~「#大学生の日常調査」定量分析①~大学生活で豊かなギフトを獲得するポイントは何か?
豊田義博
リクルートワークス研究所 特任研究員
ゼミナール研究会 主宰
「『#大学生の日常』に埋め込まれた学習」モデルを検証する調査
学びの場、趣味やスポーツの場、働く場、遊びの場。「大学生の日常」とは、そうした場=コミュニティのいくつかに身を置き、コミュニティでの活動を通して、そこにいる人とのつながりを作っていくことだ。そして、そのつながりから、人は「安心」「喜び」というベースギフト、「成長」「展望」というクエストギフトを受け取る。そして、そのギフトが、生きていく上でのものの考え方やことへの対し方、つまりは姿勢や価値観=態度を創り上げていく。これが、私たち「ゼミナール研究会」が構想した「『#大学生の日常』に埋め込まれた学習」のモデルだ。
図表1 「#大学生の日常」に埋め込まれた学習モデル
このモデルを検証するために、「#大学生の日常調査」を実施した。大学で人文・社会学系学部に所属し、卒業後に何年か働いている20代後半の社会人=ビフォーコロナの大学生を対象に、まずインターネットモニターを活用した定量調査を実施し、回答者のうち20名を対象にインタビュー調査を行った。先行した定量調査の概要は以下の通りだ。
◎調査対象 : 大学(人文・社会学系学部)を卒業し、現在三大都市圏で働いている25~29歳の男女1000名
◎調査方法 : インターネットモニター調査
◎調査内容 : 現在の就業実態、大学時代に所属していた集団(コミュニティ)での活動状況など
◎調査時期 : 2021年1月
本稿では、定量調査の分析の導入として、ビフォーコロナの大学生のコミュニティ参加の実態と、ギフトの獲得状況を概観していく。
最もかかわりの深かったコミュニティは?
彼ら・彼女らは、どのようなコミュニティに参加していたのか。専門ゼミなどの学びコミュニティ、学内外のクラブ・サークルどのテーマコミュニティ、働く場としてのバイトコミュニティ、友達コミュニティを分類した18項目を提示し、在学中の所属状況を尋ねた(図表2)。
図表2 大学時代に所属していたコミュニティ
所属率が最も高かったのは「アルバイト先(65.6%)」、次いで「学内のクラブ・サークル(57.4%)」。過半には届いていないが「専門ゼミ」「1年次のクラス」「大学時代にできた友達・遊び仲間」「高校時代までにできた友達・遊び仲間」の4つが40%を超えている。それらから数字の開きはあるが「初年次ゼミ」「(ゼミ以外の)少人数講義・演習」「自主的に集った学内外の学び仲間」が続いている(※1)。
一番手、二番手には学びコミュニティが来てはないが、公式、非公式のものを含めた学びコミュニティのいずれかに所属していた人は86.3%。学びが「大学生の日常」の中核にはあるようだが、必修科目の場、所属することが定められていた場がその中心なので、このデータだけでは断言はできない。
調査では、所属していると回答したコミュニティの中で「最もかかわりの深かったコミュニティ(以下トップコミュニティ)」「2番目にかかわりの深かったコミュニティ(以下セカンドコミュニティ)」「3番目にかかわりの深かったコミュニティ(以下サードコミュニティ)」を尋ねている。物理的な時間ではなく、気持ちの上で大学時代を代表するコミュニティを回答してもらった。結果は図表3の通りだ。
図表3 大学時代にかかわりの深かったコミュニティ
トップコミュニティの最上位は「学内のクラブ・サークル」、29.5%と他を大きく引き離している。3割弱の人が、キャンパスライフというと、何といってもクラブ・サークルだった、と回想している。調査では、コミュニティの活動内容やテーマをフリーアンサーで回答してもらっている。その結果をワードクラウドというテキストマイニング技法(※2)によって視覚化すると、クラブ・サークルの過半はスポーツであることが顕著に浮かび上がる。野球、サッカー、バスケットボール、テニスといった正統的なものばかりではなく、インラインホッケー、フットサル、ラクロスなど幅広い。その他のジャンルとしては、音楽、演劇といったエンタテイメント系、ボランティア、国際交流といった社会活動系が浮かび上がる。部活動もあるが、その中心は圧倒的にサークルだ。
典型は「スポーツ系サークル」「販売・サービス業アルバイト」
それがセカンドコミュニティ、サードコミュニティになると、サークルの存在感は大きく低落する。代わって台頭するのは「アルバイト先」。いずれも20%を超えている。一にサークル、二にバイト、という「学び」なきキャンパスライフが代表的なものだ、ということか。ワードクラウドから浮かび上がるのは、飲食への集中ぶりだ。その他の個人向けサービス、小売を含めた販売・サービス業が大半を占める。そこに塾が一角を占めている。
図表5 「アルバイト先」ワードクラウド
