆円まで63.7兆円(27.0兆円+76.9兆円-40.2兆円)増加した。

足元で進む労働時間の減少による経済への負の影響

単年の実質GDPの推移をみると、リーマンショック時の景気後退期を除けば、ほぼ一貫して生産性の向上が、経済を成長させていることがわかる。(図表4)。

図表4 実質GDPの寄与度分解(単年、3年移動平均)
2-4.jpg出典:内閣府「国民経済計算」より筆者作成

ただし、リーマンショック前の景気拡張期とリーマンショック後のそれとでは、起きている現象は異なる。
すなわち、リーマンショック前は労働時間が増加するなかで経済が拡大しているのに対し、2012年以降は労働時間が減少するなかで経済が拡大しているのである。
足元の動きにさらに着目すると、労働時間によるマイナスの寄与が拡大しており、かつ生産性の寄与度が縮小している。また、その分、就業者数の増加が経済を押し上げている。
就業者数の増加は、女性やシニアの労働参加によって実現されている。現下の経済成長は就業者数の増加によって達成されているものの、活用できる労働力は限られていることから、将来的にはその効果は逓減していく可能性が高い。今後の経済を考えれば、労働時間の縮減が行われるなか、生産性の向上が実現しなければ、経済が低迷する可能性も生じる。