9 賃金は長い調整局面を経て、上昇局面へ

坂本 貴志

2025年04月21日

日本型雇用と称される、日本ならではの雇用慣行。過去、年功賃金や終身雇用など日本ならではといわれる仕組みが正規雇用者を中心とした労働者の雇用の安定につながり、また企業側としても安定した人員確保を可能にした部分もあった。しかし、低迷する経済と歩調を合わせる形で日本型雇用は近年批判が行われてきた。こうしたなか、日本の雇用は変化しているのかあるいはそうではないのか。本シリーズでは、日本の労働環境が今どのように変化をしているのか確認していく。

日本型雇用と称される、日本ならではの雇用慣行。過去、年功賃金や終身雇用など日本ならではといわれる仕組みが正規雇用者を中心とした労働者の雇用の安定につながり、また企業側としても安定した人員確保を可能にした部分もあった。しかし、低迷する経済と歩調を合わせる形で日本型雇用は近年批判が行われてきた。こうしたなか、日本の雇用は変化しているのかあるいはそうではないのか。本シリーズでは、日本の労働環境が今どのように変化をしているのか確認していく。

ここまで転職の動向を概観したが、一口に転職といっても、会社側の都合によって辞めざるを得ないこともあれば、より高度な仕事に移ろうとする積極的な転職もあり、その内実は多様である。そうした意味では、転職によって賃金が上がっているのか否かは転職の質という観点で重要な論点である。

同じく雇用動向調査から転職によって賃金が増加した人の割合をみたものが図表1である。同図表からは転職で賃金が増加した人の割合は近年高まっていることがわかる。2023年時点において、賃金が3割以上増加した人は8.3%、1割以上増加した人は25.6%、上昇した人は37.2%となった。いずれも2012年からみれば上昇傾向にあることがわかる。

転職による賃金増加に関しては、一般的には景気循環の影響を大きく受けると考えられるところ、近年の動向には労働市場の需給逼迫や景況感の改善が影響しているとみられる。

この点、厚生労働省「毎月勤労統計調査」をみても、長らく低迷を続けていた賃金が、近年は上昇し始めていることが確認できる(図表2)。日本人の賃金の推移を時給(年収/年間総労働時間)で確認すると、1997年にピークの2288円を記録したあと、およそ20年の間ずっと低迷を続けてきた。しかし、2010年代半ば以降ははっきりと上昇傾向に転じていることがわかる。2024年では2538円まで上昇しており、この10年ほどで16.7%増となる。

また、近年の賃金上昇は働き方改革などに伴う労働時間の減少に牽引されてきたものであるが、足元では年収水準が上昇する形に賃金上昇の姿も変わってきている。今後は、分母の労働時間の減少だけでなく、分子の年収水準自体も上昇していくことで賃金水準は継続して上昇していくと予想される。

図表1 転職により賃金が増加した人の割合

図表1 転職により賃金が増加した人の割合

出典:厚生労働省「雇用動向調査」

図表2 賃金の推移

図表2 賃金の推移

出典:厚生労働省「毎月勤労統計調査」

坂本 貴志

一橋大学国際公共政策大学院公共経済専攻修了後、厚生労働省入省。社会保障制度の企画立案業務などに従事した後、内閣府にて官庁エコノミストとして「月例経済報告」の作成や「経済財政白書」の執筆に取り組む。三菱総合研究所にて海外経済担当のエコノミストを務めた後、2017年10月よりリクルートワークス研究所に参画。