サークルとバイト。この2つの存在感が大きいことは調査以前から予測されたことだが、それに続いている存在が「専門ゼミ」だ。トップ、セカンド、サードともに10%台中盤のシェアを占めている。専門ゼミが必修となっている大学も多く、2年ないしはそれより長い期間所属することもあり、人文・社会学系の学生にとっては、やはり大きな存在感を持っている。同程度の存在感を示しているのは「大学時代にできた友達・遊び仲間」。そして「1年次のクラス」も、3つのいずれにおいても10%前後のシェアを占める。「高校時代までにできた友達・遊び仲間」は、トップコミュニティでの存在感はさほどでもないが、セカンド、サードとその存在感を増す。
このデータには、もう一つ注目すべき点がある。それは、トップ、セカンド、サードの回答数だ。トップコミュニティの回答数は946。回答者1000人の大半が、どこかしらに深いかかわりを持っているが、どことも深いかかわりを持たなかった人が54人いる。また、セカンドの回答者は660人。サードの回答者は343人。つまり、かかわりが深かったのはひとつであるという人は286人、ふたつであるという人は317人、みっつないしはそれ以上であるという人は343人ということになる。本稿に先立つプロローグにおいて紹介した「マルチリレーション社会」研究においては、つながりの質と多様性が重要だと謳われている。かかわりの深いコミュニティが多くあれば、質や多様性が高まる機会は増すだろう。この点については、分析を深めていく中で検討する予定だ。
職場に比べて極めて高いベースギフト、クエストギフト
本題に入ろう。彼ら彼女らは、深くかかわったコミュニティから、いかほどにギフトを獲得していたのか。トップコミュニティでの「安心」「喜び」「成長」「展望」の獲得状況は以下の通りだ。
図表6 コミュニティから得られたギフト(トップコミュニティ)
いずれも高い獲得状況になっている。「とても当てはまる」に限定しても、安心(24.1%)、喜び(35.9%)、成長(25.8%)、展望(24.0%)という高水準だ。特に高いのは「喜び」である。「たとえ何もしなくても、一緒にいることで喜びや楽しみを感じられた」というギフトは、心を許せる仲間とのつながりがあって初めて得られるものだ。の他のギフトも、4人にひとりが「とても当てはまる」と回答しているのは十分に高い数字だといえる。
この獲得状況の高さは、彼ら彼女らが、現在働いている職場から得ているギフトとの比較から、より明らかになる(図表7)。数字の上で顕著な差が生まれているのは、やはり「喜び」だ。「とても当てはまる」を見ると、大学時代のトップコミュニティとは24ポイントもの差がある。大学時代のコミュニティの方が、はるかに「ありのままでいられる」のだ。だが、高いのはベースギフトだけではない。クエストギフトにおいても、「とても当てはまる」のスコアは、「成長」「展望」ともに、大学時代のトップコミュニティの方が10ポイント近く高くなっている。
図表7 現在の職場から得ているギフト
コミュニティ種類、人数、構成員によってスコアはどう変わる?
ここからは、「安心」「喜び」の回答結果の合計得点をベースギフトスコア(以下ベーススコア)、「成長」「展望」の回答結果の合計得点をクエストギフトスコア(以下クエストスコア)とし、様々な対象とそのスコアとのクロス分析データを見ながら話を進めていきたい(※3)。
コミュニティの種別によって、得られるギフトにはどのような違いがあるのだろうか。かかわりが深いと回答した比率が高い6コミュニティに絞ってその違いを算出すると、「学内のクラブ・サークル」「大学時代にできた友達・遊び仲間」「高校時代までにできた友達・遊び仲間」からは、やはりベーススコアを高く得ているという傾向がはっきりと見て取れる。クエストスコアは、「アルバイト先」「学内のクラブ・サークル」「大学時代にできた友達・遊び仲間」が同レベルで並ぶが、「専門ゼミ」も健闘している。しかし、その差はベーススコアに比べれば小さく、コミュニティ別に大きな差はみられない。
図表8 コミュニティ別のギフト(ベース・クエスト)
次に、コミュニティの構造に注目しよう。コミュニティの人数によって、得られるギフトには差があるだろうか。ベーススコアを見ると、少数であるほど、あるいは大所帯であるほど高く、15~19名という規模が底になっている。また、クエストスコアにおいては、規模が大きくなるほど高まるという傾向だ。少人数のコミュニティの多くは、友達・遊び仲間であり、大人数のそれは、クラブやサークルが多い、ということがこうした傾向につながっているものと考えられる。
図表9 コミュニティの人数とギフトの関係(トップコミュニティ)
コミュニティにどのような人がいるか、についても、違いが見られた。大半のコミュニティには同級生がいるので、その数字を平均と置けば、上級生・下級生や他大学の学生がいると、ベーススコアは高まる傾向にある。大学教員以外の社会人がいる場合も同様だ。クエストスコアを見ると、社会人、大学教員がいると、高まる傾向にあるが、上級生・下級生や他大学の学生の存在も、押し上げる効果がある。同級生だけではなく、コミュニティに多様性があるほうが、ベーススコア、クエストスコア共に高まるといっていいだろう。
