先進事例2 伊勢志摩賢島温泉 ばさら邸(接客マネジャー 喜田裕子氏)
働きがいとサービスの好循環はどのように生まれているのか
~伊勢志摩賢島温泉 汀渚 ばさら邸 従業員インタビュー
給与額の引き上げ、研修施設の新設などの改革を行ったばさら邸。そこで働く従業員は、どのように感じているのだろうか? 接客マネジャーとして働いている喜田裕子(きだ・ゆうこ)氏にお話を伺った。
働きやすい環境がやる気を高め、サービス向上をもたらす
――ばさら邸に入られたのはいつですか?
喜田「2015年、約2年前になります。以前は、宿泊業界とリラクゼーション業界で働いていました。前職のリラクゼーション施設のオーナーが三橋社長と親しく、私が宿泊業界志望ということで紹介していただいたのが、入社のきっかけです。現在は接客マネジャーという肩書きで、お客さまへの接遇、接客スタッフの管理・教育などを担当しています」
――三橋社長に、ばさら邸の給与水準が高いと伺いました。
喜田「はい、その通りです。以前、別のホテルで働いていたときは、『この業界は給料が安いのが当たり前』だと思っていましたが、ばさら邸での給料は、その水準よりかなり高いですね」
――勤務時間はいかがですか?
喜田「同業他社に比べて、かなり短いです。1日8時間労働で、残業は長くても1時間。月に8回は必ず休んでいます。
残業が増えると、どうしても疲れがたまってきます。すると、お客さまへの気遣いもおろそかになってしまいがちです。また、忙しくてプライベートが安定しないと、仕事に悪影響が出てしまいます。そこで、『仕事が残ったら、ほかのスタッフに引き継いで休もう』というのが、会社のスタンスなのです」
――接客スタッフは、女性の方が中心ですね?
喜田「そうです。中には子育て中の人もたくさんいますよ。勤務時間や勤務日の希望はかなり受け入れてくれますし、社内には事業所内託児所の『モアレキッズ』が設置されていて、保育士さんに子供を頼むことができます。こうした仕組みが整った職場は、私が知る限り、宿泊業ではそれほど多くないかもしれませんね」
――働きやすい環境が揃っていると、仕事へのやる気も出るのでしょうか?
喜田「そうですね。従業員を大切にしてくれている分、会社に報いたいと思いますね。また、仕事に打ち込むことができるので、お客さまから『ありがとう』と感謝される機会も多い。それが、仕事への原動力になるのです」
仕事に専念できる環境作りが好循環を生む
――ばさら邸ではITシステムの充実も心がけているそうですね。
喜田「はい、お客さまに喜ばれるため、ITシステムを活用した顧客管理にこだわっています。お客さまの情報は、お食事の好み、訪れた観光地、細かなご希望などを全て登録し、次回のご来訪時に役立てます。例えば、前回湯たんぽをお求めになった方には、先回りしてお部屋に用意したりしますね。
ばさら邸では、『ほどよい距離感』を大事にしています。いちいちお客さまにお伺いするのではなく、蓄積された情報を活用し、先回りしてサービスを提供するようにしています」
――リピーターの方は多いのですか?
喜田「多いですね。お客さまによっては、月に1~2回のペースでご来館いただきます。『自宅にいるみたいにくつろげる』とお褒めいただくこともよくあり、そのときは本当に嬉しいですね。お客さまの笑顔が私たちにとっての喜びになり、そのエネルギーがさらに良い接客をもたらすという、良い循環ができている気がします」
――社内研修が充実しているそうですね。
喜田「はい、そこは本当に自慢できる点です。社内には言葉遣いや接客のノウハウに詳しい『接遇のプロ』がいて、さまざまなことがらを学べますし、外部のトレーナーの方に教わる機会もあります。室内に生けてある花についてお客さまから質問されたら、お花の先生に知恵を借りることもできます。私自身もそうですが、経験の浅い若手スタッフは、本当に心強いと思います。
当社にも退職するスタッフはいますが、離職率は低いと思います。離職する場合も、待遇に不満があるのではなく、キャリアアップを目指してといった前向きな理由がほとんどです。例えば今の総料理長は、スタッフ時代に一度ばさら邸から離れて他社で経験を積み、実力を磨いて、再び総料理長として迎え入れられたのです」
――とてもやりがいのある職場なんですね。
喜田「そうですね。ただ、社員に対して甘いだけの会社ではありません。お客さまに対しては、最善の接客をしなければなりませんし、厳しい部分は当然あります。ただ、皆で切磋琢磨し、よりよいサービスを目指そうとする前向きな雰囲気があるので、それが働く側にとっては嬉しいですね。休みになると、皆がほかの旅館やレストランを利用して、その結果を同僚に報告し合うことがよくあります。長時間労働の必要がなく、仕事にエネルギーをぶつけられる環境があるからこそ、こうした雰囲気が生まれているのでしょう」
(TEXT=白谷輝英 PHOTO=平山論)