モンブラン・ピクチャーズ株式会社 吉田真也氏
※調査結果をとりまとめた研究レポート「UIターン人材活躍のセオリー」
異なるスキルが求められる世界に飛び込み、経験を活かし、新たな学びを重ね、大規模なプロジェクトをマネジメント
東京で約7年間の勤務の後、福岡へUターンし、モンブラン・ピクチャーズ株式会社でエンジニアとして活躍する吉田真也氏と上司の田中賢一郎氏にUターンの経緯とその活躍のポイントについて伺った。
【本人インタビュー】
モンブラン・ピクチャーズ株式会社
吉田 真也氏
<プロフィール>
福岡で大学を卒業後、東京のCG制作会社に入社。約7年勤務した後、2013年にUターンし、モンブラン・ピクチャーズ(株)に入社。
<会社概要>
2011年12月設立。本社所在地は福岡市中央区。3DCGアニメーションとモーショングラフィックスを軸に、劇場映画、キャラクターデザイン、プロジェクションマッピング、TVCM、ステーションID、企業CI、ゲームなど映像にまつわるさまざまなコンテンツを企画、制作。映画『放課後ミッドナイターズ』などのオリジナル作品の制作も展開。
この会社だったら自分の違う価値が出せる
―東京からUターンされた経緯を教えていただけますか。
「将来、福岡で生活したい」とぼんやりしたイメージを持っていました。妻も福岡の出身で、家族の中長期目標というと大げさですが、何となく「将来、福岡にまた住めたらいいね」とは考えていました。31歳の頃に、子どもが生まれたり、引っ越しを考えるようになったり、さまざまなタイミングが重なったので、家族で「福岡へのUターンを考えてみようか」という話をするようになりました。
もちろん、仕事面でのメリットも考えていました。福岡で働いている友人がいて、福岡のクリエイティブ業界が、すごく面白いことをやっているように見えていました。また、長い間、1つの会社で仕事をしていて、違うことにチャレンジしてみたいというタイミングも重なりました。
―すぐに転職先が見つかったのでしょうか。
次の就職先を決めて辞めたかったのですが、前職が忙しくて、特に地方に転職しようとなると、時間が全然取れなかったので、私の場合は、「辞めます」ということを先に伝えてから次の仕事を探しました。幸い、退職するタイミングと入社するタイミングは合いました。
―「この会社にしよう」と思われたのは、どういうポイントですか。
私がそれまでやってきたことと、モンブラン・ピクチャーズが得意にしていることは、求められるスキルが全然違いました。最初は「合わないだろうな」と思っていました。実際に社長やほかのメンバーと話すと、全然違うジャンルでしたが、私がやっていることに興味を持ってくれました。仕事をするうえで、「同じスキルを持った人がたくさんいて、みんなと同じように仕事ができる」というよりは、「全然違うけれど、この会社だったら自分の違う価値が出てくるかもしれない」ということが魅力的でした。むしろ、自分と同じような人がいないから魅力を感じたのかもしれません。
価値観には共感できて、そこはとても大事でした。オリジナルのコンテンツをつくろう、自分たちからアクションをして楽しませよう、としていて、このなかに自分が入ったら、すごくプラスになるのではないかと感じて、入社を決断しました。
7年の社会人経験がそのまま活きていて、そのうえに今の状態がある
―入社されて最初の頃のお気持ちを教えてください。
当初は、ワクワクはしていましたが、新しい仕事に慣れないところもありました。前職では、自分のチームも持ち、責任を持って仕事を回す立場でしたが、新しい会社では、誰かに仕事を教えてもらいながらやるとか、誰かと一緒でないと仕事ができない状態になってしまって、正直少し物足りなさもありました。ただ、徐々に仕事に慣れてくると、一気に仕事の満足度が上がっていきました。
―仕事の満足度はどのように変化していきましたか。
最初は、割り当てられた仕事をやりながら、自分で「こういうことをやろう」というものを、少しずつ増やし、1年ぐらい経った頃から社外の反響を得られるようになってきました。
2年後はますます増えてきて、「この調子でいけば、来年はもっと増やしていけるかな」という手応えも出てきました。仕事をするうえでは福岡は全然知らない場所だったので、そのなかで、社外に対して自分の売り込みを少しずつして、芽が出だしたかなという感じです。
―東京での経験が活きているなと思うところはありますか。
「東京でこれをやってきたから、今、福岡ですごく役立っている」というよりは、普通に、社会人のキャリアとして、7年やってきた社会人経験がそのまま活きている、そのうえにのっかって今の状態があるという感じです。転職したから、社会人スキルとか、ビジネスの進め方とかが変わるわけではないと思います。
Uターンでいちばん大きかったことは自分がはまる職場を見つけられたこと
―新しい会社で仕事の仕方は違いましたか。