図表10 コミュニティ構成員とギフトの関係(トップコミュニティ)
しかし、大学教員が存在するコミュニティは、ベースギフトが低い傾向にある。教員が構成員となるのは、大学が提供する学びの場であり、必修科目であったり所属することが定められていたりするものなので、この傾向は一概に教員の存在自体に起因するものとはいえないし、そもそもそのような場にはクエスト性があれば十分であり、ベース性は必要ないと考えている教員もいるだろう。しかし、ベーススコアとクエストスコアは高い相関性を持つ(※4)。ベース性を高めることが、クエスト性を高めることにもつながるのだ。
また、ベーススコアが最も低い15~19名というコミュニティの人数は、専門ゼミに代表される少人数での学習機会の標準的な人数と重なる。この人数で高いベース性をもつコミュニティを形成する難易度が高いことを、データは示唆している。専門ゼミの定員は、学生数とゼミ数とのバランスから算出されるケースが多い。教員の中には、一桁台が望ましいという声もよく耳にする。一方で、構成員の多様性、グループダイナミクスなどの観点から15~19名程度の人数を好ましく思っている教員も少なくない。この点については、連載の後半で、改めて触れていきたい。
コミュニティ選択視点の重要性
ここからは、コミュニティと本人の意識や行動、経験との関係を見ていこう。コミュニティのベース性、クエスト性には一定の傾向があるが、すべての構成員か同等のギフトを獲得するというわけではない。参加者がその場にどのような姿勢で臨んだのか、どのような役割を果たしたのか、そしてどのような経験をしたのかによって、得られるギフトは変わるはずだ。
まずは、コミュニティ選択視点から見てみよう。どのような動機で、あるいはどのようなきっかけでそのコミュニティに所属するに至ったのかは、人それぞれだ。「ゼミナール研究会」は、初年度の活動を通して、「4つのゼミ選択視点」を取りまとめた(※5)。今回のリサーチにおいても、このフレームを活かし、コミュニティ選択の際に、どのような視点を重視したかについて、「外形(興味・関心の持てるテーマか、学生間の評判・人気はどうか)」「経験(どのような経験ができるのか)」「環境(そのコミュニティが自身にとって快適かどうか)」「展望(そのコミュニティへの所属を通して自身がどうなりたいか、何を得たいか)」の4視点に加え、「つながり(他者からの推薦や勧誘)」を加えた5視点それぞれについて尋ねている。そして、その回答結果を、それぞれの視点を「重視した」「重視しなかった」に二分し、ギフトの獲得状況を概観した(図表11)。
図表11 コミュニティ選択視点とギフトの関係(トップコミュニティ)
分析結果から見えてくるのは、いずれの視点を問わず、コミュニティ選択において意図や意思を明確に持っていた人は多くのギフトを獲得しているが、さほど深い動機や目的を持たずにコミュニティを選んだ人が得ているギフトは少ない、という顕著な傾向だ。
近年の大学生活は、授業への一定回数以上の参加を単位取得の要件とする傾向の高まりにより、時間的制約はかつての大学生より増してはいるが、それでもなお、選択の自由度は高校生までに比べて、そして社会に出て以降に比べてもはるかに高い。しかし、一方で大学生活が画一化しているのも事実だ。サークルに入り、バイトして、友達作って、コスパのいい授業をとって単位を楽に取って、、、という不文律のような世界が、大学生の在りようを規定している。結果として、サークルに入ること、バイすることが「目的化」する。「みんながやっているし、大学生活ってそういうもんだし」という動機なき参加が生まれる。こうして、コミュニティに参加してはいるが、豊かなギフトを得られていない、という大学生が増えているようにも感じる。権利として獲得している自由を持て余しているとすれば、「大学生の日常」は実りのない時間になってしまう。このデータからは、大学生活をどのようなものにしたいか、というビジョンを、学生一人ひとりが抱いていることの大切さが改めて確認できる。
コミュニティで果たした役割がギフトを高める
所属したコミュニティで果たした役割とギフトの関係はどうだろうか。本リサーチでは7つの役割(オーナー、リーダー、マネジャー、ティーチャー、フロントランナー、アドバイザー、サポーター)について、明示的な役割、自発的な行動の別を問わず、自身がそのコミュニティにおいて果たした度合を3段階で尋ね、果たした役割をスコア化した。回答傾向を見ると、半分以上の役割をしっかりと果たしていたと回答する「役割高群」が2割いる一方で、参加はしていたものの、上記の役割をまったく担っていなかったと回答する「役割なし群」も2割存在していた。そして結果は明白なものであった。役割高群が得ているギフトは顕著に高く、役割なし群が得ているギフトは明確に少ないのだ。
図表12 コミュニティで担った役割とギフトの関係(トップコミュニティ)
