英進館株式会社 橋本 隆佑氏
※調査結果をとりまとめた研究レポート「UIターン人材活躍のセオリー」
東京での経験、転職先でのサポート。新しいスタイルを取り入れてトップクラス講師に
東京で塾講師として勤務の後、福岡へIターンし活躍する橋本氏と上司の木下氏にIターンの経緯とその活躍のポイントについて伺った。
【本人インタビュー】
英進館株式会社
橋本 隆佑氏
<プロフィール>
東京都出身。東京で契約社員として約10年勤務した後、2011年に英進館株式会社に採用される。
最終的な決断は「チャレンジしたい」という思い
―Iターンされた理由を教えてください。
大学を卒業後、資格試験の勉強をしながら、契約社員で塾講師をやっていました。資格試験もそろそろ見切りをつける時期かなと思い始めていた頃に、Uターンされていた以前の上司から「福岡でやってみないか」という誘いをいただきました。生まれも育ちも東京で、九州に行ったことがなく、正直、福岡が九州のどの辺りにあるかもよくわからない状態でした。
福岡に来た理由は、2つあるのですが、1つは、東京で正社員になると、今までの仕事の延長線になってしまい、自分が成長できないのではと疑問を持ったことです。もう1つは、中学受験をメインにやってきたのですが、東京で培ってきた技術がどれだけ活かせるか、チャレンジの意味も込めて、その土地でナンバーワンのところに入って自分を試してみたいと考えました。東京でも誘いがありましたが、最終的な決断は、「チャレンジしたい」というのが大きな要因です。
―転職された当初のことを教えてください。
3月に入社したのですが、そのときがちょうどいちばん忙しい時期でした。新たな学年がスタートしていると思って入社したら、東京と違って3月に公立高校の入試があって、相当ばたばたしているときだったものですから、自分も何もできない歯がゆさはありました。加えて、中学受験よりも高校受験のほうが中心だというのを知ったときに、「本当に自分が必要なのか」という不安を感じました。何事も、初めてのときは不安が付きまとうものなのだと思います。
身内もいないですし、最初は会社の人たちと仲がいいわけでもなかったので、たとえば病気とか何かで倒れたときはどうしようとか、いろいろ考えたこともありました。でも、徐々に、仲間も増え、話もできるようになっていきました。
―転職されて気をつけていたことを教えてください。
せっかく新しいものを持ってきたので、お互いにいい影響を与えあうためには、自分がやってきたスタイルも伝えていかなければいけないと考えました。福岡では、昔ながらの講義形式で、一方的に教えるスタイルが一般的です。東京でやっていたときは、問題を解きながら、解き方を発表させて、討論しながらやっていくというスタイルでした。
福岡でもそれを採り入れて授業をしてみると、子どもたちの反応もよくて、「やってきたことは間違いなかったんだな」と感じたので、あとは、自分のスタイルをほかの教師にも伝えて、採り入れられるところは採り入れてもらえればいいと思っています。
経営層が「変えていかなければならない」という姿勢を示してくれた
―転職後に苦労されたことはありましたか。
会社として実績が上がっているので、「何でわざわざよそ者を入れてくるんだ」という思いは、出てくると思うんです。「自分は、ここにあまり必要とされていないのかな」と悩んでいた時期もありました。
実績も出してないのに、ああだこうだ言っても、お互い、行き違いになってしまうので、最初は素直に受け入れました。ただ、半年くらいしてから、変えていかなければいけないところは、どんどん言うようにしました。というのも、「変えなければまずい」という危機感を、社長や取締役が提示し続けてくれたのです。会議のときに「東京ではどうだったのか」と自分に発言する機会をくれて、「こんなふうにやっていました」ということを少しずつ伝えていったら、「じゃあ、変えてみようか」と言われるようになりました。いつも「結果はもう過去のものなので、常に成長しなければいけない」と言われています。
―こちらに来て新たに学んだことはありますか。
営業活動ですね。顧客を獲得するための手法であったり、そういったところはとても勉強になりました。東京では、営業活動をしなくても普通に生徒が増えていく状況だったんですが、こちらでは、生徒がいっぱいいるなかでも、もっと生徒を増やすために何かしよう、と取り組むところが非常に勉強になりました。
―東京での経験が活きている部分は何かありますか。
福岡からも東京で受験をするケースも結構ありますので、そのときに、自分の情報は強みになっています。休みのときに東京に帰ったり、東京に出張して授業をすることもあるのですが、そのときは必ず、以前の仲間に連絡を取って、情報を集めています。
―Iターンした後に周囲で特にサポートしてくださった方はどなたですか。
2人います。1人は、入ったときに同じ部署で、東京から結婚を機にこちらに移住された方で、その方とは同じ教科で、自分が中学受験の最先端のところでやっていたっていうのをわかってくださる方だったので、いろいろと相談させていただいたのが1つです。同じ環境ではないにしても、もともと、東京出身の方だったので、「わかるよ。でも、福岡と東京で似ているところもあるでしょ」という感じです。
