世帯動態と労働投入量(2)――世帯人員数と世帯員の年齢が消費支出に与える影響

2024年12月04日

本コラムでは、総務省「全国消費実態調査」の匿名データを用いて、世帯動態と消費支出との関係について分析する。1989~2014年(5年おき)の6回分の調査が利用可能である(※)。各回の調査で概ね4万5,000程度の世帯の回答が記録されている消費についての大規模な調査となっており、日本の世帯における消費をつかむうえで重要なデータである。

世帯人員数と消費支出の推移

図表1には、1989~2014年における世帯あたり人員数の構成割合を示した。この間、4人以上世帯の構成割合は減少傾向であり、3人世帯はほぼ横ばい、2人世帯と1人世帯は上昇傾向であったことがわかる。世帯あたりの平均人員数はこの間、3.22人から2.38人へと減少した。

図表1 世帯人員数の構成割合

世帯人員数の構成割合の図出所:総務省「全国消費実態調査」(匿名データ)(平成元年、平成6年、平成11年、平成16年、平成21年、平成26年)
※世帯人数の集計は、匿名データの制約上、最大で7人までに限られる

続く図表2には、世帯あたり人員数別の月間の消費支出総額(実質)の時系列的な変化を示した。世帯あたり人員数によってピークを迎える年は異なるが、1989年と2014年の消費支出総額(実質)を比較すると、いずれの世帯あたり人員数においても消費額は減少している。なお、図表2には世帯員1人あたり消費支出総額も示した。世帯員数が増加すると、1人あたりの消費支出総額は減少することがわかる。

図表2 世帯あたり月間消費支出総額(実質)の推移

月間消費支出総額の推移の図出所:総務省「全国消費実態調査」(匿名データ)(平成元年、平成6年、平成11年、平成16年、平成21年、平成26年)
※図中の数値はCPI(中位数、品目別)を用いて実質化を行った値
※世帯員1人あたりの消費支出総額の値は、調査6回の平均値を記載

消費支出総額の減少は、どのような品目によってもたらされているのだろうか。図表3には1989年から2014年にかけての品目別の増減率を示した。1989年時点の消費支出総額を100%として増減の寄与の大きさを示している。それによれば、光熱・水道、家具・家事用品、保健医療、自動車等関係費、通信、教育、教養娯楽といった品目は、全ての世帯あたり人員数において増加していた。他方、食料、被服及び履物、その他の消費支出は全ての世帯あたり人員数において減少していた。特に、その他の消費支出がどの世帯あたり人員数においても大きく減少しており、これが消費支出総額の押し下げに大きく寄与していた。

こうした点から考えると、消費支出の増減は世帯あたりの人員数によらず、同じような趨勢をたどっていたことになる。

図表3 1989年から2014年にかけての消費支出総額減少における品目別の寄与

消費支出総額減少における品目別寄与の図出所:総務省「全国消費実態調査」(匿名データ)(平成元年、平成6年、平成11年、平成16年、平成21年、平成26年)

世帯員の年齢と消費支出の関係

では、世帯員の年齢と消費支出にはどのような関係がみられるのだろうか。図表4には、世帯員の年齢によって消費支出総額がどの程度異なるのかを世帯人員数別に示した。例えば、図表の最左列には1人世帯の結果が示されている。それによれば、1人世帯の場合、基準となる25~34歳と比較して15~24歳(-8%ポイント)、45~54歳(-3%ポイント)、65~74歳(-2%ポイント)、75歳以上(-11%ポイント)は消費支出が低い傾向にある。

これらの数値は、収入、貯蓄、負債などの多寡や持ち家の有無など、消費行動に影響を及ぼすと考えられる要素を制御した結果である。したがって、それらの条件が同じ場合、単に年齢が異なることでどの程度消費支出が異なるのかを示していると解釈でき、1人世帯の場合25~34歳は相対的に他の年齢階級よりも消費が多い傾向にあるといえる。

図表4 世帯員の年齢が消費支出総額に与える影響

年齢が消費支出総額に与える影響出所:総務省「全国消費実態調査」(匿名データ)(平成元年、平成6年、平成11年、平成16年、平成21年、平成26年)
※棒グラフの数値は、世帯別の消費支出総額(対数値)を被説明変数とし、年齢階級別の人員数を説明変数とした際の係数をもとに、25~34歳の値を基準値(0)とした各年齢階級の値である。回帰分析は、世帯人員数別のサブサンプルに分け実施した。制御変数として、持ち家であるか否か、世帯の年齢収入額(対数)、世帯の貯蓄額(対数値)、世帯の負債額(対数値)、調査年を考慮した
※棒グラフには、基準となる25~34歳と各年齢階級との間で検定を実施した結果、5%水準で有意だったもののみに数値を付与している。ただし、世帯人員数別のサブサンプルに分けて回帰分析を実施しているため、有意か否かは世帯員数別のサンプルサイズにも依存している点には留意が必要である