まったく違いましたね。いちばん戸惑ったのは、今の会社には営業担当がいないんです。ほとんどがクリエーター、つくる人です。前職は、営業担当とクリエーターが分かれていたのですが、今はそういうフローではないので、最初は戸惑いがありました。以前の仕事では、私たちは、つくるもののクオリティーにだけ責任を持てばよかったのですが、今は、そうではありません。ビジネスのやり方の違い、それは大きかったです。
あとは、制作予算の管理やスケジュールの管理の違いはあります。前職は組織が大きかったこともあって、予算に応じて作業を進めていこうといったスキームがありました。今は小さな組織なので、スキームにのっとらなくても、言えば通じますし、届きます。組織が違うので、必ずしも以前と同じやり方がフィットするわけではないと思います。
Uターンの満足度は何点ですか。
100点です。ただ、誰にとっても必ず100点になるとは思わないです。自分がはまる職場を見つけられたことが大きかったと思います。就職は、タイミングがありますよね。どうしても見つからなかったら、福岡に引っ越すのをやめるという選択肢もありました。
これからの目標を教えてください。
自分が仕事を取ってきて、きちんと仕事をして、評価をいただいて、ということを増やしていくこと、だと思います。たとえば、今だと、会社のなかに自分と同じようなスキルを持っている人間はいないんですけど、もう1人増やすとか、そういうふうにしていけたらいいなと思っています。
Uターンして活躍するには、本人の要因だけではない。受け入れ組織のサポートも不可欠だ。吉田氏と日々一緒に仕事に携わる上司の田中賢一郎氏に活躍のポイントを伺った。
【上司インタビュー】
モンブラン・ピクチャーズ株式会社
田中 賢一郎氏
今ではもう、なくてはならない人材。会社の幅を広げてくれた
―採用に至った経緯を教えていただけますか。
われわれは、ただ映像をつくるだけではなくて、インタラクティブなコンテンツの企画、それに加えて、自分たちでコンテンツを持って、それを軸にエンタメを広げていきたいと考えてやってきました。そうすると、たとえば、映画を基準に考えると、大量のデータとリソースを管理し、効率的に運用しなければいけなくて、マネジメントが必要になってきます。ゴールまでそれをマネジメントできる、プロジェクトマネジャーの素養がある人がすごく欲しかったんです。
そのとき、彼がそういうポジションで、しかも、福岡に帰ってきたがっているということを聞きました。弾力性のある会社ではないので、1人を雇うのは決死の覚悟が必要なのですが、実際に会って話してみると、彼は考え方が非常にクールで明確で、自分の得意なところ、不得意なところもはっきりしていて「彼はマネジメントできる」と直感で思い、採用しました。
―社内では彼はどんな存在ですか。
今ではもう、なくてはならない人材です。いろんな経験をしていて、東京を基軸に、海外のクライアントとの仕事もしてきました。売上面では、まだ実績は足りないのですが、それまでにない、うちの会社の幅を広げてくれました。その点では既に非常に貢献してくれています。
―何が活躍できている要因だと思われますか。
いちばんは経験です。山の頂上にのぼって全体を見たら、本当に力が必要なところと大して力を入れなくていいところがわかると思うんです。彼は、一度ある程度経験しているからよくわかっていて、考え方がいつも客観的です。もともとクールな性格というのもあるかもしれないですが、以前の会社での経験も大きいんじゃないでしょうか。
サポートしたことは1つしかない。それは、チャンスを与えたこと
―組織として彼をサポートされていることを教えてください。
彼ぐらいの経験者に対してのサポートは1つしかなくて、チャンスを与えることです。人と会う機会を与えるとか、話が来たら彼に担当してもらうとか、彼が貢献できそうな案件が浮上したら、規模の大小にかかわらずアサインして、彼がチャレンジできるような機会を多く与えました。彼は、それをうまくマネジメントしてきたと思います。
―これから期待することを教えてください。
テクノロジーで効率よく、自分たちで持つであろうコンテンツをうまくコントロールしていってほしいし、外部のスタジオとリンクしないといけないので、そういうときにも大いに力を発揮してほしい。期待していることだらけです。
【モンブラン・ピクチャーズ株式会社 吉田真也氏 の活躍のポイント】
今回のインタビュー結果を研究レポート「UIターン人材活躍のセオリー」でまとめた3つのターニングポイントに当てはめると以下のポイントで整理される。
Uターンから活躍するまでの3つのターニングポイント※1
※1:3つのターニングポイント
UIターンターンから活躍するまでを入社までの「移住前」、入社後約半年までの「適応期」、入社後1~2年までの「活躍期」の3つの期間に分類して整理した考え方
※2:学習3階層モデル
UIターンターン人材の学習を「身につけたやり方・経験を捨てる」「経験をそのまま活かす」「新しい知識を獲得する」の3つの学び方として整理した考え方
3つのターニングポイントと学習3階層モデルの詳細については、下記の「UIターン人材活躍のセオリー」のレポートを参照
https://www.works-i.com/research/report/item/160407_uiturn.pdf