もう1人は、ここを紹介してくれた、以前の会社の上司で、今でも連絡は取り合っています。
福岡での生活についてはいかがですか。
住みやすさは、東京より福岡のほうがいいと思います。せかせかしてないですし、食べ物もおいしいですしね。自分は、生まれてずっと東京のせわしない環境で育ってきたので、来た当初はゆっくりになることに対する不安というか、変な違和感がありました。「こんなゆったりしていていいのかな」という感じです。双方の感覚が混ざっていって、今の生活リズムができあがったと思うので、今は、東京に行っても、あまりせかせかしないで済みますし、こっちに居ても、ゆっくりしすぎないように、感覚を研ぎ澄ませています。
Iターンしての満足度を教えてください。
今は、算数科の副主幹という責任のある立場にもなって、やれる範囲が広がったので、とても満足しています。ただ、これで完全に満足かっていうと、まだ、もっとやれることがあると思っています。たとえば、将来、自分で塾を立ち上げるとか、そういうイメージを持っています。そのときに、こちらでの経験はとても活きると思います。最初に立ち上げるとき、営業をしなければ人は集まらないから、そのノウハウを得ることができて、こちらに来てよかったなと思っています。
Iターンして活躍するには、本人の要因だけではない。受け入れ組織のサポートも不可欠だ。橋本氏の上司の木下氏に活躍のポイントを伺った。
【上司インタビュー】
英進館株式会社
木下 義史氏
違和感を提案してくること。提案されると「顧客のために」と足が止まる
―彼にどのような期待をされているのか教えてください。
塾業界は、特にローカルに閉じがちですが、首都圏、関西圏から入社してくれる中途のメンバーというのは、彼らが持つ情報を含めて即戦力だと思います。九州にいるメンバーが、肌感覚ではわからない情報を持っています。そういう役割でも、すごく期待されていると思います。
―彼のよいところはどんなところですか。
ある程度ほかの会社で活躍をしてきた中途採用の人たちは、入社したときに、違和感を持つと思うんです。彼のよいところは、その違和感を提案してくるところです。提案されてきたところで、私も1回足が止まるんです。「確かに、今まで流れでやってきたけれど、本当に保護者・生徒のためにいいものなのか、顧客のニーズに応えられているのか」と考えるようになってきて、その違和感は、すごく大事だと思うんです。彼の優れているところは、英進館の風土のなかで、ただ乗っかっているのではなく、ちゃんと提案してくるところです。
―活躍を促す組織の特徴があれば教えてください。
英進館のいいところは、風通しがよくて、社長から一職員まですごくクリアな企業であるところだと、私は思っているんです。社長の考えとか、やりたいこと、方針が全ての職員に見えてしまっているところが、英進館の大好きなところです。ですから、彼みたいな中途採用の職員がいても、きちんと抜擢されていくし、「ああ、それはいいんじゃないか」という発言をカリキュラムに採り入れていくという風土があります。
―活躍できている要因は何だと思いますか。
昔の殻を破れないというか、「俺はこうする」というスタイルであったら、活躍するのは難しいと思います。たとえば、「この会社の風土がこうであるなら、自分の持っているこういうところは役立つ。だから、これをさせてもらっていいですか」という取り組み方をする職員は、強いです。逆に、「俺はこういうスタイルだから、この会社のここが合わない」というやり方だったら、多分、駄目でしょう。彼には、それがないです。風土やこちらの意向をきちんとわかったうえで提案してきます。
―新たにUターンIターンの方を受け入れる場合にはどのような点を留意されますか。
風土になじめるように、「何か気になったことはあるか」と、違和感を聞き続けます。「前の会社だったらこうだった」というような違和感は全部潰しておかないと、不満になるだろうと思います。「前はこうしていた点が、この会社は全然できてないがいいのか」とか、「前の会社はこういうのができてなくて、ここはできていてすごい」とか、ありますよね。いろんなところで何か比べるものがあるので、その違和感は聞いておかないと、その人のパフォーマンスが下がると思います。そこは気をつけます。
【英進館株式会社 橋本隆佑氏 の活躍のポイント】
今回のインタビュー結果を研究レポート「UIターン人材活躍のセオリー」でまとめた3つのターニングポイントに当てはめると以下のポイントで整理される。
Iターンから活躍するまでの3つのターニングポイント※1
※1:3つのターニングポイント
UIターンから活躍するまでを入社までの「移住前」、入社後約半年までの「適応期」、入社後1~2年までの「活躍期」の3つの期間に分類して整理した考え方
3つのターニングポイントと学習3階層モデルの詳細については、下記の「UIターン人材活躍のセオリー」のレポートを参照
https://www.works-i.com/research/report/item/160407_uiturn.pdf