同様にして、2人以上の世帯の場合で見ると、今度は25~34歳よりも他の年齢階級の方が相対的に消費額は大きい傾向にある(棒グラフが上方に表れることが多い)。つまり、世帯人員数(1人世帯か2人以上世帯か)によって25~34歳の相対的な消費額の大きさが異なっている。これは、何人で暮らすかという決定には、その人の消費に対する考え方(好み)や決定に至った状況が反映されるためだと考えられる。例えば、25~34歳で1人世帯を形成する人は、誰かと同居して暮らす人(2人以上世帯)に比べて金銭がかかっても1人で暮らしたい、あるいは金銭をかけられる状況の人である可能性がある。

図表4には消費支出総額の結果を掲載したが、世帯人員数と労働投入量の関係を論じるには、より詳細な分析が必要となる。同じ消費支出総額であっても、高度に設備投資がなされた工業製品を消費するのと労働集約的な産業で得られるサービスを消費するのでは、その消費支出分の生産に必要な労働投入量が大きく異なるからである。

そこで図表5では、支出額を「保健医療、介護サービス」に絞り、図表4と同様の分析を行った。「全国消費実態調査」において「介護サービス」の支出額が捉えられるのは2004年調査からであるため、図表5は2004年以降の3回分の調査のみを用いている。

図表5 世帯員の年齢が「保健医療、介護サービス」支出額に与える影響

年齢が「保健医療、介護サービス」支出額に与える影響年齢が「保健医療、介護サービス」支出額に与える影響出所:総務省「全国消費実態調査」(匿名データ)(平成16年、平成21年、平成26年)
※棒グラフの数値は、世帯別の「保健医療」と「介護サービス」の支出額の合計額(対数値)を被説明変数とし、年齢階級別の人員数を説明変数とした際の係数をもとに、25~34歳の値を基準値(0)とした各年齢階級の値である。回帰分析は、世帯人員数別のサブサンプルに分け実施した。制御変数として、持ち家であるか否か、世帯の年齢収入額(対数)、世帯の貯蓄額(対数値)、世帯の負債額(対数値)、調査年を考慮した
※棒グラフには、基準となる25~34歳と各年齢階級との間で検定を実施した結果、5%水準で有意だったもののみに数値を付与している。ただし、世帯人員数別のサブサンプルに分けて回帰分析を実施しているため、有意か否かは世帯員数別のサンプルサイズにも依存している点には留意が必要である

それによれば、ほとんどの世帯あたり人員数において65~74歳、75歳以上の「保健医療、介護サービス」支出額が、他の年齢層よりも相対的に高くなっている。高齢の世帯員がいると、「保健医療、介護サービス」支出額が大きくなる傾向を示す。さらには、世帯人員数が1人から3人へと増加するにつれて、65~74歳の(25~34歳と比較した)支出比率が151%ポイント、55%ポイント、19%ポイント、同じく75歳以上でも180%ポイント、61%ポイント、27%ポイントというように、世帯人員数が大きくなるにつれて支出比率が減少している点は重要である。これは、世帯人員が多いことで家族によってなされるケアが増し、介護サービスを受ける程度が軽減する可能性を示す(つまり、家族によるケアと介護サービスの代替関係がみられる)。

ここまで、世帯人員数と消費支出との関係について論じてきた。「保健医療、介護サービス」支出の分析結果からは、家族によるケアと介護サービスとの代替性が垣間みられた。しかしながら、どのような場合に家族がケアを行い、どのような場合に介護サービスを受けるのか、またそれぞれの場合に世帯員はどのような時間の過ごし方や就業をしているのかといった点は「全国消費実態調査」だけではわからない。次のコラムでは、余暇-労働時間の関係性を中心に分析を行っていく。

(※)最新のデータが2014年というデータの制約上、2010年代に生じた女性や高齢者層の労働力率の上昇局面についての分析ができない。ただ、それよりも前の期間においては大規模な個票データにより長期間の分析ができる強みがある。

小前 和智

東京理科大学理工学部工業化学科卒業、京都大学大学院工学研究科合成・生物科学専攻修了後、横浜市役所などを経て、2022年4月より現職。東京大学大学院経済学研究科博士課程修了。博士(経済学)。

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