役割とは、誰かから賦与されるものではない。コミュニティの状況を見て、自らが果たせる、果たしたい、果たすべき役割を見出し、その役割を主体的に果たしていくものだ。指名される、選挙で選ばれるという役割ももちろんあるが、基本となるのは状況対応的なものだ。リーダーシップはAppointed Leadership, Elected Leadership, Emergent Leadershipに3区分されるという研究があるが(※6)、この考え方はリーダー以外のすべての役割にも応用されるものだ。自らが役割を買って出るという行為は、主体的にコミュニティとかかわろうとする態度が形成されていることを現しているとみることもできる。もちろん、与えられた役割にも価値はある。役割を得ることにより、コミュニティに向き合う姿勢が変わることもまた大きく期待できる。いずれにしても、役割という観点は、コミュニティで得られるギフトを高めるうえで極めて重要なものだ。
影響を受けた人、転機イベントが態度形成をもたらす
コミュニティへの所属によって、人には何らかの変化が現れる。コミュニティを構成している他者との対話、相互作用を通じて、人は何らかの影響を受ける。多くの場合は無自覚に。しかし、特定の人に大きく影響を受けることもある。また、そのような他者との相互作用を中心とした経験を通して、ものの考え方やことへの接し方が変容することもある。新たな態度(姿勢・価値観)が形成される、その人にとっての転機となるイベントが発生することもある。そのような人物がいたか、そのような転機イベントがあったかについても、今回の調査では尋ねている。影響を受けた人がいたと答えた人は、トップコミュニティでは49.4%、セカンドでは34.1%、サードでは33.2%。転機イベントがあったと答えた人は、トップ54.3%、セカンド35.6%、サード32.9%。トップコミュニティは、その人の態度形成に大きなインパクトを及ぼす場だということが改めて確認される。そして、影響を受けた人、転機イベントの有無とギフトとの間には、当然のように明確な関係がある。
図表13 影響を受けた人・転機イベントとギフトの関係(トップコミュニティ)
ここまで、コミュニティから得られるギフトと様々な対象との関係を見てきた。最後に、所属していた大学自体との関係があるかどうかを見てみたい。ここでは、入学時の偏差値との関係を見てみた。結果は図表14の通りである。
図表14 入学時の偏差値とギフトの関係(トップコミュニティ)
これまで見てきた対象との関係で見られるような差はほとんど見られない。大学の偏差値レベルがどのようなものであっても、コミュニティから得られるベースギフト、クエストギフトは大きくは変わらないようだ。しかし、小さいながら差も認められる。実は、偏差値によって、所属コミュニティの分布には大きな差がある。この点に関しても、分析を深めていく中で、掘り下げていく予定である。
次回は、もうひとつの重要な観点である「環境適応性」について概観する。
(※1)回答結果は、項目によっては、実際の所属率より下回った数字になっている可能性がある。それは、質問文が「あなたは、大学在学中にどのような集団に所属していましたか」と表記されていたことによる。授業を受けていても、共に学ぶ学生を集団とみなしていない、アルバイトに行っていても、一緒に働いている人の集団に所属したと認識していない場合が考えられる。また、「大学時代にできた友達・遊び仲間」の数字は、サークルなどその他の集団と重なっていることが多いため、回答者が重複を避けるように回答したことで、低めに出ている可能性があると考えられる。
(※2)与えられた文書の中でその単語がどれだけ特徴的であるかを数値化したスコアをもとに、スコアが高い単語を複数選び出し、その値に応じた大きさで図示する技法。数値化にあたっては、頻度を中心に品詞の特性を加味している。
(※3)回答結果を、「とても当てはまる=5」「やや当てはまる=4」「どちらともいえない=3」「あまり当てはまらない=2」「まったく当てはまらない=1」と換算している。2~10の間に分布。
(※4)トップコミュニティにおけるベーススコアとクエストスコアの相関係数は0.678であり、高い相関性を示す。セカンドコミュニティ、サードコミュニティになると、その数値は0.534, 0497と低下する。
(※5)豊田義博「ゼミナール選択のメカニズムを解き明かす―5つの学生タイプ、4つのゼミ選択視点―」Works Review 2020, リクルートワークス研究所
(※6)House, Robert J. and Mary L. Baetz, 1979, "Leadership: some empirical generalizations and new research directions," B. M. Staw ed., Research in Organizational Behavior 1, Greenwich, JAI Press, 341-423.