長時間労働の是正と企業業績のゆくえ
働き方改革のかけ声とともに、多くの企業で講じられている長時間労働の是正策。しかし、単なる労働時間の減少は、企業の利益ひいては日本経済の成長にとって明確な下押し圧力になるはずである。経済の成長と労働時間の削減はどうすれば両立できるのか。
労働時間の変動は経済活動にどのような影響を与えるか
2017年3月28日、首相官邸の働き方改革実現会議において、働き方改革実行計画がまとめられた。その後、働き方改革実行計画に基づき、働き方改革関連法が成立。2019年4月1日に施行され、中小企業などを除き、法案の多くの規定が適用開始となった。これに伴い、時間外労働の上限規制も適用が始まっている。
改正後の労働基準法第36条によれば、使用者が労働者に課する時間外労働時間は、原則として年360時間、月45時間以内となる。臨時的な特別な事情がある場合でも、年720時間以内、月100時間未満が上限として定められている。
今回の法改正で新たに導入された規制は、労働者がそれぞれの事情に応じた多様な働き方を選択できる社会を実現するために必要不可欠なものである。
しかし、労働時間は、企業が経済活動を営むうえで最も基本的な投入要素である。このため、これらの規制により労働時間に上限を設ければ、経済活動に対して負の影響が生じるのは、当然の帰結として起こり得る。
ここでは、これまで労働時間の変動が経済活動にどのような影響を与えてきたのか、その実態を分析する。そして、労働時間の縮減による企業業績ひいては日本経済に対する負の影響を、どのようにすれば抑制できるか、分析と提言を行うこととする。
労働時間は長期的に減少傾向
まず、日本の実質GDP(国内総生産)と労働投入量がどのように推移してきたのかを確認しておこう。図表1は実質GDPと年間総労働投入量(労働投入量)の推移を表したものである。2000年に490.9兆円だった実質GDPはこの20年弱で554.9兆円まで増加している。2012年以降の長期にわたる景気回復もあり、日本の経済は緩やかながらも着実に拡大している。
図表1 実質GDPと労働投入量
一方、就業者数に1人当たり年間労働時間を乗じることで年間総労働投入量を算出すると、この間、労働投入量はむしろ減少傾向にあることがわかる。
労働投入量は2000年時点で1219億時間であったが、2018年には1186億時間となっている。労働投入量の減少は、1人当たり労働時間の減少によるところが大きい。1人当たり労働時間は1859時間(2000年)から1722時間(2018年)まで減っている(図表2)。
図表2 1人当たり労働時間と就業者数