先進事例1 鶴巻温泉 元湯陣屋(接客スタッフ 江畑真理子氏)

2017年05月17日

「陣屋コネクト」は働き方をどう変えたか
~鶴巻温泉 元湯 陣屋 現場インタビュー

宮﨑氏の言葉にあったように、陣屋では統合管理システム「陣屋コネクト」を開発・導入している。ITの導入によって、接客スタッフの働き方はどのように変わったのか。陣屋で接客スタッフとして働く江畑真理子(えばた・まりこ)氏にお話を伺った。

陣屋コネクトがなければ仕事にならない

――陣屋に入られたのはいつですか?

江畑「もう20年くらい前ですね。最初はパートで働いていたのですが、子供が大きくなって育児の負担が減った10年くらい前から、社員として働いています。現在は、客室で接客業務を担当しています」

――陣屋では早い段階から「陣屋コネクト」などの新たな仕組みが導入されていました。戸惑うことはありましたか?

江畑「戸惑いはありませんでした。もともと新しい物好きでしたから、インカム、続いてiPadが導入されたときも、『新しい物を使えて楽しい』と感じていました。それに、それまで館内を走って伝言していたのが、その場で端末を使って情報共有できるのは便利だと感じました。
同僚の中には、iPadを使いづらそうにしていた人もいました。でも、しばらくすると皆慣れましたね」

――お客さまに関する情報は、陣屋コネクトに事細かに記録するそうですね。具体的には、何を記録するのですか?

江畑「なんでも、です。例えば、お客さまの飲んだお飲み物、お酒の好み、残したお料理、アレルギーの有無、お誕生日などです。お部屋を出ると、そうした情報をすぐに記録するのが習慣になっています」

――残した料理まで記録するのですか?

江畑「そうです。『この料理は口に合わなかった』と、私たちにはっきりおっしゃるお客さまは少数派。ですから、お客さまの好みは残した料理の量で判断するのが一番なのです。好まれたもの・苦手とされたものを記録しておけば、次にご来館いただいたときに、先回りしてお好みの料理・お酒を提供することができます」

――1日に担当される顧客は、何組くらいですか?

江畑「基本的には、1人の接客担当が1部屋(1組)のお客さまをお世話します。ただ、時には1人で3部屋を掛け持ちすることもありますね。そんなときはどうしても混乱してしまいますので、iPadでお客さまのお名前、好みなどを把握できることがとても役立っています。
陣屋コネクトがなければ仕事にならない、という感じです。この点は、ほかの旅館とは大きく違うでしょうね」

――1日の勤務時間のうち、陣屋コネクトを使っている時間はどのくらいの割合ですか?

江畑「かなり長いですね。もちろん、仕事の中で最も長い時間を費やしているのは接客業務です。でもそれ以外は、お客さまの情報を記入したり、これからお見えになるお客様の情報を確認しながら準備をしたりと、ほぼ陣屋コネクトの画面と向き合っている気がします」

ITによって情報共有が容易になり接客の質が向上

――陣屋コネクトによって、接客の質は高まったのでしょうか?

江畑「それは間違いありません。例えば、誕生日を迎えたお客さまのためにバースデープレートを用意したとします。そうしたら、その写真を必ず撮影しておくのです。すると、翌年同じ方にバースデープレートをお出しするとき、前年とは違うアレンジを加えれば喜んでいただくことができるでしょう。
あるいは、お客さまが珍しいお酒をお好きだと分かっていたら、予約をいただいた時点で先回りして、仕入れ担当者に伝えて注文しておくのです。そしてお食事の際にお勧めできれば、満足していただける可能性が大です」

――もし珍しいお酒を仕入れても、当日、お客さまが注文しないケースもありますよね?

江畑「もちろん、そういうケースもあります。でも、接客担当者が責められたりすることは一切ありません。『お客さまをもてなすための工夫なら、失敗を恐れずどんどんやるべし』という考え方が、根本にあるのです」

――陣屋コネクトを使うようになって、お客さまと触れ合う時間は長くなったのでしょうか?

江畑「接客時間そのものは、以前とそれほど変わらないのかもしれません。ただ、お客さまと触れ合う『密度』は、とても濃くなったと感じます。陣屋コネクトを見るだけでお客さまの好みは分かりますから、余計なことをおたずねする必要がなくなりました。その分、お客さまとさまざまなお話をすることができ、より親密に接することができるようになっています」

――陣屋で使われている陣屋コネクトは、かなり頻繁にアップデートされるそうですね。混乱されることはありませんか?

江畑「時折、全く新しい機能が追加され、ちょっとだけ驚くこともあります。でも、分からないことがあればITの担当者に聞けばいいし、やりにくい部分があれば、社長に直接意見をしても構わないのです。皆であれこれ言い合いながら、よりよい仕組みをつくっている段階ですね」

――陣屋コネクトは、江畑さんの働き方をどのように変えたのでしょう?

江畑「ムダな仕事が減り、接客に集中できるようになりました。おかげで、お客さまに喜んでいただける機会も増えた気がします。
そういえば、館内の建て替え工事を行ったとき、お客さまの情報を手書きで保存していた頃のメモの束が大量に見つかったことがありました。おそらく当時は、せっかく取ったメモも、十分に生かしきれていなかったのだと思います。そう考えると、陣屋コネクトは本当にありがたい存在。お客さまから『ありがとう』の言葉をたくさんいただくことで、こちらも元気になれますから」

(TEXT=白谷輝英 PHOTO=刑